出発
頼りない風切り音が響いている。
臨山都市ティファリアの北門を抜けたところで、その青年はそれを振るっていた。
「———うん。これが一番握りやすいし、重さも合ってる気がします」
抜き身の刃を鞘に納めて、青年———登笈は満足そうに頷いてみせる。
彼の足元近くには、手元のそれと異なる刀剣類が置かれていた。刃、柄の長さ、厚み、形状などは全てバラバラで、現在、彼はその中から自分に合った武器を選んでいるところだった。
「学習院では、グリザリオから剣術を習っていたのだろう? なら、木剣の形状からはあまり逸脱していない物が良いだろうし、うん。俺もそれがおすすめかな」
そう言って、町の外まで武器を持ってきた騎士シーボルト=リテッドは、青年の選択を首肯した。
登笈が選んだのは、刃渡りも持ち手である柄も聖王国では標準寄りに分類される長さのもので、一般的にブロードソードという名で知られる刀剣である。形状に特徴はあまり無いが、軽く作られているために登笈の筋力でも問題無く振るうことが出来る。それでも剣というだけで重いわけだが、そこは学習院での日々が支えてくれていた。
「ステンネル公のご子息を送り出すにあたって、護身用として渡してはおくけれど、出来る限りそういった事態は避けてくれ」
何かあれば自分の首が飛びかねないと、シーボルトは笑い話にもならない不安を零す。
精強な騎士の言葉に、登笈は鞘を腰のベルトに嵌めて、それを落ちないように固定しながら聞いていた。
「大丈夫です。一人なら不安ですけど、仲間がいますから」
「……そうか。俺か部下が付いていけるならそれが安心なんだが、生憎とまだネサラの一件が片付いていないのでね。俺達はここから旅の無事を祈っているよ」
「はいっ。シーボルトさんも、お元気で。助けていただいたお礼はセントホルンに帰り着いてからまたさせていただきます」
別れの挨拶を済ませて、シーボルトは門の中へと戻っていく。最後まで申し訳なさそうに表情を落としていたが、彼らがいなければ登笈もライアもルーンも、あのまま亡くなっていただろう。礼は充分に口にしたけれど、その凛々しく頼りになる背中に、登笈は何度目とも分からないお辞儀を送った。
「じゃあ、行きますかねぇ」
毛皮のポンチョを身に付けながら、ライアが小さく呟いた。
ポンチョだけでなく、手袋やブーツなど防寒具一式に守られていて、準備万端といった様子である。背負うバックパックの中にも自分用の数日分の食料が入っているので、少々の重さに目を瞑れば、順当にラウンステッドまで辿り着けるだろうというところ。
「とにかく街道を歩き続ければ着くし、北の方は寒くて野盗も出てこないらしいから、割と安心だよねー。みんなもいるし」
同じく防寒具に身を預けたルーンも、ライアに続いて門を通過した。ただし、彼女の方は既にバックパックが重たそうだ。
そして、二人は先に門外へ出ていた登笈に手を振りながら合流を果たし、一先ず聖王国北端の街を目指して歩き始めた。




