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その火々にて
その日、僕達の世界は一変した。
通いつめた馴染みの店は窓から炎を吐き、皆で歩いた大通りにはうつ伏せに倒れた誰かの死体が幾つも転がっている。空を見上げれば、そこにあるのは黒々とした雷雲の層。そこから雷の矢が何本も放たれては、街の至る所を石畳の地面ごと打ち砕いていく。
誰が言わずとも分かる。これがこの街の終わりだと。何が起こったのか理解することも出来ずに、ただ燃え尽きて、消えていくのだと。
せめて。せめて、せめて一分一秒でも生きて、と崩落した建物の隙間から伸びる手は、茶と黒の混じった吐き気のする色で焦げている。
駄目だ。吐きそうだ。でもここで身体から何か一つでも手放したら、もう走る気力を保てない気がしたから、逆流してきた胃液を無理矢理にでも飲み込んだ。
「チッ。何だよ餓鬼が生きてるじゃねーの」
見渡す限りの赤景色。少し手を伸ばすだけで火に触れられそうな大火災の中で、けれど僕は立ち止まった。立ち止まらざるを得なかった。
かつて親しんだ大通りの中心を我が物顔で練り歩く男がいたからだ。明確な殺意を感じたからだ。ここで死ぬかもしれないと、恐れてしまったからだった。




