第2章「王都の牙」
異世界ダーク系の成り上がり物語です。
スマホで読みやすいよう一文を短くしています。
最後まで読んでもらえると嬉しいです。
朝、目が覚めたとき、 セナはまだ丸くなっていた。
ベッドの端に寄って、 膝を抱えて、 できるだけ小さくなるように。
俺はそれを見て、 何も言わなかった。
言える言葉が、 なかった。
「起きてるか」
そう声をかけたら、 セナはゆっくり顔を上げた。
目が、少し赤かった。
泣いていたのか、 眠れなかったのか、
どちらでもおかしくなかった。
「起きてた」
短く答えて、 セナは髪を手で押さえた。
ひどく乱れていたが、 気にする余裕もないのか、 そのままにした。
俺は窓の外を見た。
王都の朝は早かった。 市場の声が、 もう遠くから聞こえていた。
「ギルドに行く」
俺は言った。
「お前も登録した方がいい。 身分証がないと、 この街では生きにくい」
セナは少し間を置いた。
「……うん」
それだけだった。
ギルドに着いたのは、 朝の鐘が二つ鳴った頃だった。
昨日より人が少なかった。
受付に並んで、 順番が来た。
昨日と違う受付員だった。
若い男で、 俺たちを見て少し眉を上げたが、 何も言わなかった。
「登録希望です」
セナが自分で言った。
俺が言う前に。
俺は横でそれを聞いて、 少しだけ意外に思った。
昨夜あれだけのことがあって、 今朝目が赤かったくせに、
声は、しっかりしていた。
手続きが進んだ。
鑑定石を差し出された。
セナが手を置いた。
石が光った。
受付員が画板に書き始めた。
「スキルは《シーフ》、 一つですね」
《シーフ》。
俺はその言葉を、 頭の中で繰り返した。
「珍しいですよ、そのスキル」
受付員が続けた。
「盗賊系のスキルで、 索敵、解錠、隠密行動が 全部まとまってる複合型です。 Eランクにしては破格ですね」
セナは石から手を離して、 受付員を見た。
「知らなかった」
「知らなかった?」
「スキルがあること自体、 知らなかった」
受付員が少し黙った。
俺も、少し黙った。
この世界では、 鑑定を受けなければ 自分のスキルが分からない。
村にいたセナが 鑑定を受ける機会など、 そもそもなかったのか。
あるいは、あったとしても、 誰かに隠されていたのか。
奴隷商人の男の顔を、 俺は思い出した。
まだ処女で、値がつく。
そう言っていた男が、 セナのスキルを知っていたとしたら。
考えすぎかもしれない。
ただ、 嫌な想像だった。
「登録完了です。 Eランクからのスタートになります」
身分証が渡された。
セナはそれを両手で受け取って、 しばらく見ていた。
金属の板に、 セナという名前と、 ERANKの刻印。
「……ちゃんとある」
小さく呟いた。
何が、とは言わなかったが、 俺には分かった気がした。
自分の名前が、 ちゃんとそこにある。
それだけで、 意味があることがあるんだと、
俺はこの世界に来て 初めて理解した。
ギルドを出て、 広場のベンチに座った。
朝の光が石畳に落ちて、 人が行き交っていた。
「シーフって、 どんなことができるの」
セナが聞いた。
「受付員が言ってた。 索敵、解錠、隠密」
「索敵って?」
「近くに何かいるか、 分かるってことだと思う」
セナは自分の手を見た。
「使い方、分からない」
「俺も最初は分からなかった」
セナが俺を見た。
「カイは今、スキルいくつあるの」
俺は少し考えた。
正直に言うべきか、 言わない方がいいか。
「いくつか」
曖昧に答えた。
セナは追及しなかった。
賢い子だ、とまた思った。
「ねえ」
セナが前を向いたまま言った。
「私、カイについていっていい? しばらくの間だけでも」
俺は答える前に、 空を見た。
昨日からここまで、 俺はずっと一人で動くつもりだった。
強くなる。 スキルを集める。 誰にも頼らない。
そのつもりだった。
でも、
昨夜セナを助けに行ったのは 俺自身だった。
理由を考えれば、 同じ村の生き残りだからとか、 奴隷にされるのが許せなかったとか、
色々あるが、
結局のところ、 放っておけなかっただけだ。
「好きにしろ」
俺は言った。
素直じゃない言い方だと、 自分でも思った。
セナは少しだけ笑った。
泣いた後の顔で笑うから、 なんか妙な顔だったが、
俺は何も言わなかった。
その日の午後、 俺たちはギルドに戻った。
依頼板を確認した。
Eランクで受けられる依頼は 相変わらず薬草採取くらいだったが、
一つだけ、 新しい紙が貼ってあった。
ダンジョン探索補助。 王都東・浅層ダンジョン。 Eランク可。報酬:銅貨八枚。
「ダンジョン」
セナが呟いた。
「行ったことある?」
「ない」
「俺もない」
二人で少しの間、 その紙を見ていた。
「行くの?」
セナが聞いた。
俺は紙を剥がした。
「稼がないと、 明日の宿代もない」
セナは頷いた。
文句を言わなかった。
それでいい、と思った。
受付に紙を持っていくと、 受付員が地図を一枚くれた。
王都東門から 徒歩で半刻ほどの場所に、 浅層ダンジョンの入り口があるという。
「初めてですか」
受付員が聞いた。
「そうです」
「浅層は比較的安全ですが、 魔物は出ます。 無理をしないように」
無理をしない。
俺はその言葉を、 右から左に流した。
無理をしなかったら、 生き残れなかった夜を、 俺はもう知っていた。
宿に戻って、 出発の準備をした。
準備といっても、 俺たちには何もなかった。
武器も防具も、 金を出して買える余裕はない。
俺は薪を一本、 宿の裏から拝借した。
セナには短いナイフを一本、 市場で銅貨一枚で買った。
刃が欠けていたが、 ないよりましだった。
「これで大丈夫なの」
セナがナイフを見て言った。
「分からない」
正直に答えた。
セナは少し笑った。
さっきより自然な笑い方だった。
「正直だね」
「嘘ついても意味ない」
二人で宿を出た。
王都東門に向かって、 石畳の道を歩き始めた。
右も左も分からない街で、 金もなくて、 まともな武器もなくて、
それでも、
俺の足は、 迷わなかった。
立ち止まったら、 考えてしまう。
考えてしまったら、 村のことを思い出す。
だから、歩く。
それだけだった。
ダンジョンの入り口は、 思っていたより地味だった。
丘の斜面に開いた、 大人が二人並んで入れる程度の穴。
石造りの枠だけが かろうじて人工物だと示していて、 あとは土と岩と、 饐えた空気だけだった。
「これが……ダンジョン」
セナが入り口を覗き込んで言った。
「思ってたのと違う」
「どんなのを思ってた」
「もっと、こう…… 光ってるとか」
俺は何も言わずに中に入った。
セナが慌てて後を追った。
中は暗かった。
入り口から差し込む光が 十歩も進めば届かなくなって、 壁の所々に生えた 発光するコケだけが 薄ぼんやりと道を示していた。
「足元、気をつけろ」
「うん……うわ、ぬれてる」
「喋るな。音が響く」
セナが口を閉じた。
通路は狭かった。
二人並んでは歩けない。 俺が前で、セナが後ろ。
薪を右手に持って、 左手で壁を確かめながら進んだ。
五分ほど歩いたところで、 セナが俺の服を引っ張った。
止まった。
振り返ると、 セナが床を指差していた。
細い糸が、 通路を横切っていた。
膝の高さ。
発光コケの光を反射して、 かろうじて見える程度。
「罠だ」
俺は言った。
「うん。なんか、分かった」
セナが小声で答えた。
「体が、勝手に気づいた感じ」
《シーフ》のスキルか。
索敵と罠察知が 含まれているという話だった。
使い方が分からないと 言っていたくせに、 体が先に動いたらしい。
「よく見えたな」
「なんか光って見えた。 細く、赤く」
俺には見えなかった。
スキルというのは、 こういうふうに発現するのか、と 俺は静かに頭に入れた。
糸を跨いで、先に進んだ。
セナも慎重に跨いだ。
最初の魔物に出会ったのは、 それから十分後だった。
天井から、 ゆっくりと降りてくる影。
クモだった。
俺の顔ほどの大きさの、 灰色の体に 赤い斑点が散った、 毒グモだった。
「うわ」
セナが後ろで声を上げた。
「静かにしろ」
「でも、クモが」
「分かってる」
クモが糸を垂らして、 こちらに向かってきた。
俺は薪を構えた。
距離を測った。
天井が低い。 大振りはできない。
クモが床に降りる前に、 突くように叩く。
タイミングを合わせて、 薪の先端をクモの腹に当てた。
クモが弾けて、 床に落ちた。
足が痙攣して、 動かなくなった。
「倒した……」
セナが呟いた。
「あと三匹いる」
「え、どこに」
「天井」
セナが上を見て、 小さく悲鳴を飲み込んだ。
残り三匹を同じように処理した。
最後の一匹が 俺の左手首に噛みついてきた。
痛かった。
皮膚に細い牙が刺さる感触と、 直後に広がる、 じわりとした熱。
毒だ、と思った。
薪でクモを床に叩きつけて、 動かなくなるのを確認してから、 噛まれた場所を見た。
二つの小さな穴。 周りが少し赤くなっていた。
「噛まれた!」
セナが駆け寄った。
「大丈夫か」
「大丈夫じゃないでしょ、 毒グモでしょあれ」
熱が広がっていくのを感じていた。
左手首から肘にかけて、 血管に沿って走るような、 鈍い痛みと熱。
そのとき、右目の奥で、 何かが動いた。
鈍い、静かな痛み。
ゴブリンのときより、 テオのときより、 ずっと弱い。
頭の中に言葉が落ちた。
毒耐性。
そして次の瞬間、 手首の熱が、 すうっと引いていった。
消えた、とは言えない。 ただ、弱くなった。
体の中で何かが 毒を処理しているような、 そんな感覚だった。
「ねえ、カイ、 早く出て手当てしないと」
「平気だ」
「平気じゃないでしょ」
「本当に平気だ」
俺は歩き始めた。
セナが信じられないという顔で 後をついてきた。
「体質とか?」
「さあ」
「さあって……」
追及されると面倒だったので、 俺は前を向いたまま 黙って歩き続けた。
セナはしばらく何か言いたそうにしていたが、 やがて諦めた。
奥に進むにつれて、 通路が広くなった。
天井が高くなって、 発光コケの密度が増した。
少し明るくなったが、 代わりに物音が増えた。
羽音が聞こえた。
「蝙蝠だ」
俺が言うより先に、 セナが壁に背をつけた。
「どこ、見えない」
「上」
暗がりの中、 天井近くを飛んでいる影が いくつか見えた。
正確には、 さっきより見えていた。
暗いのに、 輪郭がはっきりしていた。
なぜか、と思う前に、 右目の奥でまたあの感覚があった。
噛まれてもいない。 目が合ったわけでもない。
ただ、 蝙蝠の群れを見ていたら、
頭の中に言葉が落ちてきた。
夜目。
これは、どういうことだ。
俺はそれを考える間もなく、 投擲で石を投げた。
三匹が落ちた。
残りは飛び去った。
「……今、見えてた?」
セナが暗がりを見ながら言った。
「なんとなく」
「なんとなくって、 私には何も見えないんだけど」
「お前は索敵があるだろ」
「それは別の話でしょ」
セナが俺の横に来て、 顔を覗き込もうとした。
俺は顔を逸らした。
「行くぞ」
「ちょっと待って、目が」
「何でもない」
「絶対何でもなくない」
俺は構わず歩いた。
セナが舌打ちをして、 後を追った。
小さくて軽い舌打ちだったが、 ちゃんと聞こえた。
最深部まで行って、 依頼の証拠品を回収した。
モンスターの魔石が三つ。
小さくて、 薄く光っていた。
「これで帰れる?」
「帰れる」
「よかった」
セナが息を吐いた。
緊張していたのか、 肩が少し下がった。
帰り道は早かった。
来た道を戻るだけで、 罠の場所はセナが全部覚えていた。
「ここ」 「次はあっちの角」
案内するように言いながら歩いた。
初めてのダンジョンで、 初めての罠察知。
使い方が分からないと言っていたくせに、 体はちゃんと動いていた。
入り口から外に出たら、 昼過ぎの光が眩しかった。
セナが空を見上げて、 目を細めた。
「生きてた」
「当たり前だ」
「当たり前じゃないでしょ、 毒グモいたんだから」
俺は魔石を袋に入れながら、 左手首を確認した。
噛まれた跡は残っていたが、 腫れも熱もなかった。
毒耐性。
夜目。
今日だけで二つ増えた。
増え方が、 分からなかった。
目が合った相手から奪う、 そういうものだと思っていた。
でも今日は、 噛まれて、見ていただけで、
何かが入ってきた。
《強奪》の力は、 俺が思っているより 複雑なのかもしれない。
「ねえ、報酬どうする」
セナが聞いた。
「半々」
「え、いいの」
「お前がいなかったら 罠で死んでたかもしれない」
セナが少し黙った。
「……ありがとう」
「礼はいい。 腹が減った、飯にしよう」
俺は歩き始めた。
セナが隣に並んだ。
昨日より、 少しだけ歩幅が近かった。
五日で、少しだけ形になった。
ダンジョンに三度潜って 報酬を合わせると銀貨二枚ほど。
宿代と飯代を引いても 少し残った。
残った金で装備を整えた。
革の胸当て。 中古で傷だらけだったが、 芯はしっかりしていた。
銅貨四枚。
セナには膝丈の外套を買った。
動きやすくて、フードが深い。
《シーフ》のスキルを使うなら 目立たない方がいいと思った。
セナは受け取るとき一瞬だけ黙って、 「ありがとう」と短く言った。
すぐ羽織って、 袖を引っ張って長さを確かめた。
ちょうど良さそうだった。
俺は短剣を一本。
刃こぼれした中古品だったが、 薪よりはましだった。
握った感触を確かめて、 腰に差した。
六日目の朝、 ギルドで依頼板を眺めていた。
Dランク相当の依頼が いくつか新しく貼られていた。
報酬がいい。
ただ条件がある。
三人パーティ以上推奨。
「遠距離が欲しい」
俺は呟いた。
「魔法使いとか?」
セナが横から言いかけて、止まった。
「ねえ、あの子」
依頼板の端、 壁に背を預けてこちらを見ている子がいた。
年は、俺と同じくらいか。
深く被った古びた帽子。 その下から覗く目が じっとこちらを見ていた。
目が合っても、逸らさなかった。
小柄で、細い。
装備は粗末だったが、 腰に細い杖を差していた。
一人だった。
さっきからずっと 依頼板を眺めているようだったが、 何も取ろうとしていなかった。
俺は依頼板から目を離して その子の方へ歩いた。
「何を見てた」
その子は少しだけ驚いた顔をして、 すぐ無表情に戻った。
「……別に」
低い、女の子の声だった。
「一人か」
「そうだけど」
「なんで仲間がいない」
少し間があった。
帽子の鍔を少し下げて、 横を向いた。
「誰も入れてくれない」
「理由は」
「ガキだからって。 しかも無口だって」
俺は黙って その子を見た。
確かに小柄だった。
ただ、 目が死んでいなかった。
じっとしていて、 余計なことを言わなくて、 それでいて 芯のある目をしていた。
「ガキで悪いか」
その子が低く言った。
「俺もガキだ」
「だから何」
「だから別に気にしない」
その子が少しだけ 俺を見直すような顔をした。
同じEランク。 一人ではダンジョンに入れない規定がある。 仲間を探して断られ続けている。
遠距離が欲しかった。 こいつは杖を持っている。
俺は短く言った。
「組む。三人でダンジョンに入る」
帽子の下から 値踏みするような目が来た。
「なんで私を誘う」
「遠距離が欲しかった。 お前がちょうどいた」
「それだけ?」
「それだけだ」
正直に言ったら、 その子は口の端をわずかに動かした。
笑ったのかもしれない。
「……リリィ」
「カイだ。そっちはセナ」
セナが「よろしく」と言った。
リリィは小さく頷いた。
それだけで、仲間になった。
三人で中層への入り口に立った。
浅層より一段深い。 Dランク相当の依頼が出ているエリアだ。
入り口から饐えた空気が漂ってきた。
セナが少し顔をしかめた。 リリィは表情を変えなかった。
「魔法はどのくらい使える」
歩きながら俺は聞いた。
「第一位階だけ」
「段階があるのか」
リリィが少し驚いた顔をした。
「知らないの?」
「この世界に詳しくない」
リリィは前を向いたまま続けた。
「魔法には位階がある。 第一から第七まで。 数が上がるほど威力と難易度が上がる。 詠唱の長さも変わる」
「第一位階はどのくらいの威力だ」
「ちゃんと当たれば、 人を一人倒せるくらい」
「弱点は」
「詠唱に時間がかかる。 その間は動けない」
十分だと思った。
弱点が分かれば カバーできる。
しばらく進んだところで リリィが立ち止まった。
「見せる」
杖を構えて、詠唱が始まった。
静かな、でも芯のある声。
「流れよ、集え、 我が意に従い形を成せ。 《水流》」
杖の先から細い水の帯が生まれた。
通路の壁を舐めるように走って 前方の暗がりに消えた。
数秒後、リリィが言った。
「前方に六匹。 うち二匹は天井にいる」
「索敵代わりになるのか」
「水が触れたものの形が分かる。 目は使わなくていい」
セナが感心したように言った。
「それは便利だな」
リリィは帽子の鍔を少し下げた。
「進む。 詠唱中は俺とセナで前に出る」
「分かった」
「私も動ける」
セナが言った。
「お前は索敵を続けろ。 変な気配を感じたら即座に言え」
「うん」
三人の役割が決まった。
初めてパーティらしくなった気がした。
最初の群れは早かった。
リリィの水流が通路を貫いて 先頭の二匹を串刺しにした。
狭い通路を槍のように。
障害物があっても 形を変えて押し通す水の性質が こういう場所で活きた。
残りは俺が薙いで、 セナが仕留めた。
時間はかからなかった。
次の群れに差し掛かったとき、 天井から羽音が降ってきた。
蝙蝠の群れ。
暗がりの中で 黒い影が十数匹、 一斉にこちらへ向かってきた。
「リリィ」
俺が言うより先にリリィは動いていた。
「流れよ、集え、 我が意に従い形を成せ。 《水流》」
水の帯が一直線に伸びた。
槍のように、 通路の天井に沿って走った。
先頭の蝙蝠を貫通してその後ろの二匹まで まとめて串刺しにした。
残りが散った。
俺が投擲で二匹落として、 セナが短剣で一匹仕留めた。
あっという間だった。
「やるな」
俺が言った。
リリィは何も言わなかったが、 帽子の鍔が少し上がった。
問題はそれから二十分後に来た。
足音が聞こえた。
普通の足音じゃなかった。
重くて、遅くて、 それでいて 妙な圧を持った足音。
セナが俺の腕を掴んだ。
「何か来る」
「ゴブリンか」
「違う。もっと、嫌な感じ」
リリィが杖を構えた。
《水流》を細く放って 前方を探った。
「一体。 二足歩行。 何か持っている」
俺は鑑定を使った。
暗がりの奥、 こちらへ向かってくる影。
【ゴブリンメイジ Dランク相当】 【スキル:赤魔法 Lv.2、詠唱破棄、隠密、索敵】
Dランク。
ただ、詠唱破棄を持っている。
術者が詠唱なしで魔法を放てる。
それが何を意味するか、 一秒で分かった。
「下がれ、二人とも壁際に」
俺は低く言った。
答える前に来た。
詠唱がなかった。
何もなかった。
ただ暗がりの中で何かが光って、
次の瞬間、 炎の塊が飛んできた。
セナとリリィへ一直線に向かっていた。
俺は前に出た。
考えたわけじゃない。 体が動いた。
直撃した。
胸に、正面から。
壁に背中から叩きつけられた。
骨が、鳴った。
床に落ちて息ができなかった。
胸が燃えるように熱くて革の胸当てが焦げていた。
その下の皮膚が じりじりと痛んだ。
内側から炙られるような嫌な熱だった。
「カイ!」
セナの声が遠く聞こえた。
動け、と思った。
体が言うことを聞かなかった。
息を吸った。
肺に空気が入る感覚がひどく遅かった。
肋骨が、何本かいっていた気がした。
それでもゴブリンメイジはまだそこにいた。
次の光がもう溜まりはじめていた。
まずい。
そのとき頭の中に言葉が浮かんだ。
ヒール。
詠唱が、言葉が、 頭の中から勝手に溢れてくる。
俺は残った息を絞り出して それを声にした。
「傷よ塞がれ、 痛みよ退け、 光の加護よ、 今ここに宿れ。《ヒール》」
胸の熱が、少しだけ引いた。
完全に治ったわけじゃない。
ただ息ができるようになって体が動く気がした。
「それ……」
リリィの声が かすかに震えていた。
「白魔法の第一位階の《ヒール》。 聖職者しか、使えないはずで。」
「後で聞く」
立ち上がった。
よろけながら壁に手をついて。
ゴブリンメイジの目を 真っ直ぐ捉えた。
まず赤魔法を奪う。
そう決めた。
ここから動けなくていい。
床に転がったまま目を離さなかった。
右目が燃えた。
赤魔法 Lv.2。
一つ目の代償が来た。
眼球の裏側を 刃物で抉るような痛みで 視界が歪んだ。
次の瞬間、 ゴブリンメイジの手元の光が 消えた。
溜めていた魔法が、 霧散した。
ゴブリンメイジが 自分の手を見た。
何度か魔法を放とうとして、 何も起きなかった。
また試した。
また、起きなかった。
慌てた顔になった。
「なんで、なんで出ない」
そういう顔だった。
その隙に俺は次を奪った。
目を離さずに。
詠唱破棄。
二つ目の代償が来た。
さっきより深かった。
脳の芯まで焼かれるような熱で視界が白くなった。
そのまま暗くなった。
見えなかった。
何も見えなかった。
右目どころか両目ともほぼ機能していなかった。
音だけが聞こえた。
セナが何か叫んでいた。 リリィが杖を構え直す音がした。 ゴブリンメイジが混乱して 動き回る足音がした。
動けなかった。
痛みで。
でも、頭の中に 詠唱破棄があった。
今ここにある。
使える。
俺は目を閉じたまま 声を絞り出した。
「《ヒール》」
無詠唱で放った。
光が、目の奥に当たった気がした。
痛みが、少し引いた。
「《ヒール》」
もう一度。
「《ヒール》」
また。
三回繰り返したとき、 視界がぼんやりと戻ってきた。
輪郭だけ。 霧の中みたいな曖昧な視界。
でも、見えた。
ゴブリンメイジの位置が分かった。
まだそこにいた。
魔法が使えなくなって 混乱したまま逃げるか攻めるか 決めかねているようだった。
俺は立ち上がった。
足が震えていたが構わなかった。
ゴブリンメイジの目をまた捉えた。
右目が燃えた。
隠密。
三つ目。
すぐまた燃えた。
索敵。
四つ目。
二つ分が立て続けに来た。
また視界が消えかけた。
「《ヒール》」
即座に無詠唱で放った。
「《ヒール》」
もう一度。
痛みが、ぎりぎり動ける程度まで引いた。
消えない。
でも、前に出られる。
踏み込んだ。
《身体強化》を全部使って、 ゴブリンメイジの懐に入った。
短剣を腹に当てた。
ゴブリンメイジが床に倒れた。
起き上がろうとするところをもう一度押さえた。
それで終わった。
魔法を奪った後は あっけないほど弱かった。
スキルが全部消えたこいつは、 ただのゴブリンだった。
討伐証明の魔石を取り出して、 袋に入れた。
頭の中に四つの言葉が 順番に並んでいた。
赤魔法 Lv.2。詠唱破棄。隠密。索敵。
右目がじんじんと痛んだ。
視界はまだ少し霞んでいた。
床に膝をついた。
格好悪かったが、 立っていられなかった。
「生きてる?」
セナが駆け寄ってきた。
「生きてる」
「嘘つかないで」
「本当だ」
リリィが無言で隣に来て 倒れたゴブリンメイジを見た。
それから俺を見た。
しばらく黙っていた。
「整理させてくれ」
静かな声だった。
「無詠唱で《ヒール》を使った。 それを何回も繰り返した。 白魔法は聖職者専用スキルで習得に何年もかかる。 なのにあんたは今日初めて使った」
「そうだ」
「……意味が分からない」
「俺も分からない」
リリィが帽子の鍔を深く下げた。
何かを必死に整理しようとしている 顔だった。
セナが俺の焦げた胸当てを 覗き込んだ。
「本当に大丈夫? さっき目が見えてなかったよね」
「今は見える」
「今は、ってことは さっきは見えてなかったんじゃない」
「動けた。それで十分だ」
セナが何か言いたそうな顔をして、 でも黙った。
代わりに、 俺の腕をそっと取った。
「帰るぞ」
「当たり前でしょ」
ギルドに魔石を持ち込んだら、 受付員の顔色が変わった。
「これは……ゴブリンメイジの魔石ですか。 討伐されたんですか。 あなたたちが?」
三人で頷いた。
受付員がしばらく黙った。
それから奥に引っ込んで、 別の男を連れてきた。
白髪混じりの、 体格のいいギルド職員だった。
「このゴブリンメイジ、 実はネームド個体でしてね。 Cランク相当の指名手配が 半年ほど前から出ていたんですよ」
「討伐したときはDランク相当でしたが」
俺は言った。
「ええ。 術者系の魔物は 魔法を封じると一気に弱体化するんです。 本来の力を発揮させてしまえば Cランク相当の脅威になる。 よく生き延びられましたね」
男が俺たちの年を見て何か言いたそうな顔をしたが、 黙っていた。
それから別の紙を出した。
「カイさん、少しよろしいですか。 今回の討伐実績が認められて、 ランクアップの審査が通りました。 Dランクへの昇格です」
身分証に新しい刻印が押された。
D RANK。
セナとリリィを見た。
二人はまだEランクだった。
「一人だけ、ずるい」
セナが言った。
「お前らも上がる」
「いつ」
「もっと倒せばいい」
セナが頬を膨らませた。
リリィは表情を変えなかったが、 帽子の鍔を少し上げて 俺の新しい身分証を見た。
「……おめでとう」
ぼそりと言った。
報奨金の金貨二枚を 三等分して受け取って、 ギルドを出た。
王都の夕方の光が 石畳に長い影を作っていた。
歩きながらセナが言った。
「ねえリリィ、 本当に私たちと同じくらいの年なのに魔法が使えてすごいね!」
リリィが少し足を止めた。
帽子の鍔を上げて、 セナを見た。
「十八だ」
俺とセナが黙った。
「見た目で判断しないでほしい。 よく言われるけど、 本当に十八だから。 どう考えても私の方がお姉さんだから ガキ扱いしないでほしい」
セナがぷっと笑った。
「ごめんごめん。 でも確かに見えないよ」
「分かってる。 ずっとそう言われてきた」
リリィが帽子を深く被り直した。
「……今日、助かった。 仲間にしてくれて」
声が小さかった。
さっきまでのぶっきらぼうな声より ずっと素直な声だった。
「ありがとう」
セナが柔らかく笑った。
俺は何も言わなかった。
言わなくていい気がした。
遠距離が欲しかった。
それだけで声をかけた。
なのに今、 三人で並んで歩いている。
悪くない、と思った。
そう思える自分が 少しだけ意外だった。
翌朝、 セナとリリィより先に起きた。
二人に書き置きを残した。
「一人でダンジョンに行く。 夕方には戻る。」
それだけ書いて、宿を出た。
説明する気はなかった。
心配されるのも止められるのもついてこられるのも、 全部面倒だった。
Dランクになった。
深層に入れる。
一人でしかできないことがある。
深層の入り口は 中層よりさらに奥にあった。
受付で確認証を見せると、 門番の男が少し眉を上げた。
「一人か」
「そうだ」
「Dランクとはいえ、 深層は別物だぞ」
「分かってる」
男は何も言わずに通してくれた。
余計なことを言わない男だった。
ありがたかった。
深層は、暗かった。
中層より空気が重くて発光コケの密度が薄くて、 足音が違う響き方をした。
《夜目》を使った。
暗がりが少し明るくなった。
輪郭がはっきりして距離感が掴めた。
このスキルを 蝙蝠から手に入れた日のことを 思い出した。
あの日から、 随分と遠くに来た気がした。
最初に出たのは 大型の蜘蛛だった。
天井に張り付いてこちらを見下ろしていた。
鑑定を使った。
【大型毒蜘蛛 Cランク相当】 【スキル:毒耐性Lv3、麻痺毒Lv2】
毒耐性と麻痺毒。
欲しい。
《夜目》で位置を確認して、 石を投げた。
天井から落ちてきたところを 短剣で仕留めた。
大型の割に動きは単純だった。
噛まれた。
左腕に深く。
毒が入ってくる感覚があった。
じわりとした熱と次に来るしびれ。
目が合っていた。
右目が燃えた。
毒耐性 Lv.3。
麻痺耐性 Lv.2。
代償が二つ分来た。
視界が歪んだがすぐ《ヒール》を無詠唱で放った。
「《ヒール》」
痛みが引いた。
腕のしびれも、 熱も、 ほとんど消えた。
鑑定を自分に向けた。
【毒耐性 Lv.3】 【麻痺耐性 Lv.2】
確かにそこにあった。
次は蝙蝠の群れだった。
深層の蝙蝠は 中層より一回り大きくて動きが速かった。
鑑定した。
【深層蝙蝠 Dランク相当】 【スキル:隠密 Lv.2、索敵 Lv.2】
隠密と索敵の上位版。
欲しかったものだった。
群れが散らばる前に 投擲で二匹落とした。
残りが闇に溶けた。
《索敵》を使った。
気配が、薄く広がるように分かった。
天井に三匹。 右の壁際に二匹。
一匹ずつ目を合わせた。
目が合うたびに右目が燃えた。
隠密 Lv.2。
索敵 Lv.2。
二回分の代償が来た。
「《ヒール》」
即座に放って、 痛みを流した。
残りは投擲で仕留めた。
奥に進んだ。
通路が広くなって、 空間が開けた。
広間のような場所に出た。
そこにいたのは、 見たことのない魔物だった。
人型で、 青みがかった体色で、 両手に水の塊を持っていた。
鑑定した。
【アクアエレメンタル Cランク相当】 【スキル:青魔法 Lv.2、身体強化 Lv.2】
青魔法。
リリィが使っていた水魔法の系統だ。
それの上位版が、 この魔物にある。
身体強化の上位版もある。
両方、欲しかった。
アクアエレメンタルが 水の塊を投げてきた。
速かった。
横に跳んで、 壁に背をつけた。
水が壁に当たって飛沫が顔に当たった。
冷たかった。
次が来る前に 《赤魔法》を無詠唱で放った。
「《ファイアランス》」
細い炎の槍が飛んで、 アクアエレメンタルの体に当たった。
水でできた体が 一部蒸発して形が崩れた。
ひるんだ。
その隙に踏み込んだ。
距離を詰めながら 目を合わせた。
右目が燃えた。
青魔法 Lv.2。
身体強化 Lv.2。
二つ分の代償が来た。
「《ヒール》《ヒール》」
立て続けに放って痛みを押さえた。
《身体強化》を上位版に切り替えた。
体がさっきより軽くなった。
力の入り方が 明らかに違った。
アクアエレメンタルが 再び水の塊を形成しようとした。
俺は短剣を持ち直して《身体強化 Lv.2》を全部使って 踏み込んだ。
一撃で仕留めた。
アクアエレメンタルが 水になって床に広がった。
魔石だけが残った。
鑑定を自分に向けた。
【赤魔法 Lv.2】【詠唱破棄】 【隠密 Lv.2】【索敵 Lv.2】 【鑑定】【投擲】【強奪】 【身体強化 Lv.2】【夜目】 【毒耐性 Lv.3】【麻痺耐性 Lv.2】 【青魔法 Lv.2】
十二個。
一か月前、 鑑定石に何も光らなかった。
スキルなし、と言われた。
それが今、 こんなになっていた。
感慨はなかった。
ただまだ足りない、と思った。
帰り道、 来た道を戻った。
《索敵》で前方を確認しながら 淡々と歩いた。
出口が近くなった頃、 広い通路に差し掛かった。
人がいた。
魔物じゃない。
人間の男だった。
一人で壁際に立っていた。
年は三十代くらい。
太めの体格で装備は悪くなかった。
Cランクかそれ以上か。
目が合った。
男が俺を見た。
俺も男を見た。
男の顔が、 少し変わった。
値踏みするような目から、 何かを思い出そうとするような目に。
「……坊主、見たことあるな」
男が言った。
低い、落ち着いた声だった。
「そうですか」
「ああ。確か……ギルドの食堂か」
俺は何も言わなかった。
男が続けた。
「そういえば隣に女の子がいたな。 ちょっと特徴的な顔の子。 最近、王都をうろついてるといわれている元奴隷の娘とよく似てるんだよなあ」
空気が、変わった。
男の目が、 笑っていなかった。
「ロジャーの店から 奴隷が逃げたって聞いてな。 同じ夜ロジャーが死んでる。 奥さんもな」
俺は表情を変えなかった。
「それで?」
「お前が食堂にいたのは ちょうどその夜だ。 小さい子供が一人でいたから 覚えてたんだよ」
男がゆっくりと腰の剣に手をかけた。
「ロジャーとは仕事仲間でな。 取引があったんだ。 邪魔してくれたおかげで俺もちょっと困ってるわけだよ」
分が悪かった。
Cランク以上の相手。
力で押すのは無理だ。
俺は男の目を見た。
鑑定を使った。
【スキル欄:―――】
空白だった。
スキルが、一つもなかった。
おかしい。
Cランク相当の冒険者が スキルなしなんてことは まずない。
「……鑑定を使ったな」
男が言った。
静かな声だった。
「お前の目が光った。 鑑定のスキルを持ってるんだな」
俺は答えなかった。
「で、スキル欄が空だったろ」
男が口元を少し緩めた。
「《スキル隠蔽》ってのがあってな。 鑑定されても スキルを見せないようにできる。 便利だろ」
スキルを隠せる。
そんなものがあるのか。
「賢い子供だな。 でも賢いだけじゃ、 ここじゃ生きていけない」
男が剣を抜いた。
「ロジャーの件、 お前が絡んでるなら このまま帰すわけにはいかないんだよ」
俺は一歩下がった。
狭い通路。
逃げ道は後ろだけ。
男は剣を持っている。
近距離では不利だ。
頭の中で、 手持ちのスキルを並べた。
赤魔法。青魔法。 詠唱破棄。
火と水。
二つを、同時に。
俺は右手を男に向けた。
「《ファイアランス》」
細い炎の槍が飛んだ。
男が盾で弾いた。
予想通りだった。
すぐに左手を向けた。
「《水流》」
水の帯が炎の残滓に向かって 一直線に飛んだ。
次の瞬間、
爆発した。
水が炎に当たって一瞬で蒸気になった。
膨張した蒸気が 狭い通路で行き場をなくし、爆音と衝撃波になった。
白い霧が通路を埋め尽くした。
男が吹き飛んだ。
壁に叩きつけられる音がした。
俺はその瞬間《隠密》を使った。
気配を消して、 足音を殺して、
霧の中を走った。
男の怒鳴り声が後ろから聞こえた。
「待てっ、この——」
聞こえなくなった。
宿に戻ったのは夕方の鐘が鳴る少し前だった。
扉を開けると、 セナとリリィが テーブルで向かい合って座っていた。
二人とも俺を見た。
「遅い」
セナが言った。
「戻ってきた」
「書き置きだけ残して 一人でどこ行ってたの」
「ダンジョン」
「一人で?」
「一人で」
セナが何か言いたそうな顔をして、 でも黙った。
リリィが俺の服を見た。
焦げた跡。 水に濡れた跡。 あちこちの汚れ。
「何かあったな」
「少し」
「少しって顔じゃない」
俺はテーブルの椅子を引いて座った。
「明日から気をつけた方がいい」
「何を?」
「知らない人間に、 顔を見られないように」
セナの顔が少し固まった。
「……どういうこと」
「お前のことを知っている奴がいる。 奴隷商人と繋がっていた男だ。 俺たちのことを調べている」
沈黙があった。
セナが手を膝の上で握った。
指が白くなっていた。
「捕まりそうになったのか」
リリィが低く聞いた。
「逃げた」
「どうやって」
「水蒸気爆発を起こして隠密で抜けた」
リリィが少し目を丸くした。
「《水流》と《赤魔法》を 同時に使ったのか」
「そうだ」
「……やることが極端だな」
俺は何も言わなかった。
しばらく沈黙があった。
セナがゆっくり顔を上げた。
目が、少し赤かった。
泣いていたわけじゃないと思う。
ただ、 堪えているような顔だった。
「ごめん」
セナが言った。
「なんで謝る」
「私のせいで面倒なことに」
「俺が勝手に動いた。 お前のせいじゃない」
セナが俺を見た。
何か言おうとして、 やめた。
リリィが静かに言った。
「これからどうする」
「当面は動き方を変える。 目立たないように。 あの男がどこまで動くか、 様子を見る」
「ギルドの依頼はどうする」
「続ける。 金がないと動けない」
リリィが頷いた。
反論しなかった。
窓の外で夕方の鐘が鳴った。
王都の空が オレンジから暗い青に変わっていた。
一か月前、 俺には何もなかった。
名前だけがあった。
今はスキルがある。 仲間がいる。
追われる理由できた。
全部が繋がっているような全部がまだバラバラなような。
それでも前に進む理由は はっきりしていた。
強くなる。
まだ、 全然足りない。
第二章、了。
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