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野盗狩り③

 虎のうなり声に似た音が、電撃の通った道を周回遅れで追いかけていた。

 命乞いのちごいにも耳は貸さず、ライアは手元からそれを放出しては、淡々(たんたん)と敵を制圧していく。刃でも骨でも受け止められないものを彼らがどうにか出来ようはずもなく、民家の中を漁っていた者も含めて、またたく間に野盗の一団は壊滅してしまう。


「……やっぱ、あんな化け物相手でもなきゃ、こうなるよな」


 指のリングの感覚を確かめながら、ライアは適当につぶやいた。

 際限さいげん無く、気力の分だけ電気を生み出し、操ることが出来る。そんな力があれば、大抵は勝ててしまうものだ。


「あの……助かりました。ありがとうございます。本当に、何とお礼を言っていいか……」


 そうこうしていると、村の中でもかなり老齢ろうれいの人物がゆっくりとこちらへやってきた。どうやら村を襲っていた者はほとんど倒してしまっていたようで、礼を言いに来たらしい。

 もう数人はいた気がしたがと周りを見ると、残りの野盗が散らばって退散していく姿が確認出来た。一応、これで危機は去ったというやつだろう。また数日も経てば、もしかすると同じような脅威に晒されるのかもしれないが。


「いえいえ、俺らは偶々(たまたま)通りがかっただけなんで。あ、出来れば宿やどを紹介していただけると嬉しーんスけど」


 もちろんだと先導する老人の後ろにつき、ざくりざくりと積雪の道を歩きながら、改めて村内をぐるりと見回す。小さな村だ。街道と街道の中継地点として用意された簡易宿かんいじゅくと言われても納得がいくほどの。

 けれど降雪対策は流石にばっちりしていて、大きさはともかく、造りは貴族が別荘として使いそうなロッジと似た形状をしている。


「それでも、助けていただきました。お礼は存分にいたしましょう。都会のものとは味付けも少し異なるでしょうが、この村のシチューは立ち寄る方々(かたがた)皆、絶品と言ってくださいます」


「へぇー、そりゃ楽しみっス。俺、シチュー大好きなんスよ!」


「ほっほ。それは嬉しい。ささ、お連れの方も後でお呼びしますので、お先に暖まってくだされ」


「アザーッス!」


 と、言われるまま案内されるままにライアは村の中で一、二を争う大きさのロッジにお邪魔する。木造だが、材木か他の部分かに断熱効果があるらしく、中はほんのりと熱を持っていた。

 屋根は頂点から地面近くまで真っ直ぐ伸びていて、雪が自動的に滑って落ちていくように出来ているのだろうと推察される。ただ、雪かき用の道具が入り口の横に立てかけてあったところを見るに、降雪量が多い日は結局人の手でやらねばならないのかもしれない。 


「……そういや、登笈とおいは大丈夫なんだろうかねぇ」


 ずず。と、頂いたホットミルクに口をつけながら、彼はそんな不安を口にした。



 △▼△▼△▼△



 一方。男二人が颯爽さっそうと駆け抜けていった後で、ルーンは助けを求めに来た若者と共にゆっくり街道を進んでいた。具体的には、二人分のバックパックを若者と分担して背負って。


「はぁ、はぁ。た、助かったんかなぁ? だいじょぶ、かなぁ?」


「あはは、大丈夫ですよー。二人ともすっごく強いですから。いや全っ然知らないですけどー」


「し、知らん?」


 不安そうに歯をかちこち鳴らす若者を落ち着けるように、ルーンが微笑みかける。

 厳密には、知らないというよりも、見たことがない。だが、ライアは雷のリングを持っている。それだけで百人力なのは疑いようが無く、またあの青年ならやってくれるという信頼もあった。


 対して登笈とおいはというと、見た目からは全く頼りになる感じがしないのだが、ルーンは騎士シーボルトから、彼が傷痕や状態などから誰かと必死に戦っていたのだろうという推測を聞いていた。加えて、先程の恩返しという言葉に込められた強い想い。

 とはいえ、どちらにしても、先に行かせた彼女としては信用するしか他に手は無いので、たらればを口にして不安を煽る必要もありはしなかった。


 話しつつ、えっほえっほと荷物を運んでいると。


「———ッチ、くそ。女どけぇっ!!」


 おそらく、ライアから逃げて来たのだろう。

 体格に恵まれていて、そこらの荒くれなんかより余程威圧的な男が、斧を振り回しながら物凄い形相ぎょうそうでこちらに迫って来ていた。


「ひ、ひっ!! どどどどど、どうし、どうしま……!!」


 隣でどさりと音がしたと思えば、若者がバックパックを落として萎縮いしゅくしてしまっている。割れ物は入っていないので問題は無いだろうが、これは後で請求をしないといけないのでは、なんてルーンは冷ややかな視線を———向けずに我慢した。

 臆病な村人はさておき。対処すべきは迫る迫る荒くれ者。短剣ならともかく、よりにもよって斧なんて持っているのだから、タチが悪い。というか、危険で厄介だ。


おんなァ!!」


 男が斧を振り上げると、辺りを舞う雪ごと空気の層が持ち上がっていく。急ぎ、小鹿のように震える若者を背後へ回らせて、ルーンはすぐさま迎撃の姿勢をとった。とはいえ、彼女が武器などを持っていないことは、誰が見ても明らかである。


 少し前の話だ。ネサラが襲撃された夜の話。

 あの日、ルーンは登笈とおいやライアと同じく、レベリオが徘徊はいかいする大火事の街中に放り出されたはずだ。だというのに、剣術指南けんじゅつしなんの授業も取っていない、体術にも心得が無い彼女が如何いかにしてあれを生き残ったのか。

 答えは単純。


「”断風タチカゼ”」


 彼女がリングを所持していたからに他ならない。


 キン———ッ。という鋭くも美しい切断音が鳴った。

 ルーンの足元から発生した鎌のような形状をした風が、彼女の声に呼応して一気に上昇、荒くれ男の斧を断ち切ってみせたのだ。鮮やかに、断面もにごり無く、硝子がらすに叩き切られるように力強く。


「———あ、えっ?」


 突然のことに、慌てるどころか状況を理解出来ず目を丸くする男。に、今度は横薙よこなぎの暴風ぼうふうが襲い掛かる。

 身体を文字通り回転させながら彼方まで吹き飛ばされていく男の姿を眺めながら、ルーンは、よし、と一言。


「す、すげ……」


 そして。

 瞳をきらきら輝かせる若者に対しては、口に指を当てて、


「しーっ」


 と、可愛らしい箝口令かんこうれいを敷くのだった。

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