表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

第8章「裏切りの魔眼」

異世界ダーク系の成り上がり物語です。

スマホで読みやすいよう一文を短くしています。

最後まで読んでもらえると嬉しいです。

奈落の入り口が見えた。


山脈の麓、 岩盤に開いた縦穴。


廃坑の枠組みだけが かろうじて残っていて、 あとは暗闇だけだった。


深さが分からなかった。


《索敵》を向けても、 底が掴めなかった。


「ここか」


リリィが言った。


「そうだ」


「入るのは、まだ早いんだろ」


「そうだ。 もう少し戦う」


入り口から離れた場所に 野営の準備をした。


ここ数日で 魔物の質が上がっていた。


奈落に近いほど 強い魔物が出る。


ヴォルクに届くには、 まだ足りない。


そう感じていた。


翌朝、 また動いた。


奈落の入り口を中心に 周囲を探った。


《索敵》に 重い気配が複数引っかかった。


最初の群れを処理した。


次の群れを処理した。


三つ目に差し掛かったとき、


セナが動いた。


俺は横目でそれを見た。


大型の魔物が リリィに向かっていた。


リリィが詠唱中で 動けなかった。


セナが間に入った。


速かった。


魔物の攻撃を 紙一重で躱して、


短剣を 魔物の首の付け根に当てた。


一撃だった。


俺は動きを止めた。


魔物が倒れる音がした。


リリィの詠唱が終わって 《ウォーターランス》が飛んだが、 もう必要なかった。


セナが振り返った。


「大丈夫?」


リリィに言った。


「……ありがとう」


リリィが帽子の鍔を直した。


俺はセナの後ろ姿を見ていた。


短剣を鞘に収める動作。


無駄がなかった。


刃を当てた場所が、 正確だった。


首の付け根。


鱗や厚い皮膚を避けて、 一番柔らかい場所を 一発で捉えていた。


ここにきてから感じていた違和感が、 また来た。


今回は、 さっきよりずっと強かった。


《シーフ》のスキルに、 あの精度は含まれていない。


見て覚えた動きとも、 違う。


体に染み込んでいる動きだった。


最初から、 持っていた動きだった。


俺は、 決めた。


「セナ」


「何?」


セナが振り返った。


自然な顔だった。


笑ってもいない、 警戒してもいない、 いつも通りの顔だった。


俺は鑑定の魔眼を向けた。


今まで一度も セナに向けたことはなかった。


必要がないと思っていた。


信じていた、 というより、


疑う理由がなかった。


一瞬だった。


スキル欄が見えた。


【――】 【精神操作Lv.2 記憶改ざんLv.5 隠蔽Lv.5 剣術Lv.6 黒魔法Lv.3 魔眼(火の魔眼) 詠唱破棄】


名前がなかった。


スキルが、 全部違った。


俺の頭が、 止まった。


精神操作。


記憶改ざん。


隠蔽Lv.5。


剣術Lv.6。


黒魔法。


魔眼。


詠唱破棄。


【シーフ 隠密Lv.2】


ではなかった。


最初から、 ずっと、


違った。


セナがまだ俺を見ていた。


同じ顔だった。


何も変わっていない顔だった。


俺は、 何も言えなかった。


声が、 出てこなかった。


「カイ?」


セナが少し首を傾けた。


「どうしたの」


その声が、 遠かった。


いつも聞いていた声なのに、


どこか遠くから 聞こえるような気がした。


俺は視線を外した。


外すしかなかった。


頭の中で、 言葉が並ばなかった。


精神操作Lv.2。


記憶改ざんLv.5。


隠蔽Lv.5。


剣術Lv.6。


剣術Lv.6。


俺はLv.7だ。


一つしか違わない。


あの動きの理由が、 やっと分かった。


「カイ、顔色が悪い」


セナがまた言った。


「休むか」


俺は答えなかった。


答えられなかった。


リリィが俺を見ていた。


何かを感じ取ったのか、 何も言わなかった。


ただ、 帽子の鍔を少し下げて、 俺とセナを交互に見ていた。


俺は、 一度だけ深く息を吸った。


確かめなければならなかった。


スキル欄を見ただけでは、 まだ分からないことがある。


なぜこのスキルを持っているのか。


いつから持っているのか。


セナが何者なのか。


【記憶読取Lv.2】


俺は持っている。


使ったことは数えるほどしかない。


相手の記憶を 断片的に読み取るスキルだ。


使っていいのか、 一瞬だけ考えた。


使った。


次の瞬間、 俺の頭の中に 別の視点が流れ込んできた。


夜の山の上から、 村を見下ろしている。


遠くに、 橙色の炎が見えた。


村が燃えていた。


その視点から見ている人間は、 何も感じていなかった。


燃えている。


そうか。


それだけだった。


うまくいくかもしれない。


絶望を強く与えれば、 スキルが開花するかもしれない。


死んだとしても、 また転生者を呼べばいい。


実験だった。


その視点は、 セナのものだった。


俺の頭の中で、 何かが、


音もなく、


崩れた。


アーシャが死んだ夜を、 思い出した。


声が出なくて、 涙も出なくて、 ただ膝が折れた夜。


あの夜は、


この女の実験だった。


リナが追いつかれた場面を、 思い出した。


ガルド爺さんが 鍛冶屋の前で倒れていた場面を、 思い出した。


名前も知らない村人たちを 一人ずつ埋めた朝を、 思い出した。


全部、


この女が、


実験として、


やった。


俺は、


その場に、


立っていた。


動けなかった。


怒りが来ると思った。


来なかった。


悲しみが来ると思った。


来なかった。


何も来なかった。


ただ、


今まで当たり前だと思っていた何かが、


根こそぎなくなったような、


そういう感覚だけがあった。


セナが、 俺を見ていた。


いつも通りの顔で。


「カイ、本当に大丈夫?」


心配そうな声だった。


俺を気遣う声だった。


俺はその声を聞いて、


初めて、


吐き気がした。


「……お前は」


声が出た。


自分でも驚くほど、 平らな声だった。


「お前は、最初から」


セナの顔が、 わずかに変わった。


笑ってもいない。


驚いてもいない。


ただ、 何かが切り替わったような、


そういう顔だった。


「見たんだ」


セナが言った。


確認するような声だった。


俺は答えなかった。


答える必要がなかった。


セナが少しだけ 息を吐いた。


「鑑定の魔眼か。 隠蔽Lv.5でも防げなかったんだね。 参ったな」


参ったな。


その言葉が、 俺の頭の中で 妙にくっきりと響いた。


参ったな。


村が燃えた夜を実験と呼んだ女が、


参ったな、と言った。


「記憶も読んだ?」


セナが聞いた。


俺は、 一度だけ頷いた。


セナが少し間を置いた。


「そっか」


それだけだった。


謝らなかった。


言い訳しなかった。


否定もしなかった。


ただ、 そっか、と言った。


「なんで」


俺は言った。


声が、 また平らだった。


怒鳴りたかった。


でも、 声が怒鳴り方を 忘れていた。


「なんで、村を」


セナが俺を見た。


「転生者のスキルを 開花させる方法を 試していた。 強い絶望を与えれば 開花するかもしれないって」


「それだけか」


「それだけ」


「死んでもよかったのか」


「死んだらまた呼べばいい。 転生者は何度でも呼べるから」


俺の中で、 また何かが崩れた。


アーシャの声を思い出した。


「ちゃんと食え」


その声が、 俺の中で一番温かかったものが、


この女の実験の副産物だった。


「奴隷商人も」


俺は言った。


「工作?」


「そう。 カイに義理を感じさせるために。 一人の方が スキルの成長が遅いから、 仲間が必要だった」


「俺がお前を助けたのも」


「計算通り」


計算通り。


あの夜、 食堂で男たちの声を聞いて、 シチューを最後まで食って、 外で待った。


あの全部が、 計算通りだった。


「セナという名前も」


「偽名。 私には名前がない。 ヴォルク様からは77番と呼ばれてる。 セナは私が好きで つけただけ」


好きでつけた。


セナ、と名乗ったとき、


宿の部屋で、


俺はその名前を頭の中で 繰り返した。


セナ。


同じ村にいて、 俺が知らなかった顔の一つ。


その記憶が、 今、


別の色に塗り替えられていった。


「楽しかったのか」


俺は聞いた。


「何が」


「俺たちと一緒にいたことが」


セナが少し間を置いた。


「任務だったから、 楽しいとか楽しくないとか そういうことじゃない」


その答えが、


一番、


こたえた。


怒りがあれば、 まだよかった。


悲しんでいれば、 まだよかった。


葛藤があれば、 まだよかった。


任務だった。


それだけだった。


俺が一人で 夜の王都を歩いていたとき、 金もなくて、 武器もなくて、


それでも前を向いていたとき、


隣に来た人間が、


任務だった。


深層で、 ビリーに追われたとき、


戦闘後に 俺の傷を見て 「ひどい」と言ったとき、


焚き火の前で 膝を抱えて空を見ていたとき、


全部が、


任務だった。


俺の中で、


何かが、


完全に、


折れた。


声が出なかった。


体が動かなかった。


思考が、 ばらばらになっていく感覚があった。


リリィが、 俺の横にいた。


何も言えないでいた。


状況が飲み込めないのか、 ただ立っていた。


「リリィ」


セナが言った。


「あなたのことは 嫌いじゃなかったよ。 本当に」


リリィが、 何も言えなかった。


「カイ」


セナが俺を見た。


「鑑定の魔眼で見たなら 分かると思うけど、 私には名前がない。 スキル欄に名前の欄がないの。 だから隠蔽で 好きな名前を入れられた」


「それが、セナか」


「そう。 気に入ってた」


気に入っていた。


俺が初めて聞いた名前。


宿の部屋で、


セナ、と言った声が、


頭の中で再生された。


その名前さえ、


偽物だった。


「奈落の最終階層で待ってるね」


セナが言った。


口元が、 わずかに動いた。


笑ったのかもしれない。


「じゃーね」


それだけ言って、


セナは奈落の入り口に向かって 歩き始めた。


止める気力が、 なかった。


止めようとして、


足が動かなかった。


声を出そうとして、


何も出てこなかった。


セナの背中が、 暗闇に消えた。


俺は、


その場に、


立っていた。


奈落の入り口から、 冷たい風が吹いてきた。


ザインが死際に言った言葉を、 思い出した。


「77番」


あのとき感じた違和感の、 答えが出た。


奴隷商人の家の小部屋で、 丸くなっていたセナを、 思い出した。


ふらついた足で立ち上がって、 俺の手を掴んだ。


あれも、


計算だった。


深層でビリーに追われた夜、


宿に戻ったら セナとリリィが待っていて、


セナが俺の手の傷を見て 「《ヒール》かけてあげたい」と 言ったことを、


思い出した。


全部が、


任務だった。


俺は、


アーシャのことを思った。


豆のスープを思った。


「ちゃんと食え」という声を思った。


その人が死んだのは、


俺のスキルを開花させるための 実験だった。


何かが、 顔を伝った。


気づいたら、 地面に膝をついていた。


いつ折れたか、 分からなかった。


リリィが、 俺の横に来た。


何も言わなかった。


ただ、 そこにいた。


俺は、


声を殺して、


泣いた。


あの夜に、 アーシャの遺体を前にして 泣いたときと、


同じだった。


違うのは、


あのときは 涙が枯れたら 立ち上がれた。


今は、


立ち上がり方が、


分からなかった。


どのくらいそうしていたか、 分からなかった。


リリィが隣にいた。


何も言わなかった。


何を言えばいいか 分からないのだろう。


俺も分からなかった。


風が吹いた。


奈落の入り口から来る風は 冷たくて、 底のない暗さを 孕んでいた。


立ち上がった。


膝が笑っていたが、 構わなかった。


リリィが俺を見た。


何か言おうとして、 やめた。


また言おうとして、 やめた。


「……カイ」


三度目で、 やっと声が出た。


「何があったか、 全部は分からない。 ただ、セナが」


「いい」


俺は言った。


「今は、いい」


リリィが口を閉じた。


俺は奈落の入り口を見た。


暗闇が、 ただそこにあった。


頭の中が、 ばらばらのまま、 動かなかった。


強くなると決めた。


奪い続けた。


王国の人々を守ると決めた。


ヴォルクを倒すと決めた。


その全部が、


今、


霧の中にあるみたいで、


掴めなかった。


分かっていることが 一つだけあった。


セナは奈落にいる。


ヴォルクもいる。


それだけだった。


「動けるか」


リリィが聞いた。


「動ける」


「嘘をつくな」


「……少し待ってくれ」


リリィが頷いた。


岩に背をもたれて、 黙って待った。


俺は地面を見た。


石が、 転がっていた。


山の岩が砕けた欠片。


昔、 村に石が転がっていた。


テオが俺に投げた石が。


草の匂いと土の冷たさと、 頭の上から降ってくる笑い声。


無能、と言いながら。 ゴミ、と言いながら。


その記憶の中に、


いつの間にか、


セナがいた。


村で何度かすれ違った顔。


奴隷商人の家の小部屋で 丸くなっていた背中。


俺が手を差し出したとき、 少し間を置いてから 掴んだ手。


あの手の感触を、


今でも覚えていた。


それが計算だったと、


今は分かっている。


なのに、


覚えていた。


「リリィ」


俺は言った。


「何だ」


「お前は、知っていたか」


「何を」


「セナのことを」


リリィが少し間を置いた。


「知らなかった。 ただ、」


「ただ?」


「何度か、おかしいと思ったことはあった。 動きが速すぎるとか、 カイの使う魔法に 驚かなさすぎるとか」


「言わなかったな」


「確信がなかった。 それに、」


リリィが帽子の鍔を下げた。


「私も、信じたかった」


その言葉が、


妙に、


刺さった。


リリィも同じだった。


信じたかった。


それだけで、


見なかった。


俺も同じだった。


疑う理由がなかった、 と思っていた。


ただ本当は、


疑いたくなかっただけだ。


あの夜に、 宿の部屋で、


セナ、と名乗った声を聞いて、


俺はその名前を 宝物みたいに胸の底にしまった アーシャの言葉と


同じ場所に、


置いていた。


気づいていなかった。


「カイ」


リリィが言った。


「怒っていいと思う」


俺は答えなかった。


怒れたら、 よかった。


怒りは、 前に進む燃料になる。


でも、


来なかった。


あの実験の記憶が、 頭の中で繰り返された。


燃える村を 遠くから見ているセナ。


何も感じていない目。


うまくいくかもしれない。


死んでも、 また呼べばいい。


俺の村の人間が、


その女には、


それだけの存在だった。


アーシャが、


ガルド爺さんが、


リナが、


名前も知らない人たちが、


試しに殺してみた命だった。


「カイ」


リリィがまた言った。


「聞いていいか」


「何だ」


「セナは奈落の最終階層で 待っていると言った。 それは、つまり」


「ヴォルクも、そこにいる」


「そうだな。 お前は、どうする」


俺は奈落の入り口を見た。


暗闇が、 そこにあった。


どうする。


答えが、 出なかった。


今まで一度も、 答えが出なかったことはなかった。


生き延びること。


強くなること。


止めること。


いつも、 次にやることが分かっていた。


今は、


分からなかった。


セナが待っている。


ヴォルクが待っている。


世界を終わらせる計画が、 動いている。


それでも、


足が、


動かなかった。


アーシャの顔が、


頭から消えなかった。


「ちゃんと食え」


その声が、


実験の副産物だったとしても、


熱かったことは、


本当だった。


豆のスープが薄かったことも、


熱かったことも、


本当だった。


それを奪った女が、


奈落の底にいる。


何かが、


ゆっくりと、


変わり始めた。


怒りではない。


悲しみでもない。


もっと暗くて、


もっと冷たくて、


もっと静かなもの。


1章の夜に、


ゴブリンと目が合ったとき、


俺の中で反転したものと、


同じものだった。


ただ、


あのときより、


ずっと深かった。


「リリィ」


「何だ」


「お前は、ここで待っていていい」


リリィが顔を上げた。


「何を言ってる」


「俺一人で行く」


「馬鹿なことを言うな」


「お前が来る理由はない。 セナは俺を騙した。 ヴォルクは俺を狙っている。 お前には関係ない」


リリィが立ち上がった。


帽子の鍔を上げて、 俺を真っ直ぐ見た。


「関係ある」


「ない」


「ある」


リリィの目が、 いつもと違った。


帽子の下から覗く目が、 ぶれていなかった。


「私はカイに 遠距離が必要だから声をかけられた。 それだけで仲間になった。 セナみたいに計算があったわけじゃない。 ただ、いたから、一緒に来た」


「だから関係ない」


「違う」


リリィが短く言った。


「一緒にいたから、関係ある。 それだけだ」


俺は、


何も言えなかった。


リリィが杖を構えた。


「行くぞ」


「……待て」


「何だ」


「お前が死んでも、 俺は知らないぞ」


「私が死なないように お前が頑張れ」


俺は、


リリィを見た。


小柄で、


帽子が大きくて、


焼き菓子が好きで、


魔法しか武器がないと言っていた女。


それが今、


ぶれない目で


俺を見ていた。


全部が崩れた後で、


一つだけ、


崩れていないものがあった。


俺は、


一度だけ、


深く息を吸った。


立ち上がる理由を 見つけるのに、


こんなに時間がかかったのは、


初めてだった。


「行くぞ」


俺は言った。


「最初からそう言ってる」


リリィが歩き始めた。


奈落の入り口が、


目の前にあった。


暗闇の底に、


セナがいる。


ヴォルクがいる。


俺は、


その暗闇を見た。


まだ、


全部が崩れたままだった。


それでも、


足は、


前に出た。


奈落の中は、 暗かった。


《夜目》を使った。


輪郭が浮かんだ。


通路が広くて、 天井が高くて、 壁から青白い光が 染み出していた。


《索敵》を展開した。


気配が、 山の外とは比べ物にならないほど 密だった。


至る所に、 何かがいた。


「多い」


リリィが言った。


「そうだ。 止まらずに進む」


「分かった」


俺は歩いた。


考えながら歩く余裕が、 なかった。


セナのことを考えると、 頭がまたばらばらになる。


だから、 目の前のことだけを見た。


最初に出たのは 悪魔型の魔物だった。


人型で、 翼があって、 体が黒かった。


鑑定した。


【奈落の使鬼 Aランク相当】 【スキル:闇魔法Lv.3、魔力吸収Lv.3、瞬歩Lv.3】


魔力吸収Lv.3。 瞬歩Lv.3。


今の俺はどちらもLv.2だ。


欲しかった。


「リリィ、光魔法で牽制しろ。 闇属性には光が効く」


「分かった」


「《サンダーショック》」


電撃が使鬼の翼を打った。


動きが鈍った。


俺は《瞬歩》で踏み込んだ。


使鬼が同じく《瞬歩》で 距離を取った。


速かった。


ただ、 《看破》で軌道が読めた。


先に動いた。


使鬼の移動先に 俺がいた。


目が合った。


右目が動いた。


瞬歩Lv.3。


代償が来た。


波が来て、引いた。


「《エリートヒール》」


次の瞬間、 使鬼が魔力を吸い始めた。


周囲の魔力が 使鬼に向かって流れる感覚があった。


俺の魔力も、 少し持っていかれた。


目を離さなかった。


右目が動いた。


魔力吸収Lv.3。


代償が来た。


「《エリートヒール》」


使鬼の魔力吸収が、 止まった。


スキルを奪われた側は 使えなくなる。


リリィの《サンダーショック》が 続けて当たった。


俺が《瞬歩Lv.3》で 懐に入った。


さっきより速かった。


段違いに速かった。


使鬼が反応する前に 短剣を入れた。


使鬼が崩れた。


「速くなった」


リリィが言った。


「そうだな。次だ。」


止まらなかった。


次は大型のアンデッドだった。


骨でできた巨人。


天井に届くほどの体格。


鑑定した。


【奈落の骸巨人 Aランク上位相当】 【スキル:死霊操作Lv.4、再生Lv.3、結界Lv.3、闇魔法Lv.3】


再生Lv.3。


結界Lv.3。


闇魔法Lv.3。


全部、 今の俺より上だった。


「リリィ、光魔法を全力で使え。 アンデッドの再生を 光で止められるか」


「試す」


「《サンダーボルト》」


光の電撃が 骸巨人の胸骨を貫いた。


砕けた。


ただ、 砕けた骨が また集まって戻った。


再生だった。


「光で抑えながら 連射し続けろ。 再生が追いつかないようにする」


「魔力が持つか分からない」


「持たせろ」


「……分かった」


リリィが連射した。


《サンダーショック》と 《サンダーボルト》を 交互に放った。


骸巨人が再生するたびに また砕いた。


その隙に俺は 骸巨人の目を探した。


骨の巨人に目はなかった。


ただ、 眼窩のくぼみに 青い光が灯っていた。


あれが核か。


《岩石操作》で 足元を崩した。


骸巨人がよろめいた。


その瞬間、 眼窩の光と 視線が合った。


右目が動いた。


再生Lv.3。 結界Lv.3。 闇魔法Lv.3。


三つ分の代償が来た。


今まで感じたことのない 深さだった。


「《ジェネラルヒール》」


全力で放った。


痛みが、 ぎりぎり引いた。


骸巨人の再生が止まった。


スキルを三つ奪われた骸巨人は、 ただの骨の山だった。


リリィの《サンダーボルト》が 最後の一撃を入れた。


崩れた。


静かになった。


「カイ、今のは」


「大丈夫だ」


「顔色が悪い」


「動ける」


「《ジェネラルヒール》を使ったな。 あれは本当にやばいときだけだろ」


「やばかった」


リリィが帽子の鍔を下げた。


「……無理をするな」


「無理をしないと 届かない」


リリィが何か言いたそうにして、 黙った。


鑑定を自分に向けた。


スキルを確認した。


増えていた。


再生、結界、闇魔法、 瞬歩、魔力吸収の上書き。


足りない、と思った。


まだ足りない。


進んだ。


次の群れに当たった。


悪魔型が四体、 アンデッドが三体、 混成だった。


「リリィ、中央を割れ。 《ウォーターランス》を 一直線に通せ」


「分かった」


「《ウォーターランス》」


水の槍が 悪魔型二体を まとめて貫いた。


俺は残りに向かった。


《瞬歩》で動きながら、 目を合わせ続けた。


右目が燃えた。


燃えた。


また燃えた。


代償が来るたびに ヒールで抑えた。


抑えながら動いた。


抑えながら奪った。


影操作Lv.4。 風魔法Lv.3。 死霊操作Lv.4。


頭の中に 知識が積み重なっていった。


スキルの数が 増えていくのが分かった。


どこかで、 セナのことが また浮かんだ。


押した。


考えるな。


今は動け。


「カイ」


リリィが言った。


「何だ」


「少し休まないか」


「まだ動ける」


「動けるかどうかの話じゃない」


俺は止まった。


リリィが俺を見た。


「セナのことを考えていると、 戦い方が変わる。 さっきから気づいていた」


「どう変わる」


「強引になる。 死ぬつもりで動いている人間の 動き方をしている」


俺は答えなかった。


「死ぬつもりか」


リリィが聞いた。


「違う」


「本当に?」


本当に?


分からなかった。


生きていたいのか、 今の俺には、 正直分からなかった。


ただ、


止めなければならない。


アーシャが死んだ理由を、 無駄にしたくない。


それだけが、 今の俺を動かしていた。


「死なない」


俺は言った。


「お前を置いて 死ぬつもりはない」


リリィが少し間を置いた。


「……分かった」


俺たちは 岩壁に背をつけて 少しだけ休んだ。


リリィが詠唱の練習を始めた。


奈落の中で、 静かに、 長い詠唱を通した。


「集え水よ、 大地より湧き出でよ、 意志を持て、 怒涛となれ、 全てを押し流す波となり、 形を成せ—— 《タイダルウェーブ》」


発動した。


通路の先に 巨大な水の波が生まれた。


壁に当たって、 砕けた。


轟音が奈落に響いた。


「……出た」


リリィが息を整えながら言った。


「出たな」


「威力は、まだ分からない」


「十分だ。 あれが通路を走れば、 まとめて薙ぎ払える」


リリィが帽子の鍔を少し上げた。


「……そうだな」


また動いた。


奈落の中層に入った。


気配がさらに濃くなった。


大型の悪魔が現れた。


翼が四枚あって、 体が赤黒くて、 目が六つあった。


鑑定した。


【奈落の上位悪魔 Sランク下位相当】 【スキル:魔力強化Lv.5、空間把握Lv.3、闇魔法Lv.4、魔眼(虚ろの魔眼)Lv.3】


Sランク下位。


今の俺たちには 重かった。


ただ、


逃げる気にはなれなかった。


「リリィ、《タイダルウェーブ》を使う機会があるか」


「通路が広ければ使える」


「使え。 俺が目を引きつける」


「一人で?」


「お前の詠唱を守る」


上位悪魔が動いた。


六つの目が 俺を捉えた。


《看破》を使った。


次の動きが分かった。


《瞬歩》で躱した。


闇魔法が飛んできた。


《結界》を展開した。


闇の弾が結界に当たって 砕けた。


「詠唱しろリリィ」


「もう始めてる」


上位悪魔が俺に集中した。


六つの目が追ってきた。


その中の一つと、 目が合った。


右目が動いた。


空間把握Lv.3。


代償が来た。


「《ジェネラルヒール》」


空間の広がりが 頭の中に入ってきた。


通路の形。


壁の位置。


上位悪魔の立ち位置。


全部が、 立体的に分かった。


もう一つの目と 合わせた。


魔力強化Lv.5。


代償が来た。


深かった。


「《ジェネラルヒール》」


体が、 変わった。


魔力の総量が、 今までと違う感覚があった。


「カイ、行くぞ」


リリィが言った。


「来い」


「集え水よ、 大地より湧き出でよ、 意志を持て、 怒涛となれ、 全てを押し流す波となり、 形を成せ—— 《タイダルウェーブ》」


巨大な波が通路を走った。


上位悪魔が翼を広げて 上に逃げようとした。


「《岩石操作》」


天井を引き下げた。


逃げ場を塞いだ。


波が直撃した。


上位悪魔が 通路の壁に叩きつけられた。


俺は《瞬歩》で 一気に詰めた。


残った目の一つと 合わせた。


闇魔法Lv.4。


代償が来た。


「《エリートヒール》」


短剣を入れた。


上位悪魔が崩れた。


静かになった。


リリィが膝をついた。


「魔力が、底をついた」


「《ジェネラルヒール》」


リリィに放った。


「……ありがとう」


「動けるか」


「少し待ってくれ」


俺は鑑定を自分に向けた。


スキルを数えた。


五十二個。


まだ足りないかもしれない。


ただ、


前より確実に、


届いている気がした。


セナのことが、 また浮かんだ。


今度は、 押さなかった。


奈落の底にいる。


待っていると言った。


俺は、 その暗闇の奥を見た。


行く。


感情じゃない。


誓いでもない。


ただの、


事実確認だった。


「行けるか」


リリィに聞いた。


リリィが立ち上がった。


帽子を被り直した。


「行ける」


二人で、


また歩き始めた。


奈落の底が、


近づいていた。


第八章、了。


カイ 


【強奪 身体強化Lv.5 投擲 鑑定の魔眼 白魔法Lv.4 赤魔法Lv.3 詠唱破棄 青魔法Lv.4 隠密Lv.3 索敵Lv.3 夜目 毒耐性Lv.3 麻痺耐性Lv.2 隠蔽Lv.2 鑑定阻害Lv.4 暗殺術Lv.4 斧術Lv.5 体力強化Lv.3 突進Lv.5 記憶読取Lv.2 話術Lv.4 魔力操作Lv.3 剣術Lv.7 死霊操作Lv.4 ネクロマンサーLv.3 魔力吸収Lv.3 岩石操作Lv.4 影操作Lv.4 風魔法Lv.3 気配遮断Lv.4 情報操作Lv.3 転移Lv.2 魔力強化Lv.5 結界Lv.3 瞬歩Lv.3 看破Lv.3 炎耐性Lv.5 俊足Lv.3 死霊憑依Lv.3 鱗防御Lv.4 闇魔法Lv.4 再生Lv.3 空間把握Lv.3】


リリィ


【青魔法Lv.5 水感知 光魔法Lv.2】


セナ 本当のスキル


【精神操作Lv.2 記憶改ざんLv.5 隠蔽Lv.5 剣術Lv.6 黒魔法Lv.3 魔眼(火の魔眼) 詠唱破棄】



読んでくれてありがとうございます。


執筆の裏話や書き方ノウハウは

noteで公開しています。

https://note.com/kimigasiromi


次話もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ