頭の切れ端で
どうやら、何か事件でもあったらしい、と。
いつもよりほんの少しだけ慌ただしい街の異変を真っ先に感じ取ったのは、同行していた他の面子より早めに買い物を引き上げて、雨でも降りはしないかと店の外に出ていたスイヨだった。
「……」
いつもの風景だ。
近所の奥様方が近況の話で盛り上がり、売れ行きの芳しくない商人が練り歩く。貴族の子女が数名で店と店を行き来して、年端もいかない少年達が誰かにぶつかってはごめんなさいと走り去り、そんな街を若い騎士が柔らかな表情で見回って回る。ここ一年半で彼女の知ったネサラの日常がここにはあった。
違和感。そう、違和感だろうか。寮の自室に鍵を閉め忘れたような、胸の奥で何かが引っかかるような感覚がある。
雨が降りそうなわけでもないのに窓を閉める音がよく聞こえることや、ひそひそ話をする人物がやけに目に止まること。十中八九、自分とは全く関係のないことであっても、それは確かめておきたかった。何も無いのなら、それでいいと。
スイヨ=アルバーナは、真面目で一途な少女であった。
南洋のギリア王国に生まれた頃から、厳格な父親に似て、約束や時間に真摯で何に対しても正直に取り組む性格だった。
なので、彼女は真っ向から、通り掛かりの男性騎士にとりあえず尋ねてみた。
「お仕事中にすみません。何かあったんですか?」
そうスイヨが質問をすると、彼は一度彼女の制服に目を向けて、ふむ、と目を横に投げた。
「学習院の生徒さんですね。ええと、何か……と言うほど珍しいものでもありませんが、つい先日、我々が忙しくなるようなことがありましてね」
具体的なことを答えずに、男性騎士は自分の口元に指を添える。
とはいえ、彼の様子から察するに、自分に迷惑がかかったり、被害が及んだりする類のものではないと考えて、スイヨは一先ずお礼をした。
「……あまり深く考えない方がいいのかもしれないわね」
そう言って、彼女は自分を呼ぶ声がした方向に振り返る。
年相応にはしゃぎ、華やぐ友人に目を向けて。
「スーちゃん、おまたせー!!」
「ごめん、のんびりしてて……」
「気にしないで。……ライアくんは?」
「途中まで僕と一緒だったんだけど、用を足すって言って」
「……はぁ」




