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元勇者と敵幹部が駆け落ちした隠れ家で、生まれる実家を完全に間違えた赤ん坊の受難  作者: ペクチン21字


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第9話:パパの嫉妬と、斜め上の戦闘術講座

「リリスばかりずるいぞ! 俺だって、俺だって格好いいところを見せたいんだーーーっ!」

翌日の朝、裏庭に響き渡ったのは、パパ(レオン)の血を吐くような叫び声だった。

見れば、パパはいつもの穏やかな服ではなく、全盛期を思わせるような傷だらけの頑丈な軽鎧ライトアーマーをきっちりと着込み、腰に木剣を携えて仁王立ちしている。相変わらずおむつの予備は大量に抱えているが、その目はガチだ。

「あらレオン? 嫉妬かしら? みっともないわよ」

横では、今日も今日とてクローゼットの奥から引っ張り出してきた、どこが隠れているのか分からないほど過激な黒エナメルの戦闘服を着たママが、フッと優雅に鼻で笑っている。

本人は至って大真面目な顔をしているのだが、布地が少なすぎて露出度がとんでもないことになっており、動くたびに鎖がジャラジャラと妖しく鳴り響いている。

「みっともなくたって構うか! 魔法ばっかりじゃなくて、パパの剣技かっこいいところも見たいよな!?」

レオンはリリスの直視できないほど過激な姿に顔を真っ赤にして目を泳がせつつも、すがるような目でガシッと私の両肩を掴んできた。

(いや、私はただ魔法の出力を上げて、思い通りのモノづくりがしたいだけなんだけど……。っていうかママ、本当にその格好でいくのね……?)

そんな私の困惑はお構いなしに、パパの熱血指導が始まってしまった。

「いいか! 魔法を使うにしても、まずは『身体の軸』だ! 敵の攻撃を避けるときのステップ、そして一歩を踏み出すときの体重移動……これができて初めて、どんな状況でもブレずに技を放てるようになるんだ!」

パパはフットワークを軽く刻みながら、目にも留まらぬ速さでシュシュッとステップを踏んでみせる。元一流の冒険者なだけあって、その動きは驚くほど洗練されていて無駄がない。

「ほら、パパの真似をして、こう、トントン、スッ、だ!」

「とんとん……すっ……?」

「あらあらレオン? 二歳の幼児にステップなんて無理に決まっているでしょう? もし転んで怪我でもさせたら……分かっているわね?」

ママがその破壊力抜群のプロポーションを堂々と揺らしながら、底冷えするような笑みを浮かべる。格好の過激さも相まって、迫力が完全に悪の女幹部そのものだ。レオンが「ヒッ……」と一瞬身をすくませたが、「いや、お前ならできる!」と必死に食い下がった。

差し出されたパパの大きな両手を掴みながら、私はよちよちと足を動かしてみる。

2歳児の短い足とおむつの厚みのせいで、トントンどころか、ただ「おっとっと」とバランスを崩して、不格好に身体が斜めに流れただけだった。危うくひっくり返りそうになり、パパの手にしがみつく。

しかし、その瞬間、パパの動きがピタリと止まった。

「……え?」

パパは目を見開き、信じられないものを見るように私の足元を凝視している。

「今……ただよろけたんじゃなくて、上体のブレを最小限に抑えるために、無意識に重心を滑らせて着地したぞ……!? なんだその神がかったセンスは! 転び方ひとつとっても、完全に一流の前衛のそれだ! やっぱり俺の娘は天才剣士の素質がある!!」

(いや、ただの2歳児がよろけただけなんだけど!?)

パパの凄まじい親バカフィルターによって、私の不格好なステップは天才の身のこなしへと脳内変換されてしまったらしい。

「なんですって!? この子は私に似て至高の魔導師になるのよ! 変な筋肉をつけさせないで!」

ママが不健全極まりないエナメル衣装のまま、フンスと胸を張ってレオンに詰め寄る。

「いいや、このよろけ方は前衛のセンスだ! 今日から毎日、俺がステップを叩き込んでやる!」

視線のやり場に困るほど過激な衣装のママと、顔を真っ赤にしながらも引き下がらない軽鎧のパパが、額を突き合わせて喧嘩を始めた。

その後ろで、シアが「お嬢様、何だかよく分かりませんが、パパ様をワンパンで沈められるくらい強くなりましょうね!」と、やっぱり物騒で温かい笑顔で拳を握っている。

(はぁ……。これからはお漏らし魔法特訓に加えて、パパの勘違いステップ特訓もメニューに入るわけね……)

両親の愛と嫉妬、そしてママのあまりにも過激すぎる格好のせいでカオスさを増していく特訓現場に、私は小さくため息をつくのだった。

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