辿りついて
「……ライア、起きないね」
「まぁ仕方ないんじゃないかな。あれだけ頑張ってくれたんだし」
秒針の音が、静寂に亀裂を生んでいた。
つい最近も見たような覚えがしてくるような、包帯で身体中をぐるぐるに巻かれた親友の寝姿を見下ろしながら、登笈とルーンは落ち着いた声色で会話をしている。
「寝ていれば、良くなるでしょう。目に見える怪我は多いですが、大事に至るようなものはありませんから」
そう語るのは、ドアノブに手を掛けたまま器用にお辞儀をする、白衣の初老である。
龍羅と名乗る男との雪上戦を終えてから丸二日ほど。ライアは道中こそしっかりしていたものの、街に着いた途端に安堵して気を失ってしまったのだ。
とはいえ、医者の話によると、やはり気疲れなところが大きかったらしい。
寝込んでしまうほどの大怪我でもなく、一旦落ち着ける場所まで到着したことで緊張の糸が切れてしまったのだろうと、二人は無言のままに察していた。
「いっつも、一番早くから起きてたもんねー。ゆっくりさせたげないとだ」
言いながら、ルーンは一人掛けのソファから立ち上がって、テーブルの上の昼ご飯に手を出す。
昼前に近場の露店で買ってきておいたサンドイッチが五つ。ライアが目覚めたらと彼の好物を彼女が選んだものだ。
「それにしても、すっごい寝るねー。お腹空かないのかな? はむっ。あ、美味しいかも」
「カツサンドある?」
「あるよー。登笈、揚げ物大好きだもんねー。男子って感じ」
「まぁ男子だからね」
因みに、ルーンの好物はカレー系統全般である。今のところカレーサンドというのは見たことがないので、今回は果物とクリームが挟まれた何とも甘そうなサンドイッチが彼女の胃袋に入っていった。
「僕これ食べたら出掛けてくるけど、ルーンはどうするの?」
仔牛のカツ特有の芳醇な油の香りに瞳をうっとりさせる登笈。彼に聞かれるとルーンは、ああ、と唇のクリームを指でなぞる。
「私は部屋でゆっくりしてるかも」
「わかった。何も無いとは思うけど、ライア寝てるし気をつけてね。泥棒とか」
「ありがとー。でも大丈夫なのです。私、戦ったら登笈より強いんだからっ」
それは頼もしい。と、笑顔を返してから、登笈は最後の一口を口に放り込んだ。




