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part6 集う才能の行方

 アカツキニドウに、コザクラキョウカ。

 すごく特徴的な名前だ。僕も人のこと言えないけど。

 それが理由か、近所のおばさんやら少年やらと比べものにならない位の猛スピードで名前を覚えられた。


 そんな二人と会うように勧められ、待ち合わせしたのは、美味い『ココアシ』が飲めるという事で個人的にブームになっていた喫茶店だ。

 奇遇な事に、アカツキニドウもこの店に通っていたという事で、集合場所がここになったのは運命のいたずらだろうか。


 なんにせよ、すごくありがたい。今日話題に困った時には、ココアシの話をすればいいからな。ははは、人と話すのはあんまり得意じゃないんです。


 その割に、二人と会うのに抵抗がないのは、境遇が似ていたからかもしれない。



「……おっ! ルキノさんちのエイトじゃねぇか! サラマンドラの串焼き食うか!? 出来たてはうめぇぞ!!」


 聞き馴染んだ声が飛んでくる。

 東地区から中央区に向かう大通り、やたら気前のいいこの露店おじさんを、僕は努力家のヒゲと名付けている。

 僕に優しくする事でルキノさんにアピールしようとする、その積極的なのか消極的なのか判断に困るアプローチだが、悲しい事に無意味だ。


 ……僕はルキノさんと全然喋らないからな! 全然喋れないからな! おじさんの話する余裕とかねぇから! ごめんな、努力家のヒゲ!


「今からココアシ飲みに行くから遠慮しておきます……」


「そうか! それは残念だ! ルキノさんによろしく!!」


 全然残念そうじゃない笑顔を浮かべながら、後半の方を強調してくるあたり、下心を隠す気がなさすぎる。

 明日から下心のヒゲと呼ぶ事にしよう。もちろん口には出さないが。

 

「ウェリストンのスカーフはいかが?」「上級装具が入荷したぞ!! 力自慢集まってこいや!」「ブルーツ売ってまーす、安いでーす、どうですかー」


 賑やかな通りはあんまり好きじゃないけど、ここは例外的に好きになれた場所だ。飛んでくる沢山の声が心地いい。

 売れるものならなんでも並んでいる露店が通りにずっと続いていて、そこを十人十色な格好をした人達が見たり買ったり、笑って行く。


 こんな光景がたまらなく好きだった。僕も道を通る一人になれている事が、無性に感動した。

 

 

 あっという間に通りを抜けてしまい、少し寂しい気持ちになりながらも、目的地まで歩いて行く。

 綺麗に立ち並んだ石造りの建物の中に、目立つオレンジ色の屋根の店があった。

 見間違う事はない、喫茶店『ウェーブル』だ。

 

 店の前にはイスとテーブルがいくつかあって、今は誰も座っていなかった。ガラス越しに見る店の中にも、僕と同年代の人は居そうにない。

 遠目で時計台の方を見てみれば、なるほど、早く来すぎたらしい。まだ朝7時だ。


 さて、ここで果てしない難問が僕を襲う。


 先に店の中に入っておくのが正解か、店の前で待つのが正解か……。どっちが無難だ! 考えろ、絶対に間違えるな……!


 ……あ、そうだ。遠くに隠れて様子伺っておけばいいんじゃ、


「すまない、もしかして君はーー。俺が捜し求めている青年、ヤシマエイトではないか?」


 そっと肩を叩かれて振り返る。


 豪華な装飾が施された黒鎧に、キラキラと煌めく黄金のマント……。

 そんな派手な格好が良く似合う好青年がそこには居た。


 ーーほう。誰だ。正直近寄りたくないタイプだが。


「えっと、そうですけど……どちら様ですか?」


「良くぞ聞いてくれた。俺の名は、アカツキニドウ。君の盟友になるべく、ここに馳せ参じた。以後、お見知り置きを」


 …………あぁ。

 イメージと違う。もっと、なんだろう、なんていうか、普通の感じをイメージしていたんだよ。僕と似た境遇だっていうからさ、地味な感じの人を想像してたんだけど、全然違ったわ。


 えぇ…………マジで?



「どうした、この鎧の美しさに惚れたか? そうかそうか、君にはこの鎧の良さが分かるか。うむ、細部まで意匠が込められた魂揺さぶる一品だろう? 

 君は、やがて盟友となる一人だ。今度、贈らせて頂こう」


「……えと」


 す、すごい勢いだな。てか、鎧くれるの? アレ、決して惚れ込んではいないけど、結構カッコイイよな……。とりあえず、いいヤツそう……なのか?


「遠慮はしなくていいぞ。この鎧はな、ものの価値が分からない奴らが良くない評判を流したせいで、不当に値下げをされていたという、悲しき運命を背負っているのだ。

 もちろん、だから、という訳ではないが。折角この鎧の良さが分かる者がいるというのなら、贈りたくなるのが俺のさがなのだ」


「そ、そうなんですね……ありがとうございます」


「いいさ、仲間ができて俺も嬉しいんだ。

 それよりーーそう固くなるな! 確か、俺もお前もココアシ好きだろう? ここまで趣味が一致すると来たら、もう俺達は友達だ!」


 ……おうふ。

 ガッチリと肩を組まれて、硬い鎧が体を圧迫する。

 


 いや、こんな街中で三人肩組んでたら変に目立つってーーん? 三人?

 


「私たち友達! いぇーい!!」


 あれーー誰だコイツ。なんでコイツまで肩組んでいるんだ?


「ちょ、ちょっと!? な、な、何してんの!?」

 

「……なにしてると思う?」


「ーーえ。えぇ、えーと、か、肩を組んで……」


「ちがうよ? ヤシマエイトくんに、キョウミもってもらいたくて……」


 ーー密着! すごい近い! 非常にマズイ!




「コザクラキョウカだよ? これから……よろしくね?」




 僕だけに聞こえるような小さい吐息混じりの声が、貫通弾となって脳髄を砕いた。



「……君の彼女か? 随分と美しい女性じゃないか、大切にするといい」


「いやいやいや!? ぜんっぜん違うから! コザクラキョウカだよ、コザクラキョウカ! もう一人来るって聞いてたでしょ! ……ひっ!」


 話している間にも、その手が体をこそばゆく撫でてきて、思わず離れてしまった。

 なんだこの……変態は。おいおい、さっきからあまりにも色物続きだぞ。


 僕の前予想が悲鳴を上げている。地味なの僕だけじゃん!


「えーと、今言ってくれたけど、コザクラキョウカです! 二人の話聞こえちゃって……オモシロそうだったからつい。驚かせてごめんね!」


 そういってぺこぺこと頭を下げて来るコザクラキョウカ。ああっ! いま着てるの緩いワンピース!

 ーーその度にちらつく魅力的な胸元が憎い!! 死ね、僕の煩悩!



「……さっき見てたでしょ? そんな風にしなくても言ってくれればーーーーなんてね!」


 店に入る途中、赤らんだ顔でそうささやかれた僕は、崖があればきっと秒速で落ちていたと思う。

 落とされた心はそう嘆いた。



 ***



「うまいな」

「うん」

「一口ちょうだい?」


「……いや、同じのだよね?」


 僕たち三人は、テラスにココアシやらお茶請けのお菓子やらを並べながら、すっかり話し込んでいた。

 驚くことに、二人といる時間は本当に楽しく思えた。

 まだキョウカさんとの会話は緊張するけど、それでも居心地は良い。こんな感覚始めてで、まるで夢のようだ。




 でも、だからこそ思う。僕にとって、この出会いは……少し、悲しい。


「あと一週間で、入学だよね」


「そうだな。その時は、俺達全員敵同士だ」


「仲間じゃないのいやだなー! どうしてなんだろ?」


 仲間じゃない。それはーー当たり前のことだ。


 何故なら、僕達が今日集まったのは他でもない。これから入学することになる、ラサム騎士学校の特待生の事前顔合わせだからだ。


 特待生は同じクラスメイトにはならない。そして、ラサム騎士学校では、他クラスは全員敵として存在する事になるーー。


 かの黄雷星、イルカリオス・ウェスタリアに見込まれたのが、アカツキニドウ。

 かの赤炎星、ゴルアド・サウスタリアに見込まれたのが、コザクラキョウカ。


 そして僕自身も、かの緑風星、ルキノ・イースタリアに見込まれて、ラサム騎士学校への入学が決まっているんだ。


 そんな僕達が一緒のクラスになる事は許されていない。

 だから、僕達は仲間ではないんだ。

 まだ、会って数時間なのに、その事実が強い喪失感として襲って来る。

 ただただ、悲しかった。理不尽だとも思った。でも、仕方ない。それがルールなんだ。



「まぁ、みんな敵ではあるかもしれないけど、それでも協力できる事はあるかもしれないし……」


「ーー本当にそう思うのか、エイト」


「いや……まあ、無理なのかな」


「むりかぁ……むりなのかなぁ?」



 ーーラサム騎士学校。5学年に階級分けされたこの学校で、進級する方法はただ一つ。

 

 学年ごとに与えられるグランドクエスト。それを、どこかのクラスがクリアすればいい。でも、進級できるのはそのクラスだけだーー。



「俺達は最高の騎士ーー星将を目指す者同士。断じて手抜きは許されない。たとえ、盟友が相手であってもな」


「……そっか。でも、しかたないよね」


 断言するニドウと、うつむきながらもそう答えるキョウカさん。

 僕はーー


「敵同士……いや、いいライバルでいよう」


 仲間ではなく、ライバルとして。何故か、ライバルという言葉を言った時、自分の中で何かが噛み合わないもどかしさを感じた。

 でも、敵よりはマシだ。


「ーーそうだな。

 俺達は盟友であり、ライバルだ! 切磋琢磨し、ラサム騎士学校の栄光の道を駆け抜けるライバルだ!」


「……うんっ! でも、あと一週間はこうして……ふつうのトモダチでいよう?」


「……そうだね、それがいい」



 僕達はどうしても敵同士になってしまう。だからこそ、こうしていられる一週間はすごく貴重だ。でも、そう思えばそう思うほど、時間は短く感じた。





 …………あれから一週間。あっという間に過ぎた時間。


 変わった事と言えば、あの泣いてしまう夢が、毎日ずっと続いたこと位だろうか。


 


これにて序章は完結となります。


これからも1章、2章と続いて参りますので、読者の皆様とは長いお付き合いになるかとは思いますが、どうかよろしくお願い致します。

更新ペースは今まで通りで変更はありません

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