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RELACION 〜有力貴族の居候となった少年とその数奇な人生を〜  作者: 紺色わさび
聖王国の学び舎 編
43/74

雨降り後の晴れ空で

「———少年、おい少年。目は見えているか、耳は」


「……」


「セクエイン。彼を瓦礫から救出するぞ。酷い火傷だが、まだ生きている」


「あぁ、そーゆーこったら任せとけ。どれからどける? あのでかいの、支えになってそうだよなぁ」


 同僚サクサの言葉に背中で返事をして、セクエイン=フルボロスは彼女のいる場所に駆け寄った。


 彼女が片膝をついていたのは、間違い探しかといったレベルで周りと酷似こくじした風景。瓦礫の山。柱の破片や崩れた煉瓦、小突けば砂と共に軽い雪崩が起きそうな石溜いしだまり。しかし、その一番下、地面と面したところには、仰向あおむけに挟まれた男子の姿があった。

 その黒髪の少年を見てセクエインが感じたのは、運が良い、というそれだけの一言。確認出来る上半身だけでも、火傷や裂傷れっしょう、左腕も変な方向に折れ曲がっている。相当な気力でも無ければ、痛みで既に死んでいる。それも下半身がどうなっているか次第ではあるが、そこは積もった瓦礫をどかしてみなければ分からない。


 そんな絶望的な生還者のうつろに開いた瞳と目を合わせて、セクエインは、よし、と白い歯を見せて笑う。


「よく頑張ったな!! もー大丈夫だ、このセクエイン様が助けにきたからなぁっ!!」


 そして、空に届くほどの大声を張り上げた。


「発見したの、私なんですけどぉ」


 急に張り上げられた声に耳を塞ぎつつ、サクサは平常運転とばかりにため息をする。


「うん。でもそうだ。少年、もう少しだけ心を強くたもっていなさい」


「おいサクサ。この小さいやつからでいいな?」


「———うん、私も手伝おう。その次はこの平たいやつだ。待て、片側だけで持ち上げるな」


 テキパキと。完璧ではないが、均衡きんこうを崩して一気に少年に重みがのし掛からないよう注意しながら、セクエインとサクサは一つ一つ瓦礫をどかしていく。


朦朧もうろうとしてっが、意識はある。根性あんじゃんよ」


「呼吸も安定している。こういう頑張っている子が他にもいるかもしれないんだ、早く助けてあげないとね」


 大概が生き埋めか焼け死んでしまっている中、この少年のように限界寸前で踏ん張っている者。一分一秒が生死を分ける状況下において、サクサ達の行動は的確だった。十数個の積み重なった岩盤のような瓦礫や屋根の破片を騎士たるべく鍛えた筋力で動かして、ものの二分ほどで一人目の救出を終わらせる。

 そのまま、助け出した少年を一先ず平たい場所に寝かせた後、セクエインは同僚に、どうする、とアイコンタクトを送った。


「……そうね。シーボルト隊長も直に調査報告書を纏めるだろうから、一旦その子を抱えて北の外門に戻ろっか」


了解りょー。でもこれ背負って大丈夫か? 寝かしたままの方がいいんじゃないかねぇ」


「じゃああそこの平たいやつに乗せてそれごと運べばいいでしょ。頼むわよ、男の子」


「はぁー? これが新手の男性差別……」



 △▼△▼△▼△



 気持ちが悪いくらいに、青くんだ空。ぷかぷかと浮かぶ白雲。照りつける日光。どれも、このネサラにそぐわない天気だった。せめてまた雨でも降れば鎮火するのだが、と、野盗の腕と腕を縛りながら、シーボルト=リテッドは嘆息する。

 これで八人目。騎士の監視が消えた廃都を跋扈ばっこする盗賊の類は後を絶たない。近くに山賊やそれに相当するやからの寝ぐらがあるという情報は無かったが、耳が早い彼らはこのネサラにも目を付けてすぐさま集まってきているのだろう。


 最初は、何か事情を知っているのではないかとも疑ったが、聞いても聞いても、知らねぇクソが、の一点張り。しかし、仮にこんなのが徒党ととうを組んでもネサラの駐在騎士が敗北するとは思えないので、当然も当然だが。

 今しがた縛り付けて寝転がした野盗の腰にどかりと座って、彼は部下が戻ってくるまでの間、思考にふける。


「いやふけんじゃねぇオレは椅子じゃねぇぞクソボケ騎士がよぉ!!」


 そこそこ年齢のいった野盗が唾液を飛ばす勢いでまくし立てるのも無視していると、


「あ、兄者あにじゃ!! 助けに来た、オイラに任せってくれっぺぇ!!」


「弟ぉ!!」


兄者あにじゃぁ!!」


 何やら感動の場面が始まってしまったので、再び剣を鞘から抜き、かったるそうにシーボルトが腰を上げた。

 顔が四角くて、瞳の輝きが可愛らしい野盗の男だ。どこか憎めないというか、兄であるらしい足元の縛られ人形とはあまり似ておらず、何故盗賊なんかしているのか質問してみたくなる面をしている。それはそれとして、武器は分厚い斧をきちんと握っているため、無力化を図らねばならない。


「ひざかっくん」


「あひゃん」


 だが、隊長がわざわざ動くまでもなかったようで、調査から戻ってきた部下の一人———スンシルが野盗弟の両膝を後ろから無理やり曲げさせてしまった。

 続けざまに今度は側頭部をかかとで蹴り殴られ、一瞬で意識を消失させられる。傍から見ていると可哀想に思えてくるような光景に、よし、と胸元でガッツポーズを作るのは、飛び蹴りを成功させて喜ぶソレイユ=レティセンシアだ。


「シーボルト隊長、今の見ました? 私のキックもかなりのものになったかと!」


「おう、よくやったよ。ついでにそいつ縛っとけ」


「はい。任されました!」


 胸に拳を軽く当ててから、くるくるくると隊内最年少のソレイユが野盗弟の腕やら足やらを縄で巻き始める。


「街の方はどうだっただろうか、スンシル」


「随分な有様なのは、中から見ても変わりませんな。大方は予想通りです。大多数は火災によって死んでおりますね。ただ」


「……ただ?」


 隊長であるシーボルトが視線だけ向けると、スンシルは腕を組んで、周囲を見回した。しかし探していたモノは無かったようで、口をへの字に曲げる。


「明らかに一般人ではない死体も幾つか。主犯はそいつらでしょう。後は生存者を出来る限り捜索して、事情聴取に努める他ない」


 そう、スンシルは己の見てきたものを簡潔な一言で纏めた。拘束作業を終えたソレイユも、膝に付着した砂や炭を払いながら首肯する。


 一般人ではない死体。具体的には、布袋に収めた刃物を携帯していたものや、明らかに斬り合いを行なったと見られる切り傷多数のものなど。中には他と状態の異なる焼死体も含まれていたが、これ以上は後続が鑑定することである。

 壁の破片らしきものに人を乗せて運んでくるもう二人の姿を遠目に確認して、シーボルトは納得した様子で一度大きくうなずいた。そして、抜き身の剣身を腰の鞘に収める。


「撤収しよう。進路は北東、ティファリアの街だ」

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