陽だまりで死にかける
「———くぁ」
間の抜けた欠伸声が、風に乗ってどこかへ飛んでいく。
ぎらぎら輝く真昼の太陽がどうしようもなく眩しい。瞼を閉じてもなんと視界は真っ赤である。
———どうやら、芝生に寝っ転がって、そのまま寝こけてしまったらしい。首を傾傾けると、花を生やした雑草の隣に訓練用の木剣が転がっていた。
眠りにつく前の出来事を、なんとなく思い返す。確か、今朝は義母上に雑草抜きを頼まれていたのだったか。
なので、朝食を摂って元気が有り余っている間に抜けるだけ抜いてしまおうということで、根っこをぶちぶち言わせながら引っこ抜いていたのだ。それを約一時間ほど。そのあと、義母上が仕事の支度を済ませた頃にやってきて、熱中症になるからそのくらいで充分よ、とかなんとか言っていただいたはずだ。
そして、義母上の忠告は正しかった。
「か、らだ。動かすのだるぅうう……」
軽く熱中症である。
眠気もあるだろう。だが、身体は全体的にだるおもで、何だか動く気になれない。喉はカラッカラだし、ついでに夜でもないのに星が見える。おそらくこの星は他の人間には見えないヤツだ。そう考えると、少しばかりお得な気がしてくるが、どちらにしろ早めに水分を補給しなければ。シャツも汗でぴったり張り付いている。何なら少し日光で乾いてきているくらいだった。どっちだ。
「でも、だるいんだよなぁ」
起き上がれないわけではないだろう。ふんぬっ、と力を込めれば、おそらくいける。が、直後に視界の中のきらきら星が増えて今度こそ意識を失ってしまう気がした。なので、動けない。
上半身を起こさなければ、いずれ倒れる。しかし、無理やり起き上がっても昏倒してしまいそう。この状況はつまり。
「僕の人生、詰んだか〜」
享年十二歳。宮城登笈、ステンネル公爵家別邸の庭にて死亡。死因は水分不足による熱中症。といったところか。
そんなことを想像していると、いきなり視界から太陽が消えた。日陰。ではなく、バケツだ。そんでもって、そのバケツが一瞬でくるりとひっくり返り、大量の水が滝のように顔に落下してきた。
「———ぶへっ。ゲホッ、えほっ!!」
鼻から、口から、少しだけ耳に。色々なところで水を吸収して、色々と咳き込む。鼻の中の水をちーんと出しつつ、また咳き込む。目元の水を拭いながら、もう一度咳き込む。そんなこんなを数十秒続けて、ぱっちり目を開けた時には、なんとお星様がいなくなっていた。
さらば、輝く星々よ。出来ればもう会いたくはない。
———とか何とか考えながら、ゆっくりと身体を起こした。その流れで、
「助かったよ。ありがとう、リア」
と、バケツ片手にこちらを見下す少女に礼を言った。
「ん。別にいいわ。それより屋敷に帰ったらちゃんとお水を飲みなさいよ。……あと、その土とか泥もなるべく落とすこと」
リア。と呼ばれた少女は、肩を竦めながらそう告げて、そのまま歩いて勝手口の方へ帰っていく。
彼女の後ろ姿を眺めつつ、青年———登笈は、衣服についた草を払って、もう一度大きく欠伸をした。




