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RELACION 〜有力貴族の居候となった少年とその数奇な人生を〜  作者: 紺色わさび
聖王国の学び舎 編
24/74

ライアの散歩こばなし

「すまんなぁ、手伝ってもらってよ。荷物が多くてしゃあないんよ」


「いえいえ。こんなんどーってことないっスよ」


 学習院がくしゅういん敷地内、第三校舎だいさんこうしゃ二階の廊下。窓越しにネサラの街を眺めることが出来る場所には、資料の山を抱えて歩く二人の人物の姿があった。

 片方は、中央言語学ちゅうおうげんごがくをはじめとした多種多様な言語についての講義を受け持つマルチリンガルの教師。刈り上げた坊主頭と丸い眼鏡がトレードマークの、ハートリー=ビグニル。


 そして、もう片方は、


「先生には色々世話になってんスから」


 と白い歯を見せて笑う、金髪の少年。休日にも教師の元へ行って個人レッスンに勤しむライア=レアンドである。


「あれはお前のやる気の成果や。珍しいぞぉ、今どき熱心に第二言語だいにげんごの習得を真面目にやるなんてのは」


 窓の外に視線をやり、街中を走る学習院がくしゅういんの制服を見ながら、ハートリーはどこか寂しそうにそう呟く。

 学習院がくしゅういんは言わずもがな学舎である。だが、基本的に生徒の大多数を占めるのはどこぞからやってきた貴族の子で、更にその中の大半は卒業したという箔づけのためだけにここに通っている。結果、単位さえ取れればそれで良いという考えから、課題だけを済ませて講義はおろそかにするなど、教師からすればあまり嬉しくないこともあった。

 教師側も教師側で、学習院がくしゅういんから金さえ貰えればという者も数人いるので、深く考えても仕方がないことなのだが。


 なので、純粋に勉学に打ち込む生徒というのは、ハートリーにとっては楽しい存在なのだった。


「俺ね、一人で生きていけるようになりたいんスよ。誰にも頼らないって意味じゃなくて、どこ行っても会話出来て、何でも美味しく食べられて、そういうのすっげぇ魅力的なんス。だから、本当に先生には感謝してます」


「ま、ならええけどよ」


 ライアが何故そういった目的を持つのか。今まで数百の生徒を見てきたハートリーには、それがなんとなく分かっていた。

 その上で、何も言わず、聞かず、せっせかと資料を大図書館へ運ぶために歩みを進める。何でも、週明けの講義をそこで行うために今のうちから運んでおかないといけないのだとか。


「この机の上に置いときゃいいんスか?」


「おう、助かったわ。置いといてくれ。また大食堂で何かおごったるから、頑張るんやぞぉー」


「うぃーっす」


 ハートリーのも含めて、二つの山を長机にどんと置き、肩の荷が降りたようにライアはぐるぐると腕を回す。

 視界の奥ではその教師が何やら本を漁っていたが、とりあえず手伝いはここまでといった趣旨の言葉をいただいたので、特にすることもなく大図書館を後にした。


「……んん、暇になった。登笈とおい、は確か朝起きたら寮にいなかったな。レイドもまたロティス先生と稽古だし、どうしたもんか」


 昨日こそ時間が合って集まれたが、彼らは彼らで忙しない日々を過ごしているものだ。

 それぞれ、この学習院がくしゅういんに来た明確な目的がある。ライアなら、実家に頼らず一人で生きていく力をつけることがそれに当たる。


 ———何だ、あの人。ネサラ駐在の騎士か?


 やることもないので適当に敷地内をぶらついていると、学習院の入り口、芝生と噴水で彩られたちょっとした大庭園。そこに、何やら鎧を身に付けた人物が二、三人。

 敷地内には部外者が利用出来る施設も多いので、極端な話をすると不審者が歩いていても別段何も問題はないのだが、騎士となるとまた奇妙である。


 ネサラの街には、スリージ聖王国の騎士が滞在する駐在所がある。そこに住む彼らはネサラ駐在部隊と呼ばれ、街の警護や巡回を行なってくれるとてもありがたい存在だ。

 貴族のがきんちょがふらふら道端歩いていても攫われたり暗殺されたりしないのは、日夜彼らが目を光らせてくれていることが大きい。


 とはいえ、だ。

 その感謝すべき彼らがこうして学習院の敷地に入ってくることは殆どない状況だ。ライアがここに入学して一年半、偶々かもしれないが、そんなのは初めて見る。


「あれって騎士だよね? 何かあったのかな」


「んぉう!? びっくりしたわ!!」


 ひょっこりと、いきなり背後から可愛らしい声が聞こえたことに驚いて、思わずライアは肩を跳ねさせる。

 その反応に満足したのか、襲撃者ルーン=スタリエはくすくすと口元を隠して笑っていた。


「ごめんごめん。黄昏たそがれてるライアが面白くって、ちょっと気配消してストーカーしてたんだけど、私もあの騎士の人が気になっちゃったの」


 これが飲み物でも持っていたなら、今頃それは地べたにぶちまけられているところだ。と、心臓を落ち着かせるライアに対する罪悪感など全く無いかのように、彼女はいつも通りの柔らかな表情でそれを眺めていた。


「さぁ、どうだろうな。学内新聞にゃ騎士サマからの安全講座なんて書かれちゃいなかったし、大食堂でカレー食いたくて寄りましたってんなら良いが」


「不穏だよね。スーちゃん達なら何か知ってるかな……」


「何にしても、俺らの学校生活のお邪魔だけはしないでもらいたいもんだ。まぁ、何かあってもあの人らのせいじゃねぇんだけど」


「それはそうだね。寧ろ守ってくれるんだし、感謝しとかなきゃだよ」


 ガッツポーズをとる友人をスルーして、ライアは小腹が空いたのでくるりと方向転換。目指すは大食堂だ。


 ———現在、この大陸は揺れている。


 確か、入寮式の日に学長が言っていた言葉。

 不意にそんなものを思い返す自分の頭は面倒だと、彼はそんなことを思ったという。

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