騒々しいお出迎え
「いやはや、久しいな。こちらの屋敷にもすぐ顔を出せれば良いのだが……」
「忙しいのだから、仕方がないわ」
「それはそうだ。しかしな、子供たちに会いたくて寂しい夜もある」
「それこそ、仕方のないことでしょう。あちらの屋敷には常に複数の人間が出入りするのだし、子供を置いておくには危ないわ」
「それも、そうだな!! ……まぁ、”これからは”もっと会えんくなるのだから、この程度でメソメソしておるわけにもいかんか」
広間に響く、大きな声。
我が物顔でずかずかと入ってきた偉丈夫は、隣の貴婦人と談笑しながら、肩の荷が降りたように首を鳴らしていた。
威風堂々という言葉がよく似合う彼の名は、シュクル=ステンネル。ここいらの地方一帯を治めるステンネル公爵家の現当主であり、リアーネの父に当たる人物である。
遅くまで仕事をしていたからか、目元には疲れが見えるが、彼の立ち振る舞いからは全くそんな雰囲気が感じられない。それは隣に妻であるラティーナがいることと、子供らに見栄を張るためだろうか。
夫妻の到着にいち早く参上したのは、別邸のメイド筆頭———というか、この屋敷たった一人の家政婦であるミエス=グレミルだった。
彼女は当主に対して深く腰を折り、丁寧な言葉で出迎える。
「おかえりなさいませ、ご当主様、ラティーナ様。お荷物をお持ち致します」
「うむ、ただいま戻ったぞミエス。あぁ、ワシの荷物は大丈夫だ。重くはない。ラティーナのを頼む」
「ただいま、ミエス。明日の朝までうるさくなるけど、許してちょうだいね」
「とんでもないことでございます。ごゆっくりお寛ぎくださいませ」
シュクルの言葉に従い、ミエスはラティーナの手荷物を受け取った。
と、その時に背後から覗く少年に気付き、一歩退いて道を作る。
「……ん? おぉ!!」
一瞬、怪訝そうに眉を分かりやすく歪めたシュクルだったが、遅れてその意図を知る。
ミエスが身を退くと、そこには少年が立っていたのだ。
その髪の毛はこの辺りでは珍しい黒で、瞳も吸い込まれそうなほどに艶やかな色をしている。線は細いが、肩や首元からは男の子だということが見て取れる。
肌は白く、鼻が低いことや眉毛が少し太いことを除けば端正な顔の作りをしていて、騙されやすそうなお坊ちゃん、といった雰囲気を醸し出す少年———宮城登笈が、先ほどのミエスのように背筋を伸ばして。
「お久しぶりです、義父上。ご健勝のようでなによ———あいたっ」
「かたいわ」
頭をぽかりと殴られた。
「息子にまで敬語を使われては肩が凝ってしまうわい。おかえりで良いんじゃ、おかえりで」
「……あ、はは。おかえりなさい、義父上」
「うむ、うむ。今日も家族のために働くのは楽しいのう。はっはっは」
大きく笑いながら言って、シュクルはミエスの後を追って屋敷の中へと入っていく。
そんな義父の背中を、登笈は呆気に取られた様子で眺めていた。
「私の方はいつも通り、今朝振りね。元気にしていたかしら?」
「ええ、義母上もお疲れ様です」
「ありがとう。さ、奥に行きましょう」
シュクルを見送った後、彼は義母義母であるラティーナとは慣れたように談笑しながら、リビングルームへ向かって行った。
「———お父様っ!! おかえりなさい。何日振りかしら。それで大事なお話ってなんなの? 私、気になって夜ぐっすり眠れなかったんだから」
「おうおう、元気そうだな我が娘よ。まぁ落ち着きなさい。皆揃ったら、すぐに話をするつもりだ」
と、進行方向を見やれば、主の帰りを喜ぶ子犬のように、リアーネがシュクルの腹にタックルをかましていた。彼女の今日一番の笑顔である。
お転婆というかなんというか。まだまだやんちゃ盛りの娘に、母親のラティーナは苦笑していた。
「草むしり。任せてごめんなさいね、登笈。あの子に任せたら途中で放り出してしまいそうで頼めなくて……」
「あ、いえ全然。良い運動になりましたし……ええ」
若干、その後で素振りをして熱中症になりかけたなんて話は出来ないな。と、こちらも苦笑いする登笈だった。
だがその数秒後に、母親の存在に気付いたリアーネが二人の元にやってきて、止める間もなく暴露してしまった。




