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第5章「壊滅」

異世界ダーク系の成り上がり物語です。

スマホで読みやすいよう一文を短くしています。

最後まで読んでもらえると嬉しいです。

装備を整えた翌日、 ギルドマスターから呼び出しがあった。


執務室に通された。


広い部屋だった。


窓から王都が見えた。


ギルドマスターが 机の向こうに座っていた。


「座れ」


三人で椅子に座った。


「昨日の書類を 徹底的に調べた」


ギルドマスターが言った。


「エイクが三年間、 暗殺協会に情報を流していた記録が 全部残っていた。 消し忘れたのか、 消す暇がなかったのか」


「どちらでもよかったですね」


「そうだな。 ただ、一つ分かったことがある」


ギルドマスターが 書類を一枚取り出した。


「王都支部は末端だ。 本拠地は別にある」


俺は黙って聞いた。


「王都の地下、 旧市街の遺跡を そのまま使っている。 百年前に廃棄された 旧ギルドの施設だ。 地下三層まである」


「人数は」


「把握できていない。 ただ、幹部級が複数いる。 昨日お前たちが 制圧した六人は 末端の連絡員だった」


リリィが帽子の鍔を下げた。


「地下三層か。 厄介だな」


「そうだ。 だから俺たちには手が出せない。 ギルドとして動けば 王国が介入してくる可能性がある」


俺は少し考えた。


「俺たちに動いてほしいということですか」


「頼むとは言えない立場だ。 ただ、情報だけ提供する。 動くかどうかはお前たちが決めろ」


ギルドマスターが もう一枚書類を出した。


地図だった。


旧市街の路地と、 地下への入り口の場所が 書かれていた。


「入り口は三つある。 どれも厳重に封鎖されているが、 一つだけ管理が甘い場所がある」


「どこですか」


「南の入り口だ。 旧市街の廃教会の地下に繋がっている。 警備が薄い理由は分からないが」


俺は地図を受け取った。


「分かりました」


「繰り返すが、 頼んでいるわけじゃない」


「聞こえませんでした」


ギルドマスターが 少し目を細めた。


「……気をつけろ」


執務室を出た。


廊下を歩きながら リリィが言った。


「行くんだよな」


「そうだ」


「聞くまでもなかった」


セナが地図を覗き込んだ。


「地下三層か。 ダンジョンと似てるね」


「構造は似ているが 中にいるのは人間だ。 魔物より厄介な場合がある」


「どう違うの」


「魔物は考えない。 人間は罠を張る。 逃げる。 仲間を呼ぶ」


セナが少し黙った。


「そっか」


「ただ、 魔物と違って 鑑定眼が使える。 スキルが事前に分かれば 対処できる」


「それは強みだね」


リリィが前を向いたまま言った。


「私、足を引っ張らないか」


俺は少し間を置いた。


「遠距離が要だ。 狭い地下では 魔法の使い方が問われる」


「狭い場所での 《ウォーターランス》は 貫通しすぎて 味方に当たる可能性がある」


「そうだ。 《水流》で索敵をしながら タイミングを見て撃つ。 それができれば十分だ」


リリィが帽子の鍔を下げた。


「……分かった」


宿に戻って、 夜まで準備した。


地図を頭に入れた。


スキルの確認をした。


短剣の刃を研いだ。


リリィが魔法の練習をしていた。


狭い部屋の中で、 水の帯を細く細く絞る練習だ。


何度も繰り返していた。


セナが外套の紐を 結び直していた。


動きやすいように。


引っかからないように。


俺はその二人を見て、 何も言わなかった。


夜中の二時頃、 宿を出た。


王都の夜は静かだった。


人通りがなかった。


《隠密》で三人の気配を消して、 旧市街に向かった。


旧市街は 現在の王都から 少し外れた場所にあった。


百年前に使われていた建物が そのまま残っていて、 廃墟と化していた。


街灯もなかった。


《夜目》を使った。


道がくっきりと見えた。


廃教会が見えた。


石造りの、 古い建物だった。


屋根の一部が崩れていた。


窓は全部塞がれていた。


《索敵》で確認した。


教会の中に二人。


地下に複数の気配があった。


数えた。


十二、三人。


「地下に十二人以上いる。 教会の中に二人。 入る前に中の二人を処理する」


「どうやって」


「俺が入る。 二人はここで待て」


リリィが口を開きかけた。


俺は先に言った。


「二人が入ると気配が増える。 俺一人の方が 確実に気づかれない」


「分かった」


リリィが引いた。


教会の扉に近づいた。


《隠密》と《暗殺術》を 最大限に使った。


存在ごと夜に溶け込んだ。


扉を開けた。


礼拝堂の中だった。


埃の匂いがした。


長椅子が並んでいた。


《索敵》で二人の位置を確認した。


一人は入り口近くの柱の陰。


もう一人は奥の扉の前。


まず手前の一人に近づいた。


完全に気配を消したまま、 三歩、二歩、一歩。


背後に立った。


首の後ろを打った。


倒れた。


音もなかった。


奥の一人が 少し顔を上げた。


何かを感じたのか。


俺は息を止めた。


《索敵》でその人間の気配を追った。


また前を向いた。


近づいた。


また打った。


倒れた。


扉を開けて、 外にいる二人に合図した。


三人で教会に入った。


奥の扉を開けた。


地下への階段があった。


暗かった。


《夜目》を使った。


「階段が続いている。 三層まである。 一層ずつ降りる」


「人数は」


「まだ十二人以上。 一層にどのくらいいるか 《索敵》の精度じゃ 分からない」


リリィが《水流》を 細く放った。


水が階段を伝って 下に消えた。


数秒後、リリィが言った。


「一層目に四人。 全員固まっている。 部屋が一つある」


「助かる」


「これくらいはできる」


一層目に降りた。


石造りの廊下が続いていた。


松明が壁に刺さっていた。


俺は《隠密》を使ったまま 廊下を進んだ。


部屋の扉の前に立った。


《索敵》で確認した。


四人、全員部屋の中。


扉を開けた。


四人が振り返った。


俺は《隠密》を解いた。


「誰だ」


一人が立ち上がった。


俺は鑑定眼を使った。


【暗殺者 Cランク相当】 【スキル:剣術Lv.3、暗殺術Lv.2、毒耐性Lv.1】


四人全員、 同じくらいのスキル構成だった。


「ビリーの後釜を探している。 話したいことがある」


一人が眉をひそめた。


「ビリー? あいつは死んだぞ」


「知っている。 だから後釜を探している」


男たちが顔を見合わせた。


その隙に、 扉から セナとリリィが入ってきた。


男たちが気づいた。


「罠か」


「そうだ」


リリィが《水流》を放った。


二人を同時に捉えた。


俺が残り二人に踏み込んだ。


《身体強化》を使って 一人を壁に叩きつけた。


もう一人がナイフを抜いた。


セナが背後から回って 腕を取った。


力が、 想像より強かった。


ナイフを弾き飛ばして、 床に押しつけた。


四人、制圧した。


「セナ」


「うん」


「問題なかったか」


「全然。 なんか体が勝手に動いた」


リリィが少し俺を見た。


俺も少し気になったが、 今は関係なかった。


「二層に降りる」


二層は一層より広かった。


廊下が枝分かれしていた。


松明の数が増えて、 明るかった。


《索敵》で確認した。


六人。


三人と三人に分かれていた。


「左に三人、右に三人。 分かれて処理する」


「分かれるのか」


リリィが言った。


「狭い廊下だ。 六人を一度に相手にするより 分けた方がいい」


「誰と誰が組む」


「俺は一人で左。 リリィとセナで右」


リリィが帽子の鍔を下げた。


「また一人か」


「左の三人は スキルが低い。 《索敵》で確認した。 Dランク相当だ」


「……分かった」


「何かあれば すぐ声を出せ。 《索敵》で追っている」


二手に分かれた。


左に進んだ。


三人の気配を 《索敵》で追いながら近づいた。


廊下の突き当たりに 扉があった。


扉を開けた。


三人がいた。


カードゲームをしていた。


鑑定した。


【暗殺者 Dランク相当】 【スキル:剣術Lv.2、隠密Lv.1】


低かった。


三人が立ち上がった。


俺は先に動いた。


《身体強化》を使って 最初の一人を打った。


倒れた。


二人目が剣を抜いた。


受け流して、 鳩尾を打った。


倒れた。


三人目が逃げようとした。


《投擲》で石を投げた。


足に当たった。


倒れた。


右の廊下から 水の音がした。


リリィの《水流》だ。


続いて、 短い叫び声がした。


すぐ静かになった。


廊下を戻ると、 セナとリリィが来た。


「終わった」


リリィが言った。


「足手まといじゃなかった」


俺は頷いた。


「十分だった」


リリィが帽子の鍔を 少しだけ上げた。


「セナは」


「全然大丈夫だった。 なんか楽しかった」


「楽しかった、か」


「ごめん、変なこと言った」


「変じゃない」


「三層に降りる。 残り六人。 幹部級がいると思う。 気を抜くな」


三層への階段を降りた。


空気が変わった。


重くて、 冷たくて、


上とは違う圧があった。


三層は、 広かった。


天井が高くて、 壁に複数の松明が刺さっていて、 二層より明るかった。


広間のような空間に出た。


《索敵》で確認した。


六人。


奥に固まっていた。


鑑定した。


【暗殺協会幹部 Bランク相当】 【スキル:剣術Lv.5、暗殺術Lv.4、隠密Lv.3、毒調合Lv.3】


Bランク。


今まで相手にしたことのない レベルだった。


「六人、全員Bランク相当だ」


リリィの顔が少し変わった。


セナは表情を変えなかった。


「どうする」


「正面からは無理だ。 一人ずつ引き離して処理する」


そう言いかけたとき、


奥から声がした。


「来たか」


低い、落ち着いた声だった。


六人のうち一人が 前に出てきた。


五十代くらいの男だった。


髪が白くて、 体格は細かったが、 目が鋭かった。


鑑定した。


【暗殺協会頭目 Aランク相当】 【スキル:暗殺術Lv.6、剣術Lv.5、隠密Lv.4、毒調合Lv.4、看破Lv.3】


Aランク。


ミノタウロスと同じ。


「Dランクの子供が よくここまで来たものだ」


頭目が言った。


「エイクを動かしたのもお前か」


「そうだ」


「ビリーを殺したのも」


「ミノタウロスが殺した」


「関与はしていたな」


「否定しない」


頭目が少し笑った。


「面白い子供だ。 ただ、ここで終わりだ」


六人が動いた。


リリィが前に出た。


杖を構えた。


詠唱が始まった。


今まで聞いたことのない長い詠唱だった。


「集え水よ、 意志を鋭く研ぎ澄ませ、 刃となり斬り裂け。 《ウォーターカッター》」


杖の先から 水の刃が生まれた。


《ウォーターランス》より薄くて、 鎌のような形で、 鋭く光っていた。


飛んだ。


六人の先頭に向かって。


先頭の男が横に跳んだ。


遅かった。


水の刃が男の肩を 斬り裂いた。


鎧ごと、 切れた。


「《ウォーターカッター》か」


頭目が言った。


「第三位階だな。 面白い」


リリィが俺を見た。


「行ける」


確かに、と思った。


《ウォーターカッター》の切れ味は 《ウォーターランス》の比じゃなかった。


「もう一発行く」


リリィが詠唱を始めた。


「集え水よ、 意志を鋭く研ぎ澄ませ」


頭目が動いた。


速かった。


《索敵》でも ほとんど追えなかった。


リリィの詠唱が途中で止まった。


頭目の拳が リリィの腹に入っていた。


リリィが吹き飛んだ。


石の壁まで飛んで、 背中から叩きつけられた。


床に落ちた。


杖が手から離れた。


「リリィ」


セナが走った。


俺も動いた。


リリィが床に倒れていた。


息はあった。


ただ、 立てなかった。


顔が青白かった。


腹を押さえていた。


「《ハイヒール》」


無詠唱で放った。


光がリリィを包んだ。


顔色が少し戻った。


それでも、 立ち上がれなかった。


「ごめん……詠唱が長すぎた」


「分かった。 ここで待っていろ」


「でも」


「待っていろ」


頭目と残りの五人が こちらに向かってきた。


俺は立ち上がった。


「カイ、私が行く」


セナが言った。


「お前は」


「リリィを守ってて。 私が時間を稼ぐ」


俺はセナを見た。


Dランクのセナが、 Aランクの頭目を含む 六人の前に出ようとしていた。


「無理だ」


「大丈夫。 少しだけでいい」


セナが前に出た。


俺はリリィの傍で 残りの五人に集中した。


《身体強化》を全力で使って、 一人目に踏み込んだ。


横目でセナを見た。


セナが頭目と向き合っていた。


体格差があった。


ただ、 怯えていなかった。


頭目が剣を抜いた。


セナが動いた。


速かった。


ひどく、速かった。


俺は一人を倒しながら セナを追った。


セナの動きが、 《シーフ》と《隠密Lv.2》だけとは 思えなかった。


頭目の剣が来た。


セナが躱した。


ほぼ見えない速さで。


考える暇はなかった。


目の前に二人来た。


集中した。


二人を処理して、 また横を見た。


頭目が、 床に倒れていた。


動いていなかった。


セナが立っていた。


肩で息をしていた。


右腕から、 血が出ていた。


「セナ」


駆け寄った。


「大丈夫」


「大丈夫じゃない。 腕から血が出ている」


「かすっただけ。 思ったより手間取った。 危うく死ぬところだった」


セナが笑った。


愛想のいい、 いつもの笑い方だった。


俺はセナの腕に 《ヒール》をかけた。


傷が塞がった。


頭目を見た。


一撃で仕留めていた。


急所を正確に打っていた。


《シーフ》と《隠密Lv.2》で、 Aランクの頭目を、 一撃で。


どうやって。


セナの顔を見た。


笑っていた。


ただ、 一瞬だけ、 別の顔が見えた気がした。


退屈、とでも言うような。


拍子抜けした、 とでも言うような。


気のせいかもしれなかった。


気のせいにした。


「残りの五人は」


「俺が全員倒した」


「じゃあ終わりだね」


「そうだ」


リリィが 壁に手をついて 立ち上がっていた。


「生きてた」


「生きてた」


「私が飛ばされている間に 全部終わったのか」


「だいたい」


リリィが頭目の死体を見た。


「セナが倒したのか」


「そうだ」


「……どうやって」


セナが頭を掻いた。


「なんか手間取ったけど ギリギリ当たった感じ」


「Aランクにギリギリ当てたのか」


「うん」


「……すごいな」


「リリィが飛ばされたとき 焦ったから」


リリィが帽子の鍔を下げた。


「私が足を引っ張ったな」


「そんなことない。 《ウォーターカッター》、 かっこよかった」


「吹き飛ばされた後だけどな」


「最初の一発は当たってた」


俺は何も言わなかった。


頭目の死体を見ていた。


どうやって倒したのか。


セナのスキルで、 どうやってAランクを一撃で。


言葉にならなかった。


言及する言葉が見つからなかった。


「帰るぞ」


俺は言った。


「ギルドに報告する」


「うん」


「分かった」


三人で階段を上った。


廃教会を出た。


夜の空気が冷たかった。


《索敵》に、 気配はなかった。


全員、処理した。


暗殺協会の王都本部は、 終わった。


ギルドに報告した。


深夜だったが、 ギルドマスターはまだ起きていた。


「全員制圧しました。 頭目も含めて」


ギルドマスターが しばらく黙った。


「頭目まで、か」


「はい」


「三人で」


「三人で」


また黙った。


「……ご苦労だった。 報奨金は明日出す」


「ありがとうございます」


「ただ、一つ言っておく」


ギルドマスターが 俺を見た。


「王国が動き始めている。 今夜お前たちが動いたことは すぐ向こうに伝わる。 気をつけろ」


「分かりました」


ギルドを出た。


夜の王都を歩いた。


三人とも、 しばらく黙っていた。


リリィが最初に言った。


「王国が動くか」


「そうだ」


「いよいよだな」


「そうだ」


セナが空を見た。


「次は何を」


「キューロットを調べる。 王国の動きも監視する。 同時にやる」


「忙しいね」


「そうだ」


三人で宿に向かった。


頭目を一撃で倒したセナの動きが、 頭から離れなかった。


気にするな、と思った。


ただ、


気にしないようにするほど気になった。


翌朝、 ギルドに報奨金を受け取りに行った。


ギルドマスターが 三人分の身分証を 持っていた。


「昨夜の件で、 ランクアップの審査が通った。 三人全員、Cランクだ」


三枚の身分証が カウンターに置かれた。


C RANK。


セナが自分の身分証を見た。


「Cランクか」


「どうだ」


「なんか、実感ない」


「俺もそうだった」


リリィが身分証を 両手で受け取った。


しばらく見ていた。


「……Cランクか」


「おめでとう」


セナが言った。


「お前もだろ」


「そっか、そうだね」


俺は自分の身分証を 服の中にしまった。


Cランク。


Eランクで王都に来た。


あれから、 どのくらい経ったか。


「報奨金も出る」


ギルドマスターが言った。


「頭目の討伐証明と、 施設制圧の両方で計算した。 金貨五枚だ」


金貨五枚。


三等分しても 一人金貨一枚以上になる。


「ありがとうございます」


「礼はいい。 ただし、 先ほども言ったが 王国が動き始めている。 Cランクになったからといって 油断するな」


「分かりました」


ギルドを出た。


三人で大通りを歩いた。


「Cランクになったら 何が変わるの」


セナが聞いた。


「受けられる依頼の幅が広がる。 ギルドの情報へのアクセスも増える。 あと、他の冒険者から 少し見られ方が変わる」


「どう変わるの」


「Cランクは 王都では上位の方だ。 依頼を押しつけられることもある」


「それは嫌だな」


「断ればいい」


リリィが前を向いたまま言った。


「金貨五枚、 何に使う」


「装備の強化と、 情報収集の資金にする。 キューロットを調べるには 金がいる」


「残りは?」


「三人で山分けだ」


リリィが少し間を置いた。


「……いいのか」


「何が」


「情報収集の資金を 全部カイが出すのか」


「俺が動く分だから 俺が出す」


「理屈はそうだが」


「気にするな」


リリィが帽子の鍔を下げた。


それ以上言わなかった。


午後、 三人で市場に行った。


Cランクになった記念、 とセナが言い出した。


「記念?」


「たまにはいいじゃん。 おいしいもの食べたい」


「昨日も食べた」


「昨日は戦いの前だったから ゆっくり食べられなかった」


リリィが小さく言った。


「……私も、食べたい」


「リリィまで」


「たまにはいい、と思う」


俺は二人を見た。


反論する気力がなかった。


「分かった」


市場の中の、 少し高い食堂に入った。


肉料理と、 魚料理と、 デザートまで頼んだ。


リリィが焼き菓子を 三種類頼んだ。


「三種類か」


「Cランクになったから」


「関係あるか」


「ある」


セナが笑った。


俺は黙って スープを飲んだ。


悪くなかった。


食べながら、 セナが言った。


「ねえ、これからどうなるんだろう」


「何が」


「私たち。 王国と戦って、 キューロットと戦って、 その先って何があるの」


俺は少し考えた。


「分からない」


「分からないんだ」


「先のことを考えても 今は分からないことが多すぎる。 一個一個片付けるしかない」


セナが頬杖をついた。


「カイって、 王都に来てから ずっとそうだよね。 目の前のことだけ見てる」


「それの何が悪い」


「悪くないよ。 ただ、たまには 先のことも考えてほしい」


「先って」


「例えば、 全部終わったら何したい、とか」


俺は答えなかった。


全部終わった後。


そんなことを 考えたことがなかった。


「分からない」


「また分からない」


「本当に分からないんだ」


セナが少し笑った。


それ以上聞かなかった。


リリィが焼き菓子を食べながら 静かに言った。


「私は魔法の本を もっと読みたい。 第四位階を覚えたい」


「目標があるんだね」


「目標というより、 やりたいことがあるだけだ」


「それが目標だよ」


リリィが少し考えた。


「……そうか」


帽子の鍔を少し上げた。


俺は二人を見た。


セナが楽しそうにしていた。


リリィが珍しく 焼き菓子を三つも食べていた。


こういう時間が いつまで続くか、 分からなかった。


王国が動き始めている。


キューロットがいる。


ただ、


今日だけは、 考えなかった。


宿に戻って、 夜になった。


リリィが先に眠った。


セナが外套の手入れをしていた。


俺は地図を広げていた。


王都の北、 貴族街周辺の地図だ。


サーレンの屋敷の位置と、 ギルドマスターから聞いた 王国の動きの情報を 照らし合わせていた。


「まだ起きてるの」


セナが言った。


「ああ」


「何してる」


「次の動きを考えている」


セナが俺の隣に来た。


地図を覗き込んだ。


「王国のこと?」


「そうだ。 サーレンが黙っていても 王国側は別の人間を動かしてくる。 次が来る前に 情報を掴んでおきたい」


「どこから調べる」


「Cランクになったから ギルドの情報室が使える。 そこから始める」


セナが頷いた。


「分かった。 明日一緒に行く」


「ああ」


少し沈黙があった。


セナが地図を見ながら ぼそりと言った。


「昨日の戦い、 カイに迷惑かけた」


「何が」


「頭目のこと。 ギリギリだったのに かっこいいとこ見せようとして」


「そう言っていたな」


「反省してる」


俺はセナを見た。


反省している、 という顔だった。


自然な顔だった。


「次から気をつけろ」


「うん」


「それでいい」


セナが少し笑った。


「カイって、 怒らないね。 もっと怒ってもいいのに」


「怒るより 次を考える方が早い」


「それ、強さなのか それとも感情がないのか どっちなんだろう」


俺は答えなかった。


自分でも分からなかった。


「おやすみ、カイ」


「おやすみ」


セナがベッドに入った。


すぐに寝息が聞こえた。


俺は地図を畳んだ。


部屋が暗くなった。


昨日のセナの動きが、 また頭に浮かんだ。


頭目を一撃で。


Aランクを。


《シーフ》と《隠密Lv.2》で。


鑑定眼でセナを確認した。


【シーフ 隠密Lv.2】


変わっていなかった。


何かが見えていないのか。


それとも、 本当にそれだけのスキルで あれができるのか。


答えが出なかった。


目を閉じた。


考えても分からないことは 考えても無駄だ。


昨日セナに言ったことを、 自分に言い聞かせた。


深夜、 セナは宿を出た。


「77番。報告してくれ」


「暗殺協会、完全に壊滅しました。 対象が中心になって動きました。 誘導は一切不要でした」


「頭目まで倒したか」


「はい。 対象は関与していません。 私が処理しました」


沈黙があった。


「……処理した、か」


「相手が弱すぎました。 想定より時間がかかりましたが 問題ありません」


「イグニスへの影響は」


「順調に進んでいます」


「ご苦労」


セナは宿に戻った。


廊下を歩いた。


部屋の扉の前で、 一度だけ止まった。


カイが今夜鑑定眼を使ってきた。


気づいていた。


隠蔽Lv.5は、 鑑定眼には負けない。


ただ、 いつまでも持つわけではない。


鑑定の魔眼になれば全部見える。


その前に奈落に届けばいい。


セナは扉を開けた。


カイは眠っていた。


ベッドに入った。


目を閉じた。


翌日、 ギルドの情報室に行った。


Cランク以上が使える地下の閲覧室だった。


棚に書類が並んでいた。


王国の動向、 魔物の生態、 各地の冒険者の記録。


「キューロットについて調べる」


「何を探せばいい」


リリィが書類の棚を見ながら言った。


「組織の名前、 構成員の情報、 活動記録、 何でもいい」


三人で手分けして 棚を確認した。


一時間ほど探したが、 キューロットという名前は どこにも出てこなかった。


「ない」


セナが言った。


「そうだね」


「記録に残らないようにしてるのか」


「そうかもしれない。 それだけ用心深い組織だということだね」


リリィが一枚の書類を持ってきた。


「これは」


「何だ」


「五年前の記録だ。 各地で冒険者が失踪した事件の報告書。 共通点として、 全員が転生者だったという記述がある」


俺は書類を読んだ。


転生者を狙った組織の存在が 疑われていたが、 特定には至らなかった、 と書いてあった。


「キューロットが転生者を狙っていたとすれば、 この失踪事件に絡んでいる可能性がある」


「俺も転生者だ」


「だから狙われている」


セナが書類を覗き込んだ。


「転生者って、 王都にどのくらいいるの」


「分からない。 ただ、記録にある失踪者の数は 五年間で十七人だ」


「多い」


「組織的に動いていた可能性が高い」


リリィが棚に書類を戻した。


「他に何か分かるか」


「失踪した転生者の最後の目撃場所が 全員、王都の東側に集中している」


「東側か」


「そうだ。 行ってみる価値がある」


午後、 三人で王都の東側に向かった。


市場の外れから 少し離れた、 人通りの少ない区画だった。


《索敵》を展開しながら歩いた。


特に何もなかった。


古い建物が並んでいて、 住民が数人いるだけだった。


「何もないな」


セナが言った。


「そうだな」


「空振りか」


「そう判断するのは早い。 もう少し確認する」


路地に入った。


《索敵》に、 何かが引っかかった。


気配が二つ。


普通の人間とは違う重さだった。


ただ、 何か、壁のようなものがある。


《索敵》が弾かれている感じがした。


「前に誰かいる」


「何人」


「二人。 ただ、スキルで《索敵》を 遮断しようとしている」


「鑑定できるか」


俺は《鑑定眼》を使った。


【不明】 【スキル:―――】


また、空白だった。


鑑定阻害を持っている。


「鑑定できない。 鑑定阻害を持っている」


「キューロットか」


「可能性が高い」


路地の奥から、 人影が二つ出てきた。


一人は痩せた男だった。


年は三十代くらい。


目が細くて、 笑っているような顔をしていた。


もう一人は、 女だった。


年齢が分からなかった。


白い髪で、 表情がなかった。


「久しぶりだな、カイ」


痩せた男が言った。


聞いたことのない声だった。


「誰だ」


「知らなくていい名前だ。 ただ、お前のことは よく知っているぞ」


鑑定眼を向けた。


空白のままだった。


鑑定阻害が邪魔をしていた。


「キューロットか」


男が少し目を細めた。


「知っているのか。 誰に聞いた」


「関係ない」


「まあいい。 そうだ、俺たちがキューロットだ。 よく調べたな」


「何の用だ」


「用というほどのことでもない。 ただ、確認したかった。 お前が本当に使えるかどうか」


「使える、とはどういう意味だ」


男が笑った。


「強奪スキルだよ。 お前が持っているやつ。 それがどのくらい育っているか 見てみたかった」


強奪スキルを知っている。


「誰から聞いた」


「知っている人間が 身近にいるだろう」


身近に。


俺はセナを見た。


セナは前を向いていた。


表情は変わっていなかった。


「試すつもりか」


「そうだ。 少しだけ」


男が動いた。


速かった。


《索敵》でも ほとんど追えなかった。


俺の首に向かって 手が来た。


《身体強化Lv.4》を全力で使って 横に跳んだ。


掠めた。


首の皮膚が少し切れた。


「速い」


男が静かに言った。


「《鑑定眼》か。 先読みできているな」


白髪の女が動いた。


リリィに向かった。


リリィが杖を構えた。


「《ウォーターカッター》」


水の刃が飛んだ。


女が片手で弾いた。


「っ」


リリィが後退した。


「何で弾いた。 素手で」


女が答えなかった。


セナが動いた。


女に向かって踏み込んだ。


短剣を抜いて、 鋭く踏み込んだ。


女が後退した。


一歩だけ。


セナの動きを見て、 初めて表情が変わった。


わずかに、 目が細くなった。


「面白い」


女が言った。


初めて声を出した。


「お前、何者だ」


「村の生き残りだよ」


セナが笑って答えた。


男がセナを見た。


何かを考えているような顔だった。


「……そうか」


男が俺を見た。


「今日はここまでにする。 またいずれ会おう」


「逃げるのか」


「逃げるんじゃない。 確認が終わった」


男と女が 同時に《隠密》を使った。


気配が消えた。


《索敵》を全力展開した。


薄く、薄く、 かろうじて追えた。


王都の外に向かっていた。


「追うか」


リリィが言った。


「追えるか。 気配が薄い」


「《索敵》があれば」


「俺の《索敵》でも ギリギリだ。 距離が離れれば消える」


セナが、 少し前を向いた。


「私、なんか分かる気がする」


「何が」


「あの二人がどこに向かっているか。 なんとなく、分かる」


俺はセナを見た。


「《シーフ》の索敵か」


「うん。 ただ、あっちだと思う」


セナが東の方向を指した。


王都の外。


山の方向だった。


「確かめる価値はある」


リリィが言った。


「そうだ。 行くぞ」


三人で走った。


王都の東門を抜けた。


街道を外れて、 山道に入った。


《索敵》が、 完全に消えた。


「見失った」


「私はまだ分かる…」


セナが先を歩いた。


迷いがなかった。


どこから来る感覚か、 俺には分からなかった。


一時間ほど歩いた。


山の麓に、 小さな小屋が見えた。


明かりがついていた。


《索敵》を使った。


中に二人。


さっきの二人の気配だった。


「ここか」


「うん」


セナが静かに言った。


俺は小屋を見た。


《鑑定眼》を使った。


遠すぎて、 スキルは見えなかった。


「今夜は動かない。 場所が分かった。 それで十分だ」


「乗り込まないのか」


リリィが言った。


「今の俺たちじゃ まだ足りない。 強くなってから来る」


「どのくらい強くなれば」


「分からない。 ただ、今日あの二人と少し戦って 分かった。 今すぐは無理だ」


リリィが頷いた。


「分かった」


三人で山道を戻った。


王都の灯りが 遠くに見えた。


「セナ」


「何」


「さっきの感覚、 どこから来た」


セナが少し間を置いた。


「分からない。 なんか、体が知ってた」


「《シーフ》か」


「たぶん」


俺は何も言わなかった。


たぶん、という言葉が 引っかかった。


《シーフ》の索敵で、 キューロットの居場所が分かるか。


そんな使い方が できるスキルか、 俺には分からなかった。


考えても分からなかった。


今は、 それだけで十分だ。


王都の灯りが近くなった。


第五章、了。


その夜、 セナは宿を出た。


「77番。報告してくれ」


「キューロットのザインとルーカ、 対象と接触しました。 居場所も把握されました」


沈黙があった。


「対象が来るか」


「来ます。 強くなってから、と言っていました。 計画通りです」


「イグニスへの影響は」


「想定通りです」


「ご苦労」


セナは宿に戻った。


「…………」


奈落まで、 もう少し。


第五章、了。


カイ


【強奪 身体強化Lv.4 投擲 鑑定眼 白魔法Lv.1 赤魔法Lv.2 詠唱破棄 青魔法Lv.2 隠密Lv.2 索敵Lv.2 夜目 毒耐性Lv.3 麻痺耐性Lv.2 隠蔽Lv.2 鑑定阻害Lv.1 暗殺術Lv.3 斧術Lv.5 体力強化Lv.3 突進Lv.5 記憶読取Lv.2 話術Lv.4 魔力操作Lv.3 剣術Lv.3】


合計23スキル


リリィ


【青魔法Lv.3 水感知】


セナ


表向き 【シーフ 隠密Lv.2】


本当のスキル 【                       】

読んでくれてありがとうございます。


執筆の裏話や書き方ノウハウは

noteで公開しています。

https://note.com/kimigasiromi


次話もよろしくお願いします。

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