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白銀の都市③

 近隣がざわついていた。日常通りの風景と、少し元気な子供達。はしゃぐ声の隙間に混ざる、小さな小さな疑問の芽。

 僅かな数の視線を集め、ざわりざわりと声立てさせる二翼(ふたよく)の騎士は、そんな反応も慣れっこだとして、意にも介さず仕事を進める。


「ではテレジア、私は中で待つ彼らに挨拶をしてきます。貴女はここで待機、怪しい者は通さぬよう徹底してくださいね」


 二翼の片割れ、背の高い方がそう言って、背の低い方をこの場に留めた。


 彼女達が視線を集めるのは当然のこと。何故って、人とは違う姿形をしているのだから。

 とはいえ化け物ではない。異形でもない。ただただ細部が異なるだけ。それも当然。二人は人間とはまた違った種族、大陸東部の大森林だいしんりんに暮らす蝙蝠族アンシリー義姉妹しまいなのだから。


 蝙蝠族アンシリーの持つ特徴は、まず一つに側頭部の湾曲した双角。次に身の丈ほどもある、というかその身の体重を支えて空を飛行するための大きな翼。

 因みに、諸説はあるが、この翼の形状がコウモリに似ているところから、蝙蝠族アンシリーの名が付いたと言われている。あるいは、祖先が巨大なコウモリだったために、自分達から蝙蝠族アンシリーと名乗り始めたとも。


「任せてよ。あたしがここでどーんと見張っとくからさっ」


 とん。と、薄い胸板に拳を落として、背の低い方の一翼いちよく———テレジア=ギルティットは、満開の笑顔で自信満々にそう宣言する。


「そ。では、私は部屋に向かいます。アルフィディクス様がご到着なされるまでに、最低限の説明は済ませておきたいので」


「はいはーいっ。あたしはもう、くたくただからなぁ……。何が悲しくてあの(さっぶ)い吹雪の中を二往復もしなければならないのかってやつ」


「口が悪いですよ。ヴェステン公の命令なのですから、従う以外に選択肢はありません」


 むーとかみーとか唸るテレジアにぴしゃりと告げるのは、その上司であり義理の姉でもある蝙蝠族アンシリーの戦士、マーナリカ=フランバージュ。背の高い方の、というわけだ。

 彼女達は、ここラウンステッドより少し北東に進んだ先、国境を超えた向こう側、ここと変わらぬ雪と風に守護された都市スノウエンデより派遣された傭兵である。


 傭兵といっても、特に何かを攻撃するためにやってきたわけではない。むしろその逆。二人は、自分の足だけで極北まで遥々やってきた未来の種子を安全に家まで送り届けるために、先行してきたのだ。


「それにしても、お金が無いにしたって、貴族のお坊ちゃんがこぉんな安宿に泊まれるものなんだ?」


 高級なベッドと埃一つ落ちていない端麗な部屋。そんなところで過ごしている貴族の子息が、果たしてこんな場所で、と。

 ぎしり。ぎしり。と、軋む音を立てる階段を上がっていくマーナリカの背中を眺めながら、散らばっていく群衆の真ん中で、テレジアは別段深い意味もなく、そう呟いた。

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