第12話:青い石と、予期せぬストリート・パフォーマンス
パパに買ってもらった青い鉱石の欠片をポケットの中で転がしながら、私はみんなの後をついて歩いていた。
市場を抜けて、街の中央にある大きな広場へと差し掛かる。そこには美しい大理石で作られた大きな噴水があり、多くの人々が休憩していた。
(うん、やっぱりこの石、すごく面白いわ)
歩きながらポケットの中で石に触れていると、お腹の奥の魔力がじわじわと吸い取られていくのが分かる。どうやらこのクズ石、魔力を流すと周囲の土や鉱物を引き寄せる、磁石のような特殊な性質があるらしい。
(ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ、魔力の流れをコントロールしてみようかしら)
目の前にある素材を自分の手で組み替え、新しい形を与えたい――そんな、理屈を超えた強烈な本能が背中を突き動かした。
裏庭での特訓のおかげで、今の私は歩いていても身体の軸がブレない。これなら移動しながらでも、ほんの少しなら魔力を練って石に流せるはずだ。
私は歩調を緩めることなく、お腹の奥の魔力を指先に集中し、ポケットの石へと細く送り込んでみた。
(あ、うまく連動できた! 歩きながらでも魔力がブレないわ!)
自分の成長が嬉しくて、ついつい魔力を流しすぎてしまった。
その瞬間、ポケットの青い石が「キィィン」と甲高い音を立てて輝きだす。
(あ、やべっ――)
次の瞬間、中央広場の地面――石畳の隙間から、大量の「砂」や「泥」が噴水のようにシュゴォォォ!と湧き上がってきた。
「な、なんだ!? 地面から泥が……!?"
「おい、噴水の周りの石造りの彫刻が、勝手に形を変えてるぞ!?」
広場がにわかに騒がしくなる。
私のポケットにある青い石を中心に、周囲の土や石の成分が共鳴し、勝手に集まってきてしまったのだ。しかも、私が普段から泥人形で鍛えている「形状コントロール」のイメージが、無意識にその土砂へ伝わってしまっている。
湧き上がった泥と砂は、みるみるうちに形を変え、広場のど真ん中に「ものものしく精巧で巨大な、パパとママのツーショット土像(ただし、パパがおむつを抱えているポーズ)」を爆誕させてしまった。
「ぶふっ……!? なんだあの像は!?」
「いや、めちゃくちゃリアルだけど、なんでおむつ持ってるんだ!?」
街の人々が大爆笑しながら、一斉に足を止めて集まってくる。
「れ、レオン……あれ、完全にあなたの顔じゃない……?」
「リリス、それよりお前、その横のポーズ、昨日のお前の派手な衣装の立ち姿にそっくりだぞ……!?」
両親が顔を真っ赤にしてガタガタと震えだした。
完全に我が家の恥部(特訓風景)が、超ハイクオリティな芸術作品として街の観光名所に刻まれてしまった瞬間である。
(ま、拙いっ……! 魔力を止めなきゃ!)
焦った私は、一気に魔力を遮断しようとした。
だが、急激に魔力を引き抜いたせいで、お約束の「あの感覚」が下腹部を襲う。
(あ、このタイミングで――っ!)
歩行をマスターしたはずの私の足が、がくがくと震えだす。
「お、お嬢様!? 急に白目を剥かないでください!」
「レオン、大変よ! この子、立ったまま漏らす気よ!?」
「ま、待て! ここは街のど真ん中だぞーーーっ!?」
お出かけの開放感と、無意識の能力暴走。
街のど真ん中で最大のピンチを迎えた私は、パパの必死の制止を遠くに聞きながら、立ったまま意識を失いかけるのだった。




