第7話:お漏らしの代償と、ママの笑顔のスパルタ講座
(……んぅ……)
目が覚めると、私は夕暮れの柔らかな光が差し込む、我が家のベッドの上にいた。
全身の気だるさは少し残っているものの、身体はすっきりと綺麗に拭かれ、新しいおむつとはき慣れたズボンに穿き替えさせられている。
枕元には、涙目で私の手を握りしめているシア。そして、心配そうに覗き込んでくるレオンとリリスの顔があった。
「よかった、気がついた……! 驚かせやがって、魔力を使い果たして気絶するなんて。お前、まだ二歳なんだからな?」
レオンがホッとしたように胸を撫で下ろす。どうやら私をここまで運んでくれたらしい。
(……ってことは、あの瞬間の大決壊も、全部パパママ、それにシアに見られたってことよね……!?)
前世のアラサーとしての記憶が、羞恥心で大爆発を起こしそうになる。いくら2歳児の肉体の生理現象とはいえ、限界を迎えて漏らしながら白目をむいて倒れるなど、職人のプライドが粉々だ。顔がカッと熱くなるのを自覚する。
「お嬢様、ごめんなさい、私が止められなくて……」
シアが今にも泣きそうに長い耳をペタんと寝かせている。
「ううん。シア、悪くない。私が、無理した」
私は布団の中で小さく首を振り、自分の両手を見つめた。
ちょっと続けて魔法を絞り出そうとしただけで、気絶とお漏らしのダブルパンチ。これでは、これからのモノづくりなんてお話にならない。もっとあのお人形を思い通りに、いっぱい動かして遊ぶためにも、魔力をたくさん使えるようになりたい。
私は、ベッドの脇に座る母親のリリスを見上げた。
元敵幹部という、この世界でもトップクラスの魔法の使い手だったママなら、何か知っているはずだ。
「ママ。まほう、もっと、たくさん、だしたい。どうやるの?」
私がたどたどしく首を傾げておねだりすると、リリスは「あら!」と嬉しそうに両頬に手を当てて身を乗り出してきた。
「まあ、天使ちゃんが魔法の訓練に興味を持つなんて! いいわよ、ママがとっておきの方法を教えてあげる。魔力を増やしたいときはね、毎日お腹の中の魔力を『からっぽ』になるまで使い切るの。そうすると、寝て起きたときには、前よりもちょっとだけ器が大きくなっているのよ」
「からっぽ?」
「そう。お腹が空くまでいっぱい走ると、次からもっとたくさんご飯が食べられるようになるでしょう? それと同じよ。毎日、ちょっとずつ出し切る練習をしましょうね」
「出し切る」という言葉に、私の脳裏にさっきの感覚がよみがえる。
(……ってことは、あのお漏らしと気絶のセットを、これから毎日繰り返せってこと!? 嘘でしょ、過酷すぎるわ……!)
ママは聖母のような満面の笑みを浮かべているが、言っていることは完全に体育会系の限界突破理論だ。さすが元敵幹部、教え方の分かりやすさと引き換えに、要求してくる訓練内容が容赦ない。
「リリス、おい、さすがに二歳の子供にそれは……」
レオンが引きつった顔で口を挟もうとしたが、リリスは「あら、レオン? 何かしら?」と、笑顔のまま凄まじい威圧感を放った。レオンは「いや、なんでもないです」と瞬時に目を逸らして黙り込んだ。我が家の権力構造が垣間見えた瞬間である。
私はごくりと唾を飲み込み、シアを見た。
シアは私の覚悟を察したのか、小さく拳を握って「お嬢様、おむつの替えは、私がいくらでも用意しますから……!」と、ズレた、けれど涙が出るほど心強いサポートを約束してくれた。
(やるしかないわね。このちっぽけな身体を鍛え直さないと、私の作りたいものは何一つ形にできないんだから)
ママの笑顔の裏に隠されたスパルタな現実に戦慄しつつも、私は明日からの泥遊びに向けて、深く深く、覚悟を決めるのだった。




