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part4 そして世界は動き出す

 ちりっ、という音が微かに鳴ったその瞬間、星将達は窓のある方へ視線を向けた。

 ちりっ、ちりっ。と、音が続け様に2度鳴った。

 明らかに音は大きくなっている。

 しかし、その音がそれ以上続くことはなかった。


 何故なら、そんな小さな音ではなくなったからだ。


 大太鼓を打ち鳴らした時のような轟音が鳴り響き、閃光が窓を貫いた。

 星将達は驚愕に目を見開く。


 窓を突き破った雷はぐにゃりと曲がるように円卓の空席に直撃し、次の瞬間にはその場所で『黄雷星おうらいせい』の称号を持つ青年、イルカリオス・ウェスタリアが佇んでいたからだ。

 

 口喧嘩を続行していたはずのゴルアド、ウルスラの二人は黙り込み、ルキノは「まぁ? 珍しい」と一言呟く。


 ーー黄雷星、イルカリオス・ウェスタリア。

 金色の髪が少しかかった切れ長の碧眼からは、鋭い威圧感を感じさせ、彼がまだ18歳の青年だとは思わせない程の圧倒的な存在感を生み出している。


 急所になる部位を最低限覆うように設計された身軽な鎧は、傷一つなく新品同様の光沢を放っている。


 彼が腰に刺す剣を抜いた姿を誰も見たことはない。

 否、誰も見ることが出来ない。

 

 敵を見つければ神速の一撃で首を切り落としてしまうからだ。

 彼がいるところに敵は存在しない。


 人々はイルカリオスを、秩序を愛する星将と謳った。

 

「荒い訪問になってしまい、申し訳ありません」


 イルカリオスは小さく頭を下げてから、他の3人を見渡した。

 動揺するのも無理はないだろうと彼は思う。


 ーー4人いる星将が全員集まることなど滅多にない。その理由はイルカリオスにあった。

 シルルトリア連合国の西地区を守護する星将であるイルカリオスは、()()()()()()()決して西地区から離れないからだ。

 そのイルカリオスが姿を見せたという事はつまりーー。


「何があったんだァ!? イルカリオス!」


 ゴルアドが立ち上がる拍子に椅子を倒しながら大声を上げる。

 ウルスラとルキノは静かに立ち上がり、イルカリオスの瞳をじっと見つめる。

 静かな空間に一言、言い放たれたのは、


「我が国にも新手のレネゲイドが現れました」


 という、戦いの合図であった。

 イルカリオスは言葉を続けていく。


「レネゲイドは西地区の最西端、旧シルルトリア城の中に出現しました。

 すでに、ウェスタリアの騎士に命令して、城を包囲してあります。すぐに捕らえられるでしょう。

 我々はーー闘技場に向かいます。いいですね?」


 一瞬の沈黙を破ったのは誰の声でもなかった。


 激しい魔力の本流による爆音。

 

 聖将たちは薄く微笑み、臨戦態勢に入った。


 ゴルアドの周囲には炎が揺らめき、ウルスラの周囲には水が踊り、ルキノの周囲には風が舞う。


 雷走るイルカリオスが15階の窓から飛び出せば、その後を星将達が続いていき、屋根伝いに空を駆け抜けていくのだったーー。



***



「ねぇ、ここって」

「あんのうんだよ!」

「アンノウンだな」


 ニドーが変な事を言って、魔法陣が僕の足元に現れた。そこまでは覚えている。

 というか、一瞬前の出来事なので忘れる訳がない。三歩すら歩いてないしな。


「こんな簡単に行けるんだな……」


 体で分かっていても、気持ちが追いつかない。

 確かにアンノウンに行きたいと思ったし、これからプロジェクト・ラグナロクとやらを実行するのも賛成した。

 したんだから、アンノウンに行くのは当たり前だけど、マジでその間が何もないのは心臓に不親切すぎやしないだろうか。

 ニドーさんニドーさん。一応、非常食とか持って行きたかったんですけど。絆創膏とか消毒液とかそこらへんのものも。こんなアッサリ行っちゃっていいんですか?


「簡単に行けるし、簡単に戻れる。ワープマスター100の奥義にかかれば、この世は全て徒歩3分だ」


「徒歩じゃないじゃん! 3分もかかってないし!」


「いいツッコミだ」


 …………二人とも元気だなー。僕に元気を分けてくれ。

 溜め息一つ吐きながら、ひとまず周囲を眺めてみた。

 

 パッと見では、いまいちここがどういう場所なのかは分かりそうにない。

 石でできた建物なのは分かるけど、それだけしかまともな情報がない。

 この小さな部屋にあるものといえば、部屋の角にそれぞれ立つ不思議な石像と、今も足元で光り続けている巨大な魔法陣だけだ。

 怪しい建物としか言い表せない場所だな、うん。


「何でこんな変な所にワープしたの?」


「それな! ニドくんチョイス微妙ー」


「ワープマスターの力を持ってしても、無条件にどこへでもワープできる訳ではなくてな。

 ここはワープしやすい環境だった、とでも行っておこうか。

 だからここを選んだ訳だが……チョイスが悪いとは言わせないぞ? この部屋を出れば見方が変わるさ」


 ニドーがにやけながら部屋の扉を指差す。

 

「ホントに!? いこっ!」

「ーーえ。ちょ」


 突然手を握り締めるのやめてもらえませんか、死にます。


 そんな僕の心の声は届く訳もなく、グイグイ引っ張られるままに外へ出て、階段を登り、その光景を目の当たりにする。


「ここ、城か?」


 まさしく玉座の間、といった所だろうか。なるほど、確かにこれは良いチョイスだ。さっきの場所もある意味異世界感が凄かったけど、求めていたのはこういうーー


「お城! シャルウィダンス?」


 鏡花さんのハグは求めていない。全く持って求めていない。

 急に飛びついてきて、クルクルクルーと、僕を軸にして回るその姿は、無邪気な殺人鬼の姿だった。

 そうやってすぐに僕を殺そうとするのやめて下さい。


「に、に、ニドーと踊りなよ」


「……私と踊るのはイヤ?」


 ノー、イヤ。イエス、死ぬ。


「ここ、こういうの慣れてないからさ、と、とにかくやめよう」


「うーん。分かった!」


 よし、それで良い。物分りが良くて助かる。


「じゃあ、私の体は好きにして良いので、思う存分、練習しちゃって下さい!」


 よし、全然分かってねぇな。逃げよう。


「ねぇニドー! ここってどこから外に出るの!?」


 後からやってきたニドーが、壁にもたれかかって笑っていた。いや、助けろよ。

 無駄に間が開いてから「俺も何だかんだ来るのは初めてなんだ、一緒に探そう」と答えが返って来る。


 ……来たことないの? それって大丈夫なのか? 

 

 一瞬抱えた不安は「100の奥義である程度下調べはしてあるがな」という言葉ですぐに消え去った。


 淀みない足取りで進んでいくニドーを見て、鏡花さんがスキップしながら着いていく。

 解放された喜びと安堵で、何も考えず着いていった。気分が良かった。


「さて、ここを出たら外に出られるはずだ。どうせなら、一緒に扉を開けようか」


「いいね! やろやろー!」


 鏡花さんがニドーと僕の手を掴んで急かしてくる。拒否権はないらしい。まあ、拒否する気はないから別に問題ないけど。


「いくぞ」

「うん」

「あんのうんデビューだ!」


 ーーガチャ。










 僕は言葉を失った。



「前方!!! レネゲイドを確認!!! 魔導騎士隊、術式起動!!! 騎兵隊、攻撃が終わり次第拘束だ!!!」






 人がいっぱい、

 剣がいっぱい、

 槍がいっぱい、

 斧がいっぱい、

 





 炎がいっぱい、水がいっぱい、風がいっぱい、雷がいっぱい、こおりが……いっぱい、ばく……はつが……いっぱい。





 頭の中、文字がぐるぐる。

 言葉が、意味が、分からない。なんだこれ、なんだよこれ。

 





 ねぇよ、ふざけんな。



 意識がなくなった。










 

 

 

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