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part5 始まりの始まり

 周囲一帯、一般人の立ち入りが禁止され、静けさに包まれた闘技場の入り口に、3つの体が運ばれていく。


「拘束に成功しました! 気絶状態ではありますが、ご命令の通り怪我の治癒は施してあります!」


 ウェスタリアの騎士の1人が、イルカリオスに報告した。


「御苦労だった。すぐに西地区の守護に戻れ」


 騎士たちは一度深く礼をすると、すぐさま来た道を引き返していった。



 そんな騎士たちを視線で見送るイルカリオス達の横で、腰の曲がった老人がにたにたと笑う。

 シワだらけの白衣が、黒ずんでシミの多い肌と対照的になっていて、よく目立つ老人だ。


「フハヒッ……! 黄雷星クンの部下は、相変わらず行儀がいいネェ……? うらやましいナァ?」


「優秀な部下に恵まれました」


「フハッ! キミが上手く調教したんだろぅネェ!?」


「いえ。自ら成長してきた立派な騎士たちです。私から何か言う事はありませんでしたよ」


 にたにたとした笑みは途絶えることなく、老人はイルカリオスから目を離すと、手錠のつけられた3つの体に近づいていく。

 目をギラギラさせながら舐め回すように見回して、


「1度に3人も現れるなんて、本当にレネゲイドの数が増えてるんだネェ?」


 嬉しそうに聞く老人。


「間違いなく増えています。ですからこうして、対処の仕方を変えるのです」


「もうサバけないなんて寂しいナァ?」


「この3人が上手く行かなければ、また以前のような対処を施すことになるかもしれません」


「それはないナァ? レネゲイド専門で長年やってきたこのロクロが、上手く行かない調教をするわけないだろぅ?」


 ロクロの言葉に嘘はなく、その口ぶりには自信が溢れていた。


「恐れ入ります。星将一同を代表して、礼を」


 深く頭を下げるイルカリオスを見て、ロクロは僅かに笑みを抑える。


「恐れ多いのは僕の方だネェ……! 星将様に頭下げられるような仕事には務めてないからナァ?」


「これも国のため、秩序のため。大切な仕事です」


「フハヒッ! そう言われると悪い気はしないがネェ!?」


 くっと頰を釣り上げ破顔したロクロは、3人のレネゲイドに手の平を向けると、赤紫の光を浴びせた。

 虚ろな目を開いた三人は、すくっと立ち上がり闘技場の奥へ進んでいった。


「まずはキミ達星将の力で、このレネゲイドの実力を試させて貰おうかネェ?」


「はい、全力で」

 

 闘技場に立ったレネゲイドと星将ーー。


 長い戦闘が終わった頃には、会場は跡形もなく崩壊しきっていた。





 戦闘を観察していたロクロは壊れたように笑い続ける。


 ーー規格外。このレネゲイド達はなんて規格外なんだ。

 一人は暴力的なまでの才能の塊。一人は貴重な魅了の魔眼の所持者。

 そして、もう一人はーー。


「僕の支配下で、能力を隠せるなんてネェ!? こんなの初めてだナァ!?」


 命令を無視して、ただ棒立ちを続けたレネゲイドだ。

 『持ちうる力の全てを使って目の前の敵を倒せ』という命令に一切の反応がなかった。

 何の力も持っていないとアピールしてくるかのように、ただ、棒立ちを続けてみせた。

 たが、そんなことはありえない。レネゲイドは最低でも、並みの騎士になり得る程度の能力は持ち合わせているはずだ。

 つまり。


「僕の知らない、未知の能力かネェ……!!」


 ロクロは手に持った調査書に書き記す。


 『三人のレネゲイドは最高位の個体だ。シルルトリア連合国の最高騎士として育成するに値する』と……。

 


***

 


 何故だ。不思議で仕方がない。


 僕は時々、朝起きた時に枕がびしょ濡れになっている事がある。この歳で、もの凄い寝相からのお漏らしってコンボのせいで濡らしたなんて事はない。


 涙のせいだ。寝ている時、涙が出ているらしい。


 さらに不思議なのが、枕を水浸しにしてしまう日には必ず、同じ夢を見ているという事だ。


 知らない場所で、知らない二人と、知らない飲み物を飲みながら、よく分からない話をして、よく分からないのに笑う夢。


 なんなんだろう、これ。



「起きて、エイトくん。朝食は取れたての野菜を使って作ったの。折角だから、冷めないうちに食べないと勿体無いわ?」


「はいー……ルキノさん」


 2階にある部屋まで来て、わざわざ起こしてくれるこの優しい人が、僕の命の恩人、ルキノ・イースタリアだ。


 ーーあれは今から二週間前のこと。

 僕はその時の記憶を……というか、それ以前の記憶を殆ど覚えていないんだけど、シルルトリア連合国のバーレンというスラム街で倒れている所を、ルキノさんが助けてくれたらしい。

 それ以来、東地区にあるルキノさんの家にお邪魔させて貰っている。


 しっかし、多分極限状態だったからなんだろうけど、こんな絶世の美女に『一緒に暮らさないか』って聞かれて、はいって答えたなんてなぁ……?

 異性を相手にするとロクに会話も出来ない僕が、一緒に暮らす事を認めたなんて、我ながら信じられない。

 

 らしくない事をしたせいで、命の恩人相手にいっつもビクビクしなきゃならないなんて残酷だ。


「いただきます」


「ふふふっ。召し上がれ」


 ぽわぽわーっと笑うルキノさん。

 やめて下さいその笑顔。飯が食えなくなってしまいます。

 なるべく顔を見ないようにして1口。


 ……うん。なんだろう、美味いんだけど、いっつも何かが違う感じがして、好きになれないんだよなぁ。ルキノさんの料理。

 この料理の味付けがちょっと口に合わないんですよねぇ、なんて切り出すのはどう考えても失礼なので控えておく。


 

「エイトくん、ちょっと聞いてもいい?」


「は、はい」


「この前、国を守る騎士になりたいって言ってくれたけれど、その気持ちはまだ変わってない?」


 ーー国を守る騎士になりたい、か。

 ルキノさんと一緒に暮らしている内に芽生えた、僕の人生の目標だ。


 ルキノさんみたいな星将になんてなれないかも知れないけど、どうしても騎士になってみたい。

 自分でも驚くくらいこの気持ちは強い。日に日に強くなっている気さえする。

 考えているだけで胸が熱くなってくるのだ。まるで、天命を与えられたかのような感覚があった。

 

「なりたいですよ。なってみせます」

「ーーそれなら良かった……のかしら。」

「え? い、今なんか言いましたか?」


「凄く嬉しい、って言ったのよ」


 照れ臭くてルキノさんの顔が直視出来なかった。

 でも、ちらっと横目で見た時、あんまり笑顔じゃなかった気がしたのは気のせいだろうか。


「もし騎士になるなら、合わせたい人がいるの」


「合わせたい人?」


「二人ね、アカツキニドウって男の子と、コザクラキョウカって女の子。知ってるかしら?」










「……えっと? 多分、知らないですけど……有名な人なんですか?」




 

 


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