表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/74

臨山都市

 臨山都市りんざんとしティファリア。アテリア王国とスリージ聖王国の間にそびえる巨大な竜翼山脈りゅうようくさんみゃくふもとにつくられた町で、緩い斜面のおかげで上からでも下からでも町全体を一望出来るのが特徴的な場所である。

 聖王国内では珍しく棚田たなだが行われている土地でもあり、山で採れる野草や山菜も合わせて、菜食文化が盛んな町とされている。一方で野山から降りてくる猪や鹿を使った鍋なども有名ではあった。


「すみません、本当にお世話になりました」


 ライアと共に、担当してくれた医者に礼を言って、登笈とおいは特に感慨も浮かばせず治療院を後にした。実感は無いが、一応退院という形式にはなるらしい。

 その時、改めて身体の検査を受けさせられたが、もう支障は無いというお墨付きも頂いた。ので、もう存分に動き回っても大丈夫ということだろう。あれほどの大怪我を負ったのはつい先日のように感じるのに、と言うと、隣の親友は、違いない、とうなずいた。


 治療院を出て、これからどこへ向かうかというと、それはライアが知っているらしい。

 彼は手持ち無沙汰ぶさたにポケットに手を突っ込みながら、物珍しさから辺りを見回す登笈とおいを先導していた。


「あの日生き残ったのは、十数人じゅうすうにんにも満たないんだと」


 途中、すれ違う聖王国美人に下心満載したごころまんさいの目線を向けつつ、ライアは続ける。


学習院がくしゅういんは、貴族の生徒が集まるってことで、万が一の時に備えた設備が幾つも用意されていたらしくってな。地下とか。けど大体が見つかって火攻めにあったり、普通に攻め落とされたりしたんだ。

 そういうのもあって、結局は自分一人で飛び出してった奴の更にそん中でも運が良い奴だけが生き残った、らしい」


 因みに、その中でも極端に運が悪かったのが、登笈とおいやライアである。ローディス=フレイやディザイア=ラグナリアといった、敵の大将首と遭遇したのだから。


 調査に向かったシーボルト=リテッドという騎士の報告によると、ネサラには死体しか残っていなかったとされている。

 それはレベリオを名乗る集団が街の住民をほとんど全滅させてしまったことが主な原因だが、彼らが去った後でもぬけのから同然となった街をその後、火の手を嗅ぎ付けた野党や盗賊団が更に襲撃し、家や学習院がくしゅういんに残っていた金品を根刮ねこそぎ持っていってしまったのだ。そして、何とか隠れて生き残っていた者達はそこでさらわれた。と、されている。


 なので、残っていたのは死体だけ。正確には、死体と思われた者だけが残っていたのだ。登笈とおいやライアはその最たる例で、仮に負傷無く息を潜めていれば、二次災害に巻き込まれていたであろう。

 シーボルト隊と、その後本格的に救出活動を行って、生存者と判断された人間は全員がこのティファリアの治療院に運び込まれていた。さて、肝心のその総数は、たったのろく


「———六人」


 ごくり。と、登笈とおいが喉を鳴らす。

 あれだけの、聖王国最大都市とうたわれたネサラで、明確に生存者であると確認されたのはたったの六名である。およそ現実味など益々(ますます)消え失せるような事実に、ライアも多少の苦みを口元に表している。


「俺も騎士から直接聞いたわけじゃねぇんだけど、一応生きてた形跡はあちこちにあったらしいぜ。ただ、盗賊に襲われて誘拐されて……最悪は奴隷送り? な奴は確認なんて今すぐは取れねぇし、そこに人員を割けるほど、ネサラを失った聖王国に余裕があるわけでもねぇからって」


「……まぁ、そうだろうね。経済的にも大打撃だ。なんてちょっと他人事ひとごとみたいだけど」


 実際、生き延びたからには他人事でしかないのだが。

 そうこう話しつつ歩いていると、ライアがこじんまりとした喫茶店の前で立ち止まった。


「ここだ」


 言われて、店の看板を見上げてみる。そこには、喫茶店ストーンフィッシュと書かれていた。民家を改築して店にしたような雰囲気が外観から感じられる店で、コーヒーの深い豆の香りが少し開いた窓から流れ出ている。

 その小さな鐘が備え付けられたドアを静かに引き、先に入っていったライアが登笈とおいを手招きで誘った。


「あ、お腹空いてくるなぁ。良い匂い」


 入り口を潜ると、一気に焼き目を付けたパンケーキの甘い香りや、蜂蜜はちみつの空腹をうながす香りがふわりと鼻腔びこうを、空っぽの胃をくすぐる。

 中もさほど広くはなく、長いカウンターテーブルと、四人席のテーブルが三つだけの簡素な内観をしていた。だが、狭いからこそ料理の香りが全体に広がっていて、まさに喫茶店のイメージと重なるお洒落で落ち着く空間となっていた。

 金髪の親友が歩いていくのを見送り、その場で内装を見渡していると、一番奥のテーブルにて優雅なコーヒーブレイクを楽しむ、知り合いの姿を発見する。


 そして。

 あの日と全く変わらぬまま、自分らしくたたずむ彼女を見て、登笈とおいは目覚めてから初めての涙を流した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ