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白銀の都市⑥

「要点は二つです」


 そう言って、マーナリカは人差し指、中指、薬指をぴんと立てる。


「一つ、場所。平たく言えば、貴方方(あなたがた)三名をそれぞれどこに送り届ければ良いのか。こちらはお決まりですか?」


「なるほど。それなら大体決まってます。登笈とおいがステンネル領のセントホルン。俺がレアンド領のウインタニア。で、ルーンが———」


「私もセントホルンで大丈夫です。とりあえず、そこで」


 言葉を詰まらせたライアが隣に視線を向けると、彼女は特に迷うことも考える素振りもなく答える。

 三名はそれぞれ別の場所———というわけでもなかった。返答を受け取ったマーナリカは、今しがた聞いた地名を小さな紙切れに書き留めていく。


「ありがとうございます。運ぶ場所についてはうけたまわりました。では次に二つ目の、ルートについてですね」


「道筋か」


 ライアが首を縦に傾けつつそう返すと、マーナリカもそうだと表情で応えた。


「本日、月が見える頃に我らの雪馬車ゆきばしゃがこの街に遅れて到着致します。皆様にはそれに乗って、各々(おのおの)のご実家までお帰り頂きます。

 雪の中、北端の地で育った馬ですので、早くても二日ほどで目的地には着くことでしょう」


「二日って……えらく早ぇな。ここまで何日もかけて歩いてきたのが虚しくなりそうだ」


 雪道を平坦な道と同じ速度で抜けられるだけでもかなり変わってくるものだ。それに、アテリア王国の四大貴族よんだいきぞくが用いる雪馬車ゆきばしゃ。となれば、そのくらいはやってのけるだろう。だとしても驚異的な速さだが。

 とはいえ、王国領アテリアは平坦な地形が多いのだ。地図で見れば同じ距離でも、実際に走るとかかる時間は変わってくる。そういうところもあるのかもしれない。


 ともあれ、そんなに早く帰れるのであれば願ったり叶ったりである。ここにはいないが、登笈とおいも諸手を挙げて喜ぶだろう。


「ご希望であれば夜も走り通しますが、予定では道中の村や街で休息を取るようになっております。ここは出発までに皆様でお考えになりますよう」


「了解っス」


 ライアがうなずくと、マーナリカは満足した様子で肩の力を抜く。

 ヴェステン公の使者という名を背負ってきたとはいえ、眼前の相手は両者ともに貴族の子息。片方は彼女の主人と同等の地位を持つ一族の出身である。外面を取り繕うことは出来ても、内心は粗相が無いかと不安で仕方がなかったのだ。


 だが、ライアもルーンも、相手の態度に対して自分達の生まれや肩書きをぶつけるような理不尽をすることはない。彼女の不安は杞憂でしかないということは、この場の誰も知らないところである。


「時間をかけましたが、出発は今晩です。雪馬車ゆきばしゃは夕方頃に街の東門近くに到着するでしょうから、それまでごゆっくりおくつろぎください」


 観光もオススメですよ。と言い残して、マーナリカは最後に深くお辞儀。その後、音を立てずに部屋を出ていった。


「———……おぉ、何か不思議だな。いつの間にかもう帰れそうな空気出てきたぞ。びびったびびった」


 張りつめていた部屋の空気が柔らかくなっていく中、未だふかふかのマットレスに体を預けたままのライアは、口角を軽く持ち上げる。

 それを聞いて、ルーンもここ一番の嬉しさを隠せない笑顔を見せた。


「だねっ。しかも雪馬車ゆきばしゃだって、雪馬車ゆきばしゃ。ライアは知ってる?」


「……あぁ、そりゃ実家にもあったからな。ヴェステン公爵家こうしゃくけのモンとはレベルが違うだろうが」


 言いながら、天井を見上げるライア。

 雪馬車ゆきばしゃとは名称通り雪専用の馬車のことだ。人類の文献がそれ以上後ろのことは記していないというくらいに昔の時代から、それはあったというが。


「雪道を走るのは勿論だけど、どんだけ寒い気候でも大丈夫なように品種改良された馬ってのがいてな。そいつが引っ張る、雪が積もってようが何だろうが負けずに回る車輪のついた馬車……だったかな。

 とりあえず、爆速で帰れるのは間違いねぇよ」


 当然ながら、同じ雪馬車ゆきばしゃでも品質というものがあるが、それもヴェステン公爵家こうしゃくけの所有するものであれば疑いようがない。

 あとは身を任せて寝るでも景色を楽しむでも好きにしていれば良いと、欠伸あくびを漏らしながら、ライアは適当にそう言う。


「それは安心だねー。……でも出発が今晩ってことは、今のうちに観光済ませといた方がいいよね?」


 先程のマーナリカの言葉を思い出すように、ルーンはあごに白く細い指を当てながら、うーんと考える。

 壁時計を見やれば、短針は午後の三時を示していた。晩が正確に何時いつとは知れないが、思ったよりも時間は限られている。


「つっても、登笈とおいがもう先に出かけてんだよな? なら、あいつが帰ってきた時に誰もいなかったら困るだろ多分」


「たしかに……っ!!」


「出るとしてもどっちか一人ずつか、書き置きしとくか、だな」


 ハッとした表情でどうしようどうしようと目を回すルーンに、筋肉や骨の悲鳴を無視して起き上がろうとするライア。


「———ふっふっふ。困っているようですねぇ。その悩み、あたしが解決してみせましょー!!」

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