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100年の休暇  作者: 十月猫熊
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カティアがダンとリルの店を出て、領主様のお屋敷に戻る馬車を待合所のベンチに座って待っていると、この辺りでは見たことがないほど鮮やかな緑色の髪をした小柄な男が、待合所に入ってきた。


一瞬皆の注目を集めたものの、珍しい色だ、とジロジロと見ることは失礼にあたるので、常識ある人々は何事もなかったかのように視線を外した。


カティアの髪を見て示される反応と同じだ。


カティアも、綺麗な色、と思ってつい見てはしまったが、その後は失礼にならないよう、興味をそれまで眺めていた自分の手元の紙に戻した。


今日習ったレシピに書き漏れがなかったか、反芻していたのだ。


ふ、と自分の手元に影が差したので顔を上げると、緑色の髪をした男がカティアに歩み寄り、お辞儀をしてきたところだった。


「失礼ですが…カティア嬢でお間違えございませんでしょうか?」


知らない人にいきなり話しかけられたことなどなかったカティアは、驚いて、固まった。


緑色の髪の男は顔を上げて、じっとカティアの顔を見つめ、そして綺麗な整った顔に何を考えているかわからない笑みを浮かべた。


カティアはハッと我に返って、とりあえず頷いた。


こんなオレンジ色の髪、別人と間違えるわけがないのだ。

相手が誰か分からないが、嘘はつけない。


「我が主からお預かりしたものがございます。どうかお受け取りください」


何処から出したのか…その手には花束と、綺麗にリボンがかかった小箱があった。


このような秀麗な若い男性からプレゼントを渡されるなんて、普通の若い娘なら舞い上がるところだろう。…が、この男は自分からではなく、主からのものだ、という。


カティアは本当にどうしたらいいのか分からなくなって、助けを求めるように視線をさまよわせた。


待合所に居合わせた人たちは、興味津々で事の成り行きを見つめる者、眉間にしわを寄せて見てくる者など様々だったが、カティアを助けてくれそうな人はいないようだ。


とまどうカティアの手に、花と小箱を押し付けると、その男は一礼してまた笑みを浮かべ、去っていった。


男が待合所から出て行って、カティアは詰めていた息を吐いた。


手元には冬だというのに咲き誇る花。

小箱は大きさからいって、何らかの宝飾品だろう。


あまりに不気味な出来事に、カティアは眉間と鼻の上にしわを寄せてそれらを眺めた。


「とりあえず持って帰って、ご両親に今あったことをしっかり報告するといい」


顔見知りになっていた程度で話をしたこともなかった御者さんが、一連を見ていてくれたようだ。


そう言ってくれたおかげで、カティアは頷いて、出発準備が整った馬車に乗り込んだのだった。



カティアが持って帰った品とその出来事を聞いて、家族3人はそろって嫌そうな顔をした。


それでも花束は花瓶に生けられて暖炉の上に飾られ、みんなの見ている前で小箱を開けると、中からびっくりするくらい高価そうなイヤリングとネックレスのセットが出てきた。


みんな無言でそれを眺め、そして顔を見合わせた。


「とりあえず、それらに呪いの類はないことは確実だ。どういう事情なのか分からないし、とりあえずしまっておくしかないな」


領主様の館の敷地内には、呪いなどの災いを引き寄せるものははじかれて持ち込めないようになっているので、家に持ち帰れた時点で、呪いなどがないことは確実だった。


「そうね…今は分からないことだらけだし。不気味だからと売り払うのはいつでもできるわ」


普通の若い娘なら舞い上がりそうな贈り物だというのに、カティア本人も家族も誰一人好意的に受け取っていなかった。

むしろ、何か不幸の前触れとしか思えない。



その夜、カティアは、以前はラルフと一緒に寝ていた、今は一人で使っているベッドで膝を抱えていた。


もうこのベッドはカティアの匂いしかしない。

ここでラルフとその暖かさに包まれて眠っていた日々はもう遠い。


当時、毎日一緒に寝ていた二人だったけど、ある春の終わりの夜中、隣で寝ているラルフが苦しそうに呻いて、冷や汗を流しているのに気が付いた。


慌てて飛び起き、その体に触れてみると、熱かった。


すぐにマイクとモナの寝室の戸を叩いて二人を起こした。


カティアの話を聞いて、ラルフの様子を見た二人は、「ああ、これは…」と少し安堵の表情をしたので驚いた。


苦しんでいるのをみて安堵するなんてどういうことなのか、混乱するカティアを連れてモナは子供部屋を出た。


そして、今日のところはここで私と寝ましょう、そう言って夫婦の寝室にカティアを寝かしつけた。


それから丸二日、ラルフは子ども部屋から出てくることがなく、マイクが仕事を休んで付き添っていて、カティアはモナと眠った。


モナとカイトが、ラルフの二次成長がはじまったのだ、と教えてくれていたけど、それがどんなものか知らないカティアは、不安な時間を過ごした。


雑用係の仕事中も、気もそぞろになるほどだった。


そして三日目に、ようやく子供部屋に入ることを許された。


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