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白銀の都市⑤

「変な奴とはご挨拶ですね。私はアテリア王国ヴェステン領スノウエンデ所属、マーナリカ=フランバージュ。

 当代のヴェステン公より、貴方方あなたがた三名を無事に実家へ送り届けよとのご命令を預かった身です」


 きっぱりと、胸を張ってそう言い切るのは、身の丈ほどもある大きな翼と頭から生えた双角が特徴的な蝙蝠族(アンシリー)の女性、マーナリカ。

 彼女の訪問に、二人は目をぱちくりとさせてから軽い警戒を放っていたが、その発言を聞き、まずライアが骨をパキポキ言わせて上半身を起こした。


「北のヴェステン公の、使い」


 ヴェステン公爵家こうしゃくけ。アテリア王国の北部寒冷地帯に領地を持つ、四大貴族よんだいきぞくに数えられる名家である。彼女がその当主から命じられて、ライア達を実家———つまり、セントホルンやウインタニアに送ってくれるというのだ。

 が、その内容はともあれ、四大貴族よんだいきぞくの名代に対して、同じく四大貴族よんだいきぞくに連なる者がいくら怪我人といえど、寝転がったままで出迎えることは失礼であるとして、ライアは最低限の礼儀として体を起こしたのだった。


 因みに、アテリア王国の事情には学習院がくしゅういんの講義と噂話くらいでしか知識が無いルーンは、仲間の態度に合わせてこちらもぴしりと背筋を伸ばしている。両手は重ねて膝の上だ。


「姿勢は崩していただいて構いません。長旅で心身ともに疲労が溜まっていることでしょうから、楽にしていてください。私からはこれからの予定の説明と、簡単な質疑応答を行わせていただくだけですので」


「……なるほど。それはありがたいんスけど、どうしても身体が強張っちまいますんで、このままで」


「そうですか。では早速、説明を始めさせていただきますね。

 まずは、私共の下に届いたこちらの書簡についてです」


 言い終えると、彼女は部屋の窓が閉められていることを確認してから、折り畳まれた一枚の手紙を取り出した。


「差出人は、臨山都市りんざんとしのシーボルト殿です」


「シーボルト……って、あのシーボルトさんか?」


「そうだよ、きっと私達を助けてくれたシーボルトさんだよ!」


 マーナリカの言葉を聞いてすぐ、ライアとルーンはパッと顔を見合わせる。そして、ティファリアで手厚い保護をしてくれた一人の騎士を頭に思い浮かべた。


 シーボルト=リテッド。聖王国せいおうこくの騎士にして、臨山都市りんざんとしティファリア駐留部隊の隊長を務める男。レベリオによるネサラ襲撃の折には、少数部隊を率いての負傷者救出や野盗の制圧、治安の維持に尽力した。

 その彼が、少しでもライア達の旅の助力となるように文をヴェステン公爵家こうしゃくけに送ったのだと、マーナリカは頷いてみせる。


「あとは先ほども述べた通りですが。

 彼からは、宮城みやぎ登笈とおい、ライア=レアンド、ルーン=スタリエ。以上三名の実家への輸送を依頼されております」


 彼女は淡々とそう語るが、本来であれば他国の騎士が他所の貴族に頼み事をする、ましてやそれが通るなどあり得ないこと。


 それがシーボルトの人望や性格、実力の成せるものか。あるいは、当代ヴェステン公にとって無視出来ない案件であったのかは定かではない。


 どちらにしても、ライア達の立場にしてみれば渡に船であることに変わりない。


「……んんん、あの人には本当に感謝してもしきれねぇくらいになっちまったなぁ」


「シーボルトさんもだし、他の……ライアお気に入りのサクサさんとか。ほんと、学習院がくしゅういん出てから人に感謝することいっぱいだよねー」


「だな。またお礼に来ねぇと」


 指を立ててそう言うルーンに、ライアは軽くうなずいて首肯する。


「こほん。———では説明を続けますが、すみません。今更で申し訳ないのですが、ええと、そういえばここにいるのは二名ですよね。お一人、今はどこかへお出掛けになられて?」


 と、そんな風に二人で話していると、マーナリカが素面を崩さずに、ただ声色だけは謝意増し増しで室内を見回した。


「あー、それに関しては俺も寝てたから知らねぇんスけど、結構前に出掛けてったみたいっス」

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