表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/74

白銀の都市②

 それは、唐突とうとつの出会い。偶然の相対そうたい。見慣れた街を覆った炎と暴力、それを産んだ元凶の一欠片ひとかけら

 思えば、何処にでもいそうな、何処かで勉学に励んでいそうな、何処かしらの民家で平凡な暮らしをしていそうな、特別な何かの無い男性だった。それこそ、街中を歩いていても彼だとすぐには気付かないほどに。


 けれど、ディザイア=ラグナリアは殺人鬼である。少なくとも、宮城みやぎ登笈とおいという青年の視界を通して覗けば。

 瞳の裏に浮かぶ光景では、この男の足元に騎士や住民の死体が幾つも幾つも重なっている。


 そして。登笈とおいはこの男と文字通り命を賭けて戦った。抵抗した、と表現した方が正しいか。あの街で生き残るために。


「……ッ」


 生唾を飲み込んで、喉を鳴らす。

 油断をしていたのかもしれなかった。大陸中に名の広まったレベリオが、自分の顔を知っているディザイアがこんなところにいるわけがないものと思っていたのかもしれない。


 だが、そんな後悔を今しても仕方がないと、心の中を強引に整理しつつ、登笈とおいは静かに一歩後ろに下がった。何せ、今は武器けんを持ってきていない。街で帯剣をしているのもどうかと思って部屋に置いてきていたのだ。

 流石に、こんなにも人に溢れた場所で騒動を起こすとは考えにくいが、それは一般人での目線の話。ネサラであんな惨事を起こした連中の心のブレーキの保証など誰が出来るものか。


「あー」


 登笈とおいが最大限の警戒を見せていると、しかしディザイアは、ようやく気付いたとばかりに、面倒臭そうな表情を見せる。


「お前、あれか。ネサラの」


「……そうだ。僕も、貴方のことはよく覚えている」


 眠たそうな声だった。昼食をとって、丁度良い充実感に満足している時のように、覇気の感じられない声だった。

 返答を聞いてから、ディザイアは視線だけ動かして周囲を軽く確認する素振りをとる。


「あれで生きてるとは、悪運の強い餓鬼だなぁ、お前。……ミヤギっつったか?」


登笈とおいだ。親しい人はみんな、そう呼んでくれてる」


「いや親しかねぇんだからこれで正解だろ。何だお前」


 馬鹿を見るように、ディザイアがふっと笑う。そうしてから、数秒の沈黙が流れた。どうしたものかと、付き合いたての恋人同士のようにお互いが距離を測り合う。


「もう確認は終わったよな。なんか他に用事でもあんのかよ。わざわざ俺に殺されにでも来たか? この前と同じ丸腰で」


「僕と君がここにいるのは偶々(たまたま)だと思うけど。剣はまぁ、駐在騎士ちゅうざいきしに事情を聞かれるのも面倒だなと思って置いてきた。

 用事は特に無いよ。ただ、いる以上はこのまま目を放すのも怖いかなって」


「……はっ。そういうことなら、必要以上に怯えなくていいとだけ言っておいてやる」


 登笈とおいがその双眸そうぼうを捉えると、ディザイアは分かりやすく目をらして、やはり面倒臭そうに肩を持ち上げた。

 その所作から、彼が敵意や殺意を持っていないことに何となく察しを付ける。確証も理由も無いが、なんとなく。


「俺は俺で休暇を楽しんでんだ。お前を個人的に消しときたいってのは確かにあるぜ。その通りだよ。

 だが、こんなとこで人殺しなんて、それこそ自白するようなもんだろ」


 ラウンステッドの広場で出会ったお前の運の勝ちだと、彼は言外にそう告げる。


「視界から消えた後で、裏通りとかに僕を連れこんで殺す……とかは?」


 とはいえ、信用出来るはずもない。

 彼の側に立って考えれば、登笈とおいは自分の名前をレベリオという組織とセットで知っている唯一の一般人、だと思われる。であれば、気が気でないどころか、今すぐに始末しておきたいと考えるだろう。


 今のこの会話も、相手を油断させるための口上の可能性は高い。


 登笈とおい再三さいさん尋ねられて、ディザイアはしかし本当に怠そうに、面倒を超えて嫌悪すら示す顔で、はぁあとため息をつく。


「今んところ、俺の名前はニュースペーパーに載ってねぇ。指名手配されてもねぇ。そりゃお前が喋ってねぇってことだ。だから見逃してやるってんだよ。

 あとそんなに死にたかねぇなら部屋にでも引きこもっとけ。この辺、別に治安が良いわけじゃねぇぞ」


 と、言うだけ言って後はさようならとでも言うように、返答を待たずして背中を見せるディザイア。

 そのまま彼はどこぞへと去っていってしまう。それこそ、群衆の中に文字通り溶けていくように。あっという間に彼の姿が見えなくなったので、その場にぽつんと取り残された登笈とおいはというと、ぽかんと間抜けに口を開いたまま、


「……あ、それは、うん。確かにそうだ」


 一言の後、そっと頷いた。野盗もいるし、突然襲ってくる龍神族りゅうじんぞくもいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ