第11話:初めての街、初めての買い出し!
「レオン、シア! 今日はこの子がトコトコ歩けた記念日よ! クローゼットの奥から一番可愛いお出かけ服を出してちょうだい!」
「よし、俺が抱っこして……いや待て、せっかく歩けるようになったんだから、街で歩かせてみるか!?」
翌朝。私がよちよち歩きを卒業してトコトコ歩けるようになったことに大興奮した両親によって、急遽「家族みんなで街へ買い出しに行こうツアー」が開催されることになった。
(特訓ばかりで息が詰まりそうだったから、お出かけは素直に嬉しいわ! この世界の街がどうなっているのか、ずっと気になっていたのよね)
シアにいつもよりフリルの多い可愛いワンピースを着せてもらい、おむつも新品の吸水性抜群なやつをセット。準備万端で家を出た。
我が家があるのは街外れの静かな場所だったらしく、パパの手を握って少し歩くと、すぐに活気のある石畳の大通りへと出た。
「わあ……!」
思わず小さな声を上げてしまった。
立ち並ぶ木造や石造りの建物、お肉や果物の甘い香りが漂う露店、あるいはすれ違う人々の中には、たまに尖った耳をした人や、背の低いドワーフのような姿もある。前世の古い街並みをさらにファンタジーにしたような光景に、私の胸は一気に高鳴った。
「ほら見てレオン、街の人たちがみんなこの子にメロメロよ! 当然ね、世界一可愛いんですもの!」
ママが誇らしげに胸を張る。今日のママは普通の綺麗なワンピース姿だが、その圧倒的な美貌のせいで、すれ違う冒険者や商人たちがみんな二度見してフリーズしている。
「おいリリス、男たちの視線が気になるから、やっぱり俺が抱っこしていく。ほら、おいで!」
「パパ、だめ。わたし、あるく」
「うぐっ……! 我が子に拒否された……!」
ショックで崩れ落ちるパパの手を引っ張りながら、私はトコトコと石畳を踏みしめて進む。パパのしごき(ステップ特訓)のおかげで、デコボコした石畳の上でも身体の軸がブレず、一度も転ばずに歩けている。あの無茶な特訓も、全くの無駄ではなかったらしい。
「お嬢様、まずはあちら의市場で、今夜の夕食の食材を買いましょう」
シアに案内されて、賑やかな市場へと足を踏み込む。
色鮮やかな見たこともない野菜や、丸ごと燻製にされた巨大な魔獣の肉などが並んでいて、見ているだけで飽きない。
エンド、私の目が釘付けになったのは、鍛冶屋の店先や、鉱物・資材を雑多に扱う露店だった。
(……あ、あれは……!)
店先に転がっている、鈍く光る鉄塊や、加工前のゴツゴツした鉱石。そして地面の土。
前世で素材の性質を見極めてきた私の目は、その質感をじっと観察した。
(この街の近くで採れる鉄は、ちょっと不純物が多いわね……。でも、あの赤茶けた土壌は成分が詰まっていて、魔力を通しやすそう。もし私の魔法で『土や鉱物の成分』を完璧に精製して、分子レベルで結合をコントロールできたら……鉄よりも硬い土の人形や、強固な防壁だって作れるんじゃない?)
その瞬間、私の奥底に眠る「創造主の血」が、じりじりと熱く騒ぎ始めるのを感じた。
ただの泥遊びじゃない。ゆくゆくは土や鉱物を自在に操って、この世界を驚かせるような強固な物質を生み出す。そのための基盤が、今の泥人形作りの特訓なのだと確信した。
「あら、かっこいい石が気になるの? やっぱりパパに似て、少し冒険者寄りの気質があるのかしらねぇ」
ママが私の視線に気づいて、クスッと楽しそうに微笑む。
「うん。わたし、これ、ほしい」
私が露店の隅に転がっていた、不思議な輝きを放つ小さな青い鉱石のクズ石を指さすと、パパが「お安い御用だ!」とすぐに買い取ってくれた。
初めて手に入れた本物の鉱物素材。掌に乗るその冷たい感触に、小さな胸が高鳴る。
「よし、食材も買ったし、次はおもちゃでも買いに行くか!」
「レオン、その前にあなたの服を買い替えましょう。この子に引っ張られて、もうヨレヨレよ?」
賑やかな家族の会話を聞きながら、私は買ってもらった青い石を大切にポケットに仕舞い込んだ。
初めての外の世界は、想像以上に私をワクワクさせる刺激に満ちていた。




