一人、部屋の中で
「……」
埃が立つこともお構い無しに、僕はぼふりと自室のベッドに倒れ込んだ。
小さな部屋だ。机と椅子、それから窓とベッドが一つずつの簡素な内装。後はクローゼットがあるくらいの、まぁ男子ならこれくらいで良いだろうという感じがする感じのもの。
かといって女子寮はどうなのかと聞いてみたところ、あまり変わらないらしい。
「……夢かぁ」
天井を眺めながら考えるのは、久能の言っていた夢の話。東陽を統一して列強、つまりアテリアやスリージ、南部の帝国に負けないくらいの凄い国を取り戻したいんだと。
それについてまず思ったのは、すごいなぁ、という阿保みたいな感想だった。だって、今何をして、将来どうすればそれが叶えられるのかが一切想像もつかないから。
現在の東陽周辺については、大陸地理学という講義で学んでいる最中だ。幼い頃のぼんやりした見識に加えて、正しい情勢の学習も進められているので、あの辺りが地形的にどうなっているのかはなんとなく理解出来ている。
ここスリージ聖王国や隣国のアテリア王国より遥か東には、人間の間で大森林と呼称される巨大な樹海が鎮座している。小さな国くらいの広さだと言われるそれを超えた先にあるのが東陽三国。今では三つに分かれ、北部の東陽、南東の黒桜、そして南西の枇杷となっている。
分裂に至った理由は諸説あって、圧政が酷かったからとか、将軍が色ボケだったからとか、元から派閥が三つ存在していたからとか、そんな感じらしい。
それを統一となると、まぁ大変だろう。仮に久能がめちゃくちゃ強くて、他の二国を一人で攻め落とせるというのなら話は別だが、もちろんそんなわけないだろうし。じゃあどうするんだって、そんなの知らない。そして多分、あの子もまだ分かっていないんだと思う。
それでも、そうしたいと願ったんだと思った。領主の娘として見てきたもの、そしてあの小さな肩に掛かる重圧。それらの他にも色々なものが影響して、久能は自分が成すべきことを見つけたんだろう。
「すごいなぁ」
誰もいない部屋で、僕は一人呟いた。
僕には、そんな夢とか望みとか願いとか無くて、この学習院を選んだのも故郷について少しでも何か情報を手に入れたかっただけ。
もしかしたら、僕にそういうものが見つかるのはまだ先の話なのかもしれないし、久能が特別凄いだけなのかもしれないけれど、そういう生き甲斐みたいなモノがあることが、僕には少し羨ましく感じられた。
「みんなはどうなのかなぁ」
ふと脳裏に過ぎるのは、ライアやルーン、スイヨやレイドなど、掛け替えの無い親友達のこと。
彼らはどうなのだろうか。
思い至った時には、ドアを開けて外に飛び出していた。
それはそうと、ドアはゆっくり閉めて鍵も掛けた。




