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第6章「理を知る者」

異世界ダーク系の成り上がり物語です。

スマホで読みやすいよう一文を短くしています。

最後まで読んでもらえると嬉しいです。

情報室を出た翌日、 三人で深層に向かった。


今日の目的は二つ。


スキルの底上げとネクロマンサーの討伐証明を得ること。


ギルドの情報室で 深層のネクロマンサーに関する 依頼書を見つけていた。


報酬は金貨三枚。


Cランク推奨と書いてあった。


「ネクロマンサーって どんな魔物なの」


セナが依頼書を見ながら言った。


「死者を操る術者だ。 骸骨騎士を生み出して 自分の盾にする」


「骸骨騎士」


「倒しても倒しても 術者が生きている限り また生み出す」


「じゃあ術者を先に倒せばいいんだね」


「そうだ。 ただ、術者は骸骨騎士の後ろに隠れる。 前を突破しないといけない」


リリィが杖を確認しながら言った。


「アンデッド系は 光魔法に弱いらしい」


「そうだな。 お前は光魔法を持っているか」


「持っていない。 ただ、青魔法との 組み合わせを試したい」


「どういう組み合わせだ」


「水を電気で帯電させる。 帯電した水をぶつければ アンデッドに効くかもしれない」


俺はリリィを見た。


「試したことはあるか」


「ない。 理論上はできるはずだ」


「ぶっつけ本番か」


「……まあ」


セナが笑った。


「リリィらしい」


「うるさい」


「でも面白そう」


「面白いかどうかは やってみないと分からない」


深層の入り口に着いた。


《夜目》を使った。


暗がりが、くっきりと見えた。


《索敵》を展開した。


「今日は奥まで行く。 ネクロマンサーは 深層の最奥部にいるらしい。 途中で出会う魔物は なるべく素早く処理する」


「分かった」


「うん」


入った。


最初に出たのは 影魔だった。


人型の、 黒い霧のような魔物。


鑑定した。


【影魔 Cランク相当】 【スキル:影操作Lv.2、隠密Lv.3】


隠密Lv.3。


今の俺はLv.2だ。


欲しかった。


「俺が行く。 二人は待機」


《身体強化》を使って踏み込んだ。


影魔が動いた。


霧のように形を変えて 俺の横に回った。


《索敵》で追った。


目が合った。


右目が燃えた。


隠密Lv.3。


代償が来た。


「《ヒール》」


無詠唱で抑えた。


影魔がまた動いた。


今度は背後に回ろうとした。


《隠密Lv.3》を使った。


気配が、さっきより深く消えた。


影魔が俺を見失った。


その隙に短剣を当てた。


影魔が霧になって消えた。


「速かったね」


セナが言った。


「隠密が上がった」


「また増えた」


「上書きだ。 数は変わっていない」


「そっか」


次に出たのは 上位の蜘蛛だった。


鑑定した。


【深層上位毒蜘蛛 Cランク相当】 【スキル:麻痺毒Lv.3、索敵Lv.3、糸操作Lv.2】


索敵Lv.3。


欲しい。


「リリィ、前を封じてくれ」


「《ウォーターカッター》」


水の刃が蜘蛛の脚を一本斬った。


蜘蛛が動きを止めた。


その一瞬、 目が合った。


右目が燃えた。


索敵Lv.3。


代償が来た。


「《ヒール》」


《索敵》の感度が上がった。


さっきより広く、 さっきより細かく、 気配が拾えた。


奥に進んだ。


中層を過ぎて 深層に入った頃、


炎魔が現れた。


人型で、 体全体が燃えていた。


【深層炎魔 Cランク相当】 【スキル:赤魔法Lv.3、炎耐性Lv.3、魔力強化Lv.2】


赤魔法Lv.3。


今のLv.2を上書きできる。


「セナ、下がれ。 リリィは水で援護」


「分かった」


炎魔が赤魔法を放ってきた。


「《ファイアランス》」


無詠唱で撃った。


炎魔の魔法と正面からぶつかった。


相殺した。


「火で火をか」


リリィが《ウォーターランス》を放った。


炎魔の体に当たって、 蒸気が上がった。


怯んだ。


その隙に踏み込んだ。


目が合った。


右目が燃えた。


赤魔法Lv.3。


「《ヒール》」


短剣を当てた。


炎魔が崩れた。


「順調だな」


リリィが言った。


「ただ、 《ヒール》を使う回数が多い。 魔力の消耗に気をつけろ」


「分かっている」


その後、 氷魔と風魔にも出会った。


氷魔から青魔法Lv.3を奪った。


風魔から風魔法Lv.2を奪った。


新しいスキルだった。


頭の中に風魔法の知識が入ってきた。


風を操る。


移動速度の強化と、 風の刃を飛ばすことができる。


セナはこっそりつぶやいた


「風魔法か…..」


岩石地帯に差し掛かったとき、 ゴーレムが現れた。


巨大な岩の塊が 動いていた。


【深層ゴーレム Bランク相当】 【スキル:岩石操作Lv.2、硬化Lv.4、体力強化Lv.4】


Bランク。


今の俺たちで 正面から戦えば 消耗が大きい。


「リリィ」


「《ウォーターカッター》で 関節部分を狙う。 岩でも繋ぎ目は柔らかいはずだ」


「そうだ。 セナは索敵と援護」


「分かった」


リリィが連続で 《ウォーターカッター》を放った。


ゴーレムの膝の部分を 正確に狙っていた。


三発目で 膝が崩れた。


ゴーレムが倒れた。


目が合った。


右目が燃えた。


岩石操作Lv.2。


「《ヒール》」


「リリィ、よかった」


セナが言った。


「狙い通りだった」


リリィが帽子の鍔を少し上げた。


「水は形を変える。 岩の隙間にも入れる」


「なるほど」


ゴーレムを倒した後、 影の濃い通路に入った。


そこで影魔の群れが現れた。


五匹。


俺が《影操作》を試した。


影を操って、 魔物の足元を縛った。


動きが止まった。


「おお」


リリィが《ウォーターカッター》で 一匹ずつ仕留めた。


そこから影操作Lv.2を 一匹から追加で奪った。


元から持っていたので上書きになったが、 感触を確かめた。


奥に向かって進んだ。


《索敵》が、 重い気配を拾った。


「前に何かいる」


「ネクロマンサーか」


「分からない。 ただ、今日一番重い気配だ」


広間に出た。


そこにいた。


黒いローブを着た、 骨と皮だけの人型。


ネクロマンサーだった。


その周囲に 骸骨騎士が三体。


鑑定した。


【深層ネクロマンサー Aランク相当】 【スキル:ネクロマンサーLv.3、死霊操作Lv.2、魔力吸収Lv.2、黒魔法Lv.3】


Aランク。


ただ、 ビリーやホブゴブリンと違って 戦闘特化ではない。


骸骨騎士を盾にして 後ろから魔法を放つタイプだ。


「骸骨騎士が盾になる。 前を突破して ネクロマンサーに近づく。 リリィ、骸骨騎士に 帯電した水を試してみろ」


「やってみる」


リリィが深く息を吸った。


詠唱が始まった。


「集え水よ、 電を纏え、 貫き焼き尽くせ。 《サンダーウォーター》」


杖から 青白く光る水の帯が生まれた。


骸骨騎士に向かって飛んだ。


当たった瞬間、 バチバチと音がした。


骸骨騎士が、 一瞬で崩れ落ちた。


「効いた」


セナが言った。


「効いた」


リリィが静かに言った。


「光魔法との組み合わせだ。 水が電気を通す」


「それ、どこで思いついた」


「本で読んだ」


残り二体も同じように崩れた。


ネクロマンサーが また骸骨騎士を生み出そうとした。


俺は踏み込んだ。


《身体強化Lv.4》と 《風魔法》を組み合わせた。


速度が、 さっきまでと全然違った。


ネクロマンサーの目の前に 一瞬で立った。


目が合った。


右目が燃えた。


ネクロマンサーLv.3。


死霊操作Lv.2。


魔力吸収Lv.2。


三つ分の代償が来た。


視界が揺れた。


「《ヒール》《ヒール》《ヒール》」


立て続けに放った。


ネクロマンサーが崩れ落ちた。


骸骨騎士が生み出される前に 術者を倒した。


静かになった。


魔石を回収した。


「終わったか」


リリィが息を整えながら言った。


「終わった」


「《サンダーウォーター》、 使えたな」


「そうだ。 光魔法はここから先も 使える場面が増えると思う」


リリィが少し笑った。


珍しい笑い方だった。


「今日はうまくいった気がする」


「足を引っ張らなかったな」


「引っ張るつもりはない」


セナが俺を見た。


「カイ、スキルいくつになった」


「数えていない」


「鑑定してみて」


鑑定眼を自分に向けた。


数えた。


二十九個。


「二十九か」


「多い」


「まだ増える」


「どこまで増やすの」


「必要なだけ」


三人で出口に向かった。


《サンダーウォーター》が 骸骨騎士を一撃で崩したことを 頭の中で反芻した。


リリィは本を読んで 理論を作った。


そして実戦で試した。


こういう仲間がいることを、 俺はどう思っているのかうまく言葉にならなかった。


ただ、


悪くないとは思った。


何度目かのその感覚だった。


翌日の夜、 サーレンの屋敷に向かった。


前回と同じルートで、 裏口から入った。


書斎の扉を開けた。


サーレンがいた。


前回と同じ場所に、 同じ姿勢で座っていた。


今回は驚かなかった。


「また来たか」


「また来た」


「今度は何を聞きたい」


「キューロットについて」


サーレンが羽ペンを置いた。


長い沈黙があった。


「……前回は知らないと言った」


「嘘だった。 顔が変わったから分かった」


サーレンが俺を見た。


前回より少し疲れた顔をしていた。


「どこまで知っている」


「四人の集団。 世界の理に関与している。 転生者のエネルギーを利用しようとしている。 それだけだ」


サーレンがため息をついた。


「……よく調べたな」


「教えてくれるか」


「教えたら俺はどうなる」


「何もしない。 王都を出て もう戻ってこなければいい」


サーレンが少し考えた。


それから話し始めた。


「キューロットは 三百年前から存在する組織だ。 世界の終わりを望んでいる。 奈落のドラゴンを完全覚醒させることが 最終目的だ」


「ドラゴンに世界を終わらせる」


「そうだ。 奈落の最深部に 古いドラゴンがいる。 空間と時間を操る力を持つが、 今は眠っている。 完全覚醒させるためには 転生者のエネルギーが必要だ」


「なぜ転生者のエネルギーが必要なんだ」


「ドラゴンは 異界のエネルギーでしか 完全には覚醒しない。 転生者を奈落に届けて エネルギーをドラゴンに吸収させる。 それがキューロットの計画だ」


「イグニスという名前を 聞いたことがあるか」


サーレンが少し目を細めた。


「オペレーション名だ。 炎で世界を焼き尽くす、 という意味を持っている」


俺は黙った。


全部が繋がった。


「キューロットの四人は誰だ」


「党首はヴォルク。 第二位がザイン。 第四位がルーカだ」


「第三位は」


サーレンが首を振った。


「知らない。 第三位については 俺には何も情報がない。 キューロットの外には その存在すら漏れていない」


「存在すら知らないのか」


「そうだ。 四人いるという話は ヴォルクと直接やり取りをした 一部の人間しか知らない。 第三位が何者かは 俺には全く分からない」


俺は黙った。


第三位が何者か分からない。


キューロットの外には 存在すら漏れていない。


「ザインとルーカの強さは」


「ザインはSランク相当。 実戦では王国最強クラスと 互角以上に戦える。 ルーカは戦闘力は低いが 転移と情報操作を持っている。 逃げ切られたら捕まえられない」


「ヴォルクは」


「ドラゴンに変身できると聞いている。 真偽は分からない」


俺は立ち上がった。


「ありがとう」


「……また来るか」


「来ない。 もう必要な情報は聞いた」


サーレンが俺の背中に言った。


「忠告しておく。 キューロットと戦うなら 周りを信用しすぎるな。 それだけだ」


なぜそう言うのか、 聞かなかった。


扉を出た。


外でセナとリリィが待っていた。


「何か分かったか」


リリィが言った。


「色々と」


「歩きながら話す」


三人で歩いた。


人気のない道を選んだ。


「ドラゴンを完全覚醒させるために 転生者のエネルギーが必要だ。 俺を奈落に届けることが キューロットの目標になっている」


「どうする」


「向こうが来る前に こちらから潰す。 明日、山の麓の小屋に乗り込む」


「分かった」


リリィが頷いた。


セナが前を向いたまま言った。


「キューロットの構成員の名前は分かったの」


「ザインとルーカ。 党首はヴォルク」


「第三位は」


「サーレンには分からないそうだ。 外部には情報が一切漏れていないらしい」


「そっか」


セナが頷いた。


自然な反応だった。


何も変わらない顔だった。


俺はその顔を見た。


サーレンの言葉が 頭の中に残っていた。


周りを信用しすぎるな。


外部には情報が漏れていない第三位を、


セナは何も聞かずに 「そっか」と言った。


俺たちは宿に戻った。


リリィがすぐ眠った。


セナが外套を手入れしていた。


俺は天井を見た。


第三位の存在が 外部には漏れていない。


キューロットの人間だけが その存在を知っている。


ならば、 第三位が誰かを知っているのは キューロットの内部だけだ。


俺はセナを見た。


手入れをしているセナの横顔を見た。


いつも通りの顔だった。


答えを出すのをやめた。


明日、 小屋に乗り込む。


戦えば分かることがある。


それだけを考えた。


目を閉じた。


翌日の朝、 三人で山に向かった。


王都の東門を抜けて街道を外れて、 山道に入った。


昨日と同じ道だった。


ただ、 今日は昼間だった。


木漏れ日が地面に落ちていた。


鳥の声がした。


「昨日と全然雰囲気が違うね」


セナが言った。


「昼だからだ」


「夜に来たら怖そうだったけど、 昼間は普通の山だ」


「中身は変わらない」


「そうだけどね」


リリィが前を向いたまま言った。


俺は《索敵》を展開しながら歩いた。


山道を一時間ほど登ったところで、 小屋が見えてきた。


昨日と同じ場所に、 同じように明かりがついていた。


《索敵》で確認した。


中に二人。


気配は昨日と同じだった。


「いる。 二人とも中だ」


「このまま乗り込むか」


「そうだ。 奇襲をかけた方がいい。 《隠密》を最大限に使って 扉まで近づく」


三人で《隠密》を使った。


俺はLv.3、 セナはLv.2、 リリィは持っていない。


「リリィはセナの後ろについて動け。 セナの隠密でギリギリ気配が薄くなる」


「分かった」


ゆっくりと小屋に近づいた。


《索敵》で中の動きを確認した。


二人は動いていなかった。


気づいていない。


扉の前まで来た。


俺は扉に手をかけた。


一呼吸置いた。


蹴り開けた。


中に二人がいた。


テーブルを挟んで 向かい合って座っていた。


片方が痩せた男だった。


ザインだ。


もう片方が白髪の女だった。


ルーカか。


二人が俺たちを見た。


ザインが立ち上がった。


「来たか。隠密なんて意味ないのに…」


「来た」


「早かったな。 まだ来ないと思っていた」


「向こうが来る前に潰す方が早い」


ザインが少し笑った。


「合理的だ。 ただ、お前たちだけで来るとは 思わなかった」


「十分だ」


「そうか。 なら確かめよう」


ルーカが立ち上がった。


白髪の女が 俺を見た。


目が細かった。


表情がなかった。


鑑定眼を使った。


【スキル:―――】


空白だった。


鑑定阻害を持っている。


ただ、 前回と違って 名前だけは見えた。


【ルーカ】


【ザイン】も見えた。


スキルは見えなかった。


「逃げるなよ」


俺はルーカに言った。


「転移を持っているのは知っている」


ルーカが少し目を細めた。


「……鑑定眼か。 前回は名前が見えなかっただろう」


「今は見える」


「面白いな」


ザインが剣を抜いた。


「始めよう」


ザインが動いた。


速かった。


この前接触したときより明らかに速かった。


本気で来ていた。


《身体強化Lv.4》と《風魔法》を 同時に使った。


速度が上がった。


ザインの剣を ギリギリで躱した。


「速くなったな」


ザインが言った。


「少しだけな」


「少し、か。 ならもう少し本気を出そう」


ザインが 《闘気》を使った。


体の周囲に 濃い魔力が纏わりついた。


圧が、変わった。


「リリィ」


「分かってる」


リリィがルーカに向かって 《ウォーターカッター》を放った。


ルーカが横に転移した。


「そう簡単には当たらない」


ルーカが言った。


セナがルーカに向かって踏み込んだ。


短剣を抜いて、 速く動いた。


ルーカがまた転移した。


「面白い動きをするな」


ルーカがセナを見た。


「お前、《シーフ》にしては速すぎる」


「うるさい」


セナが答えた。


俺はザインに集中した。


《索敵Lv.3》で ザインの動きを追った。


《剣術Lv.3》の知識と ザインの動きを照らし合わせた。


次の軌道が読めた。


踏み込んだ。


ザインの剣を受け流して、 懐に入った。


目が合った。


右目が燃えた。


剣術Lv.7。


代償が来た。


今まで感じたことのない深さの痛みだった。


Lv.7の代償は、 Lv.3とは格が違った。


視界が消えかけた。


「《ハイヒール》《ハイヒール》《ハイヒール》」


立て続けに無詠唱で放った。


視界が戻った。


頭の中に 剣術の知識が流れ込んできた。


今まで使っていたものとは 密度が違う。


体が、 剣の使い方を知っていた。


ザインが俺を見た。


「剣術を取ったか」


「そうだ」


ザインが少し表情を変えた。


「剣術Lv.7を奪ったとして、 お前の体がそれに耐えられるか」


「試してみる」


短剣を構え直した。


さっきまでと 握り方が変わっていた。


体が勝手にそうした。


ザインが再び踏み込んだ。


今度は受け流すのではなく、 剣術の知識を使って 正面から対応した。


鍔迫り合いになった。


ザインが驚いた顔をした。


「……本当に使えるのか」


「奪ったスキルは使える」


「化け物だな」


「よく言われる」


横でリリィが苦戦していた。


ルーカが転移を繰り返して リリィの魔法を全部躱していた。


「当たらない」


リリィが歯を食いしばっていた。


魔力の消耗が見えた。


セナがルーカを追い続けていた。


転移のたびに 《索敵》で追って、 また踏み込んで。


ルーカが転移するたびに 少し遅れて追いついていた。


「しつこいな」


ルーカが言った。


「転移でどこまで逃げられる」


セナが静かに言った。


俺はその声を聞いた。


いつもと少し違った。


淡々としていて、 冷たかった。


考える間もなかった。


ザインが来た。


《身体強化》と《風魔法》を 全力で使った。


《剣術Lv.7》の知識を使って ザインの攻撃を捌いた。


五合、十合、打ち合った。


消耗してきた。


ザインの方が まだ余裕があった。


「《ネクロマンサー》」


俺は無詠唱で放った。


地面から骸骨騎士が二体現れた。


ザインが目を丸くした。


「ネクロマンサーまで持っているのか」


骸骨騎士がザインに向かった。


ザインが骸骨騎士を 剣で砕いた。


ただ、 その一瞬、 ザインの注意が分散した。


踏み込んだ。


目が合った。


右目が燃えた。


身体強化Lv.5。


代償が来た。


「《ハイヒール》《ハイヒール》」


体が、また変わった。


Lv.4とLv.5の差が はっきりと分かった。


動きが、 一段上がった。


「また奪ったか」


ザインが言った。


余裕が、少し消えていた。


「一個ずつ追いついている」


「面白い戦い方をする」


「お前から全部奪うまで終わらない」


ザインが《闘気》を さらに強めた。


圧が増した。


骨が軋む感覚があった。


「リリィ」


「分かってる」


リリィが詠唱を始めた。


「集え水よ、 電を纏え、 嵐となれ。 《サンダーストーム》」


初めて聞く詠唱だった。


第三位階を超えた何かか。


小屋の中に 帯電した水の嵐が広がった。


ザインが吹き飛んだ。


ルーカが転移で逃げようとした。


セナが先回りしていた。


「なぜ場所が分かる」


ルーカが言った。


「勘だよ」


セナが笑った。


その笑い方が、 少し違った。


ルーカの動きが止まった。


セナの短剣が ルーカの腕に当たった。


「《ハイヒール》でも治せない傷を つけることもできるけど」


セナが静かに言った。


「大人しくしてくれる?」


俺はその言葉を聞いた。


《ハイヒール》でも治せない傷。


なぜセナがそれを知っているのか。


考える間もなかった。


ザインが立ち上がった。


リリィの《サンダーストーム》を まともに食らったはずだった。


それなのに、


立っていた。


「面白かった。 久しぶりに楽しめた」


ザインが剣を構え直した。


「ただ、ここまでだ」


体の周囲の《闘気》が変わった。


色が変わった。


さっきまでの濃い魔力が、 黒みがかった何かに変質した。


圧が、爆発した。


俺は吹き飛んだ。


何もされていないのに、 ただの圧だけで 体が後ろに飛んだ。


壁に激突した。


「《闘気開放》だ」


ザインが静かに言った。


「身体能力が 通常の三倍になる。 お前の《身体強化Lv.5》でも 追いつかない」


立ち上がろうとした。


足が震えた。


《ハイヒール》を放った。


立てた。


ザインが踏み込んできた。


《剣術Lv.7》の知識を使って 受け流そうとした。


弾き飛ばされた。


力が、違いすぎた。


剣術の知識があっても、 純粋な力の差を 技術では埋められなかった。


また壁に当たった。


今度は受け身を取れなかった。


肋骨が、鳴った。


「《ハイヒール》」


魔力が、 さっきより減っていた。


ザインが来た。


また来た。


また来た。


受け流すたびに弾かれた。


躱すたびに追いつかれた。


剣術の知識が、 全部無意味だった。


「理解したか」


ザインが言った。


「スキルを奪っても、 それを活かせる体がなければ 意味がない。 お前はまだ、 俺の剣術を扱える体じゃない」


俺は床に膝をついた。


《ハイヒール》を放った。


立つだけの回復をして、 また立った。


横でリリィが叫んだ。


ルーカが転移を繰り返していた。


一瞬ごとに場所が変わって、 リリィの魔法が全部空振りだった。


そのたびにルーカが近づいて、 体術で打ってきた。


リリィの顔に血が滲んでいた。


帽子が落ちていた。


杖を構えたまま、 それでも詠唱しようとした。


詠唱の途中で ルーカが現れて打った。


また途中になった。


「魔法使いは詠唱中が隙だな」


ルーカが言った。


「転移を持っている相手には 長い詠唱は使えない」


リリィが倒れた。


杖を支えにして 立とうとした。


立てなかった。


「リリィ」


俺は動こうとした。


ザインが俺の前に立った。


「そちらに行かせる気はない」


ザインの剣が来た。


俺は受けた。


弾き飛ばされた。


今度は立ち上がれなかった。


魔力が、 底を突きかけていた。


体が、 悲鳴を上げていた。


《ハイヒール》を放った。


立つだけの力が戻った。


セナが動いていた。


ルーカに向かって 何度も踏み込んでいた。


ルーカが転移で躱すたびに、 次の場所に先回りしていた。


ただ、 それだけだった。


倒せていなかった。


足止めをしているだけだった。


ルーカがセナを見た。


「面白いな。 私に攻撃をしてくるとは。」


「うるさい…」


セナが答えた。


冷たい声だった。


俺はまた立った。


ザインが来た。


今度は 剣ではなく拳だった。


腹に入った。


息が出た。


床に崩れた。


《ヒール》を放った。


立ちたかった。


立てなかった。


終わりかもしれないと思った。


その瞬間、


ザインが吹き飛んだ。


セナが、 ザインの横腹を打っていた。


短剣ではなく、 体ごとぶつかるような一撃だった。


ザインが壁に激突した。


「なぜ助ける」


ザインが言った。


セナを見た。


「お前は、なぜ」


セナは答えなかった。


振り返らなかった。


俺の方を向いた。


「カイ、立てる?」


俺はセナを見た。


セナの顔を見た。


いつもと違った。


表情がなかった。


ただ、 俺を見ていた。


「立てる」


俺は言った。


嘘だった。


それでも立った。


「なぜ助ける」


ザインがもう一度言った。


今度は低い声だった。


「お前は任務を放棄するのか」


セナは答えなかった。


俺はザインの言葉を聞いていた。


任務。


ザインがセナに言った言葉。


考える余裕がなかった。


ザインが立ち上がった。


《闘気開放》がまだ続いていた。


頭の中に言葉が浮かんだ。


白魔法Lv.4。


いつ上がったのか、 分からなかった。


ただ、 頭の中に第四位階の白魔法が 流れ込んできた。


俺は声にした。


「《ジェネラルヒール》」


光が広がった。


自分だけでなく、 半径十歩以内の全員に 光が当たった。


リリィが顔を上げた。


体の傷が塞がっていた。


魔力が、 戻ってきていた。


「第四位階の白魔法か」


ザインが言った。


「回復魔法をそこまで使えるとは」


リリィが立ち上がった。


杖を拾った。


俺を見た。


「カイ」


「何だ」


「前に本で読んだ魔法がある。 極大魔法だ。 詠唱に一分かかる。 その間、時間を稼いでくれ」


一分。


今の状況で一分。


ただ、 リリィがそう言った。


「分かった」


「私も行く」


セナが言った。


三人で動いた。


俺がザインの前に出た。


セナがルーカを追った。


一分間が始まった。


リリィが詠唱を始めた。


低く、長い詠唱だった。


ザインが俺に来た。


《身体強化Lv.5》と 《風魔法》と 《剣術Lv.7》を全部使った。


全部使っても、 まだ押されていた。


「詠唱を止めに行く」


ザインが言った。


俺の横を抜けようとした。


「通さない」


体を張った。


ザインの拳が腹に入った。


吹き飛ばされながら、 足にしがみついた。


ザインが止まった。


「離せ」


「嫌だ」


もう一発来た。


肩に入った。


腕の感覚が消えた。


それでも離さなかった。


《ハイヒール》を使った。


セナがルーカを追い続けていた。


転移のたびに先回りして、 逃がさなかった。


ルーカが詠唱しようとするたびに 踏み込んで止めた。


「なぜ邪魔をする!」


セナは答えなかった。


ただ動き続けた。


三十秒が過ぎた。


ザインが俺を 床に叩きつけた。


視界が揺れた。


立とうとした。


立てなかった。


ザインがリリィに向かった。


「止める」


俺は《影操作》を使った。


ザインの足元の影を 掴んだ。


動きが鈍った。


一秒だけ。


その一秒で セナがザインの前に出た。


ザインの腕を取った。


ルーカが転移してセナの背後に出た。


セナが後ろに肘を入れた。


ルーカが吹き飛んだ。


五十秒。


ザインがセナを振り払った。


セナが壁に当たった。


それでも立った。


「なぜそこまでやる」


ザインが言った。


セナは答えなかった。


ただ前に立った。


五十五秒。


ザインが俺を見た。


「お前にはそれだけの価値があるのか」


「知らない」


「77番は、 お前のために任務を曲げているのか」


俺はその言葉を聞いた。


77番。


六十秒。


リリィの詠唱が変わった。


声が大きくなった。


「我が意に従い、 形を成せ。 水よ、乙女となれ。 全てを閉じ込め、 全てを刺し貫け。 《ウォーターメイデン》」


小屋の中に、 水が溢れた。


天井まで届く水の柱が ザインとルーカを包んだ。


水の中に、 無数の刃が生まれた。


鋭い水の棘が 内側から突き刺さった。


ザインが《闘気》で抵抗しようとした。


《闘気開放》の圧が 水の壁を押した。


ひびが入った。


それでも、 《ウォーターメイデン》は 崩れなかった。


ルーカが転移しようとした。


水の中では 転移先がなかった。


完全に閉じ込められていた。


二人が動きを止めた。


水の棘が 全身に刺さっていた。


静かになった。


《ウォーターメイデン》が ゆっくりと消えた。


水が床に広がった。


ザインとルーカが 倒れた。


動かなくなった。


しばらく誰も喋らなかった。


水の音だけが聞こえた。


リリィが床に座り込んだ。


魔力が完全に空になった顔だった。


「終わった」


「終わった」


俺は答えた。


俺も立っていられなかった。


壁に背をつけた。


体中が痛かった。


魔力がほぼなかった。


ザインが、 まだかろうじて息があった。


目が半分開いていた。


俺を見た。


「……強くなったな」


かすれた声だった。


「まだ足りない」


「そうだ。 ヴォルクには……届かない」


ザインの目が、 セナに向いた。


「……77番」


俺はセナを見た。


セナは表情を変えなかった。


「任務を……曲げたのか」


ザインが言った。


「それとも、 まだ任務の中か」


セナは答えなかった。


ザインの目が閉じた。


静かになった。


俺はセナを見た。


セナは前を向いていた。


横顔に、 何も浮かんでいなかった。


「セナ」


「何」


「今のは」


「疲れた。 帰ろう」


セナが歩き始めた。


俺はその背中を見た。


答えを求めようとした。


ただ、 今は体が動かなかった。


「カイ、立てるか」


リリィが言った。


「立てる」


「嘘をつくな」


「立てる」


壁を使って立った。


足が震えた。


それでも立った。


「帰ろう」


リリィが言った。


「そうだ」


三人で小屋を出た。


山道を下った。


誰も喋らなかった。


俺はセナの背中を見ながら歩いた。


77番。


ザインがセナに言った。


任務。


ザインがセナに言った。


頭の中でその言葉が 繰り返された。


答えは出なかった。


出したくなかった。


ギルドに報告した。


ザインとルーカの討伐証明を 持っていった。


ギルドマスターが 二度見した。


「ザインと、ルーカか」


「そうです」


「キューロットの二位と四位を 三人で討伐したのか」


「そうです」


ギルドマスターが しばらく黙った。


それから言った。


「ランクアップだ。 三人全員、Aランクに飛び級する。 Bランクを飛ばしてでも、 この実績はそれに値する」


身分証に刻印が押された。


A RANK。


セナが自分の身分証を見た。


「Aランクか」


「そうだ」


「早いね」


「そうだな」


リリィが身分証を 両手で受け取った。


しばらく見ていた。


「……Aランクか」


「おめでとう」


セナが言った。


「お前もだろ」


「そっか」


三人でギルドを出た。


夕方の光が 石畳に伸びていた。


リリィが空を見た。


「次はヴォルクか」


「そうだ」


「奈落に行くことになる」


「そうなる」


「……覚悟はある」


「俺もだ」


セナは前を向いていた。


何も言わなかった。


俺はセナを見た。


77番。


任務。


今はまだ、 聞けなかった。


聞いたとして、 答えが返ってくる保証はなかった。


ただ、


鑑定眼が さらに進化すれば、 全部見えるかもしれない。


その日が来るまで、 俺はこのまま動き続ける。


宿に向かって歩いた。


その夜、 人気のない路地で、 セナは立っていた。


「77番。報告してくれ」


いつもと違う場所だった。


ヴォルクの声が聞こえた。


「ザインとルーカが倒された。 報告を聞こうか」


「対象がザインとルーカを討伐しました。 想定より早い段階での 戦力損失です」


「お前が助けたな」


沈黙があった。


「……はい」


「なぜだ」


セナは少し間を置いた。


「対象がここで死ねば 計画が終わります。 まだ奈落に届けていない。 だから助けました」


「それだけか」


「それだけです」


ヴォルクが少し笑った気がした。


「そうか。 ならいい。 計画は続ける。 次は奈落に誘導しろ」


「分かりました」


「ご苦労」


声が消えた。


セナは路地を出た。


夜の王都を歩いた。


ザインの最後の言葉が 頭の中に残っていた。


任務を曲げたのか。


それとも、 まだ任務の中か。


セナは歩いた。


表情は、なかった。


奈落まで、 もう少し。


第六章、了。



カイ


【強奪 身体強化Lv.5 投擲 鑑定眼 白魔法Lv.4 赤魔法Lv.3 詠唱破棄 青魔法Lv.3 隠密Lv.3 索敵Lv.3 夜目 毒耐性Lv.3 麻痺耐性Lv.2 隠蔽Lv.2 鑑定阻害Lv.4 暗殺術Lv.3 斧術Lv.5 体力強化Lv.3 突進Lv.5 記憶読取Lv.2 話術Lv.4 魔力操作Lv.3 剣術Lv.7 死霊操作Lv.2 ネクロマンサーLv.3 魔力吸収Lv.2 岩石操作Lv.2 影操作Lv.2 風魔法Lv.2 気配遮断Lv.4 情報操作Lv.3 転移Lv.2】


合計31個


リリィ


【青魔法Lv.4 水感知 光魔法Lv.2】


セナ


表向き 【シーフ 隠密Lv.2】


本当のスキル 【 】




あとがき

6章まで読んでくれてありがとうございます。


この章、 個人的にかなり気合を入れて書きました。


深層のネクロマンサー戦から始まって、 サーレンからの情報収集、 ザインとルーカとの戦闘。


特にザインとルーカ戦は 書いていて一番しんどかったです。


リリィの《ウォーターメイデン》は この章の一番の見せ場でした。


一分間の詠唱を守るために カイとセナが必死に時間を稼ぐ場面、 うまく書けたかどうか 自分ではまだ分かっていません。


ただ、 リリィがちゃんと活躍できたのは 良かったと思っています。


ザインの最後の言葉、


「77番、任務を曲げたのか」


この一言に この章の全部が詰まっています。




次の章もよろしくお願いします。

読んでくれてありがとうございます。


執筆の裏話や書き方ノウハウは

noteで公開しています。

https://note.com/kimigasiromi


次話もよろしくお願いします。

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