第13話:芸術の代償と、小さな戦利品
「……う、ううん」
目が覚めたとき、視界に飛び込んできたのは見慣れた自室の天井だった。
お腹の冷えも、おむつのゴワゴワした不快感もない。すべてはシアの手によって、完璧かつ迅速にリセットされた後だった。
(またやってしまった……。しかも今度は家の中じゃなくて、街の中央広場という最悪のステージで……!)
大人としてのプライドが、またひとつ音を立てて粉々になった気がする。
のそりと起き上がり、部屋の机の上に目をやると、あのハプニングの原因となった「青い鉱石の欠片」がちょこんと置かれているのが見えた。
(あ、パパたち、捨てずに持って帰ってきてくれたんだ……)
恐る恐るリビングへ向かうと、そこには今までに見たことがないほど魂の抜けた顔をしたパパとママが、並んでお茶をすすっていた。
「……リリス。俺、明日からどんな顔してあの市場に行けばいいんだ?」
「諦めなさい、レオン。あの土像、私たちが家を出た後も、崩れずにそのまま広場の名物になっていたわ……」
「嘘だろ……。よりによって、おむつを掲げたポーズの俺が街のランドマークになるなんて……」
元・英雄夫婦の威厳は、2歳児のやらかしによって完全に消滅したらしい。
リビングの隅で申し訳なさそうに佇む私に気づくと、パパがガタッと椅子を鳴らして駆け寄ってきた。
「レオン、目が覚めたか! 体調はどこも悪くないか!?」
「うん。パパ、ママ、ごめんなさい……」
小さな手を合わせてペコリと頭を下げると、両親は毒気を抜かれたように顔を見合わせた。
「いいのよ。まさかあなたが、あのクズ石の魔力に共鳴してあんなものを錬成しちゃうなんて、誰も予想できないもの。……それにしても、あの服のシワや筋肉のライン、プロの彫刻家も真っ青の出来栄えだったわね……」
「ああ、おむつの立体感なんて本物そっくりだったぞ。……いや、感心している場合じゃないんだが」
パパは頭を抱えつつも、どこか呆れたような、それでいて我が子の成長に驚く複雑な笑顔を浮かべた。
「でも、これで分かったわ」
ママが真面目な顔をして、私を見つめる。
「あなたには、土や石、鉱物の性質を見抜いて、それを自分のイメージ通りに組み替えてしまう特別な才能がある。あの広場の石畳の成分を瞬時に集めて、あそこまで頑丈な像に固定するなんて、普通の土魔法じゃ絶対に不可能な領域よ」
ママの言葉に、私はハッとした。
確かにあの時、私は泥を練る感覚のまま、石畳の「鉱物成分」を無意識に操作していた。泥よりもずっと硬く、不純物の多い石の成分を、自分の魔力で無理やり結合させたのだ。
(そうか……。私がこれからやるべきなのは、ただの泥遊びじゃない。土も、石も、鉄も、すべての無機物の構造を理解して、私の手で新しく造り変えることなんだ)
机の上に置いてある青い石を見る。
あの暴走の瞬間、石を通して周囲の「素材の細かな成分」が、驚くほどクリアに頭の中に流れ込んできた。この石は、私のイメージを物質へ伝えるための、最高のスキャナーであり触媒だ。
「パパ。わたし、あのいしで、もっとおべんきょうする」
「お、おう、いいぞ! でもな、次からは絶対に家の一歩も外に出ない裏庭だけでやってくれ。パパのライフはもうゼロなんだ……」
パパの切実な願いを神妙に聞き入れながら、私は小さな拳を握りしめた。
街での大失敗は最悪だったけれど、私は言葉にできない強力な能力の「使い方」を、確かにその身体に刻み込んでいた。
もらった青い石を相棒に、私のモノづくりは、泥人形からさらに一歩先の世界へと動き始めようとしていた。




