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元勇者と敵幹部が駆け落ちした隠れ家で、生まれる実家を完全に間違えた赤ん坊の受難  作者: ペクチン21字


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第5話:初めての「魔力造形」は、不格好に動き出す

シアが我が家に来てから数週間。

少しずつ笑顔が増えた彼女と共に、私はついに異世界での「モノづくり」を本格的にスタートさせることにした。

とは言っても、今の私はまだ二歳児。当然、立派な道具なんて何もない。

そこで私は、器のような実用的なものではなく、まずは泥遊びの延長として、土を捏ねて「人形ひとがた」を作ってみることにした。

(前世の縄文土偶のようなものね。これなら多少歪んでも味になるし、指先のリハビリにはちょうどいいわ)

前世の知識を総動員し、ただの泥の塊にならないよう、手足の長さや全体のバランスを細かく計算しながら粘土の継ぎ目を滑らかに繋いでいく。シアが隣で「お嬢様、お上手ですね……!」と長い耳をパタパタさせながら、熱心に土をこねて手伝ってくれた。

そうして出来上がったのは、手のひらサイズの、ずんぐりむっくりとした不格好な土偶だ。

「これ、動かす。魔法で」

私はそう言って、裏庭の地面に置いた土偶の前に、小さな両手をかざした。

私の後ろでは、レオンとリリスが「お、ついに天使ちゃんが本格的に魔法を……!?」と息を呑んで見守っている。

(よし……イメージよ。自分の魔力を、この土偶の『骨組み』に見立てて、体の中にじわじわと染み込ませていくの。泥の粒子一つ一つに、私の意志を宿らせるみたいに……)

頭の中で土偶の構造を思い描きながら、体の中の細い魔力の流れを意識し、それを指先からじわりと放出する。

おろおろとした淡い光のような魔力が土偶を包み込み、茶色い泥の表面にじんわりと吸い込まれていく。最初の数分は完璧だった。

しかし、ここからが「職人の技」の本当の難しさだった。

(よし、ここから全体に魔力を循環させるわよ。立ち上がらせるために……!)

そう気合を入れた瞬間、私の肉体がまだ二歳児であることを、私の脳は忘れていた。

ほんの少しだけ魔力の流れを強めようとしただけなのに、まだコントロールの未熟な私の体は、加減が分からずに魔力を一気に流し込んでしまったのだ。

「あ、う……っ!?」

制御を失った魔力は、私の「土偶を形作りたい、動かしたい」という強い職人のイメージと混ざり合い、乱暴な塊となって土偶へと流れ込んでしまった。

すると、信じられないことが起きた。

茶色い土偶の短い手足が、ピクッと不自然に動いたのだ。

「え……っ? お、お嬢様、土偶が……!」

「おいおい嘘だろ!? 魔法の詠唱もなしに、ただの土塊を動かしたのか……!?」

レオンが驚愕して飛び起きる。

私の魔力を吸った土偶は、まるで生まれたての赤ん坊のように、よちよちと不格好に地面を一歩、二歩と歩き出した。

(えっ!? 嘘、本当に動いた!? 私はただ、自分の思い通りに形をコントロールしたかっただけなのに……!)

予想外の事態に、私の集中力が一瞬、完全に途切れた。

それが致命的だった。

所詮は、まだ水気を含んだだけの、もろい泥の塊だ。そこにまだ細い子供の魔力が急激に偏って流れ込み、さらに無理に動かした負荷に、土の強度が耐えられるはずがなかった。

三歩目を踏み出そうとした瞬間、土偶の足元から、バキッ!! と鈍い破壊音が響く。

「あ――」

声が出るよりも早く、動き出したばかりの土偶は、魔力の圧力と自重に耐えかねて、粉々に砕け散ってしまった。一瞬だけ灯った動きは消え去り、そこにはただの「崩れた土の山」が残された。

「う、うあぁぁん!!」

私は悔しさのあまり、今度こそ本気で二歳児の特権を使って大泣きした。

動いたことへの驚きよりも、職人として「自分が作った造形物が、自分のコントロールミスで自壊した」という事実が、とにかく死ぬほど悔しかったのだ。

「あわわ、お嬢様、泣かないでください……!」

シアが慌てて私を抱きしめ、泥だらけの私の顔を服の袖で拭いてくれる。

「天使ちゃん、大丈夫だ! 二歳で土を動かすなんて、それだけでも大したもんだよ!」

レオンたちが慌てて慰めてくれるが、私の心には一ミリも響かない。彼らは魔法が成功しかけたことを褒めているが、私が悔しいのは「土を思い通りの強度の作品に仕上げられなかったこと」なのだ。

シアに抱きついたまま、私は崩れた土の山を睨みつけた。

(……舐めてたわ。この世界の『魔力』というエネルギーは、前世のどんな道具よりも遥かに狂暴で、気まぐれだわ)

けれど、私の職人魂はこれっぽっちも折れていなかった。

土の密度、魔力の流し込み方、構造のバランス。それらを完璧に噛み合わせれば、次はもっと頑丈で、もっとイメージ通りに動くものを生み出せるはずだ。

(面白いじゃない。一筋縄ではいかないからこそ、職人は燃えるのよ)

私は涙をゴシゴシと拭うと、シアの胸から顔を離し、まだ裏庭に残っている綺麗な土をビシッと指差した。

「シア。もう一度。粘土、こねる」

「えっ? あ……はい! お供します、お嬢様!」

私の不屈の職人目に圧倒されたのか、シアは頼もしく笑顔で頷いてくれた。

チート能力で一発大成功、とはいかない。

けれど、この一筋縄ではいかない魔力という相棒を完全に手懐けた時、私はこの世界で誰も見たことがない、最高の作品を作ってみせる。

失敗した土の山を前にして、私はシアと共に、二度目の挑戦のための土を再び握り締めるのだった。

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