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RELACION 〜有力貴族の居候となった少年とその数奇な人生を〜  作者: 紺色わさび
ステンネル家の居候 編
4/74

従姉妹のリアーネ

 屋敷の中は、外の暑さとは異なってひんやりとした空気が流れていた。

 風の通りも良く、ここなら間違っても熱中症になどならないだろう。


 冷水を絞ったタオルで首元を拭きながら、僕は先を早歩きで進む少女の後を追従(ついじゅう)していた。


「まったく、もう。どうしたら草むしりの途中で熱中症になりかけたりするのかわからないわ」


 顔も向けずにそう呟くのは、リアーネ=ステンネル。かれこれ数年前から住まわせてもらっているステンネル家の一人娘であり、僕がリアと呼ばせてもらっている女の子だ。ぱっちりとした目元と、貴族然(きぞくぜん)とした端正(たんせい)な顔立ちが特徴で、歳は僕と同じ十二歳(じゅうにさい)

 では何故そんな良いとこのお嬢様を愛称で呼んでいるのかというと、それは彼女と僕、宮城(みやぎ)登笈(とおい)がいとこ関係にあるということと、出会った当初のリアの距離の詰め方がエグかったことに起因(きいん)する。


「草むしりは適当なところで終わらせたんだけど、その後が長くて……」


「要するに、素振りに夢中になっていたんでしょう? それはいいわ。———ただ」


「?」


 彼女はスカートを(なび)かせながら振り返り、僕を指差して、


「貴方もこのステンネル家の血を継ぐ者として、自分の身は大切に扱わないとダメじゃない、ってことよ」


 と、大きなダークブラウンの瞳を更に見開き、鈴の音のような声を廊下に響かせる。

 そんなリアに何を言い訳するでもなく、僕は申し訳なさそうにまた謝るのだった。

 彼女曰く。わかればいいわ、とのこと。


「それに、今日は久しぶりにお父様が帰ってくると聞いているわ。なら、私も登笈も元気な姿を見せないといけないし」


「……あぁー」


 言われて、ふと思い出す。

 確かにそういった話を朝食の時にメイドのミエスさんから聞いたような、聞かなかったような。


 リアの父親。僕にとっては義理の父にあたるわけだが、実はあまり会ったことがない。

 というのも、僕とリアがいるこの屋敷はいわゆる別邸(べってい)という物で、義父上(ちちうえ)はこことは離れた場所にある本邸で過ごしているのだ。仕事もそちらでやっているらしく、休暇や用事でもない限りはこちらには顔を出さないというわけである。


 とても聡明(そうめい)かつ豪快な方だと記憶しているけれど、何せ接する機会が少なく、実の父親でもないため、こうして顔をあわせるとなると朝から緊張してしまうのが常だ。

 とはいえ、そんなのを態度に出すわけにもいかないので、悟られないように会話を続ける。


「珍しいね。何でだっけ? 誰かの誕生日ってわけでもないし」


「そうね、お母様からは大事な話とだけ聞いているわ」


「大事な話、ねぇ……」


 なんとなく、納得のいかない表情をお互いが浮かべていた。

 とはいえ、本当に重要な用事なら、朝の時点で義母上(ははうえ)から話があるか、あるいは文書が届くはずだ。いざ聞いてみたら案外そんなことか的な話だったりするのだろう。


 そうこう話しながら階段を上がっていくと、エプロンドレスを纏う長身の女性と目があった。ミエス=グレミル。この別邸でメイドとして働いてくれている方だ。

 彼女は掃除用のモップを一度置き、こちらに一礼をする。


「おかえりなさいませ、お嬢様、お坊ちゃま。外は暑かったでしょう。あとで飲み物をお持ちしましょうか?」


「ほんと!? 是非(ぜひ)欲しいわ。焼き菓子もあれば嬉しいけれど……お母様に怒られてしまうわね」


 ミエスの提案にリアが(ひとみ)を輝かせて反応する。どうやら甘いお菓子が食べたい時間帯のようだ。

 そんな彼女の横をすり抜けて、僕もミエスさんに会釈(えしゃく)をした。


「ありがとうございます。僕も部屋で語学の勉強をするので、何かいただけると嬉しいです」


 そう言って横切ると、ミエスさんは、かしこまりました、とまたも一礼。

 勉強とは言ったものの、まだ頭が痛くて少しふらついているので、二時間程度は横になっていることだろう。熱中症甘く見る、よくない。

 自室までの短い距離を歩いていると、後ろからリアとミエスの話している声が背中越しに聞こえてくる。


「聞いて、ミエス。登笈(とおい)ったらね、芝生の上で死にかけていたのよ? 私もう慌ててバケツを———」


 どうやらお話は僕の失敗談だったようなので、苦笑いを浮かべながら、部屋のドアをそっと閉じた。


 

 △▼△▼△▼△



 ふと窓際に視線をやって、外の景色を眺めてみる。といっても、月明かりではそんなに遠くまでは見えないけれど。


「……まぁ、こんなもんか」


 誰もいない部屋で、登笈(とおい)は独り言を呟いた。

 勉強用として使用している厚い辞書を閉じて、紅茶を飲む。持ってきてもらった当初は温かかったが、流石に冷めてしまっているようだ。それでも、香りや風味はなんとなく感じられて、少し息を落ち着ける。


 部屋で勉強をすると言って自室に入ってから、何時間が経過しただろうか。

 実際にはあの後すぐに着替えてベッドに転がり、その勢いで昼寝をしていたので、そこまで集中出来たわけではないのだが。


 残りの紅茶を飲み干してから、立ち上がる。

 夜になったのなら、そろそろ義父(ぎふ)もやってくる頃合いだ。広間へ向かって、すぐに挨拶が出来る状態にしておきたい。


 ———それにしても、一体どんな用事なんだろう?


 髪型を手櫛(てぐし)で整えながら、登笈(とおい)は部屋を後にした。

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