第54話 「ジンの遺した研究」
白衣の男は震えていたーー
「私は敵じゃない」
「頼む…話を聞いてくれ」
キリカは剣を構えたまま言う。
「は!?」
「信用できるわけないでしょ」
男は俯く…
「……そうだな」
「私達は」
「人間を実験材料にした…」
「信じてくれなど……虫のいい話だな」
コトハが小さく息を呑む。
リントは静かに聞いていた。
男が顔を上げる。
「だがDr.ジンは違った!」
その名前にーー
空気が少し変わる。
「ジンさんは最後まで反対していた」
「マリスを兵器にすることを…」
キリカが言う。
「調子いいわね」
「でも研究してたんでしょ?」
男は頷く。
「研究していた」
「だが…目的が違った」
男は近くの端末を操作する。
モニターに映像が映った。
古い記録ーー
白衣の男ーー
優しい目ーー
不精髭ーー
キリカとコトハの驚きが口をつく。
「……小父さん」
映像の中のジンが言う。
『感情は力だ』
『だが悪意だけではない』
『善意もまた力になる』
映像が変わる。
マリス実験ーー
暴走する被験体ーー
研究員達の焦りーー
男が苦しそうに言う。
「マリス機関は…」
「悪意だけを利用しようとした」
「だがジンさんは違った」
モニターが切り替わる。
別の研究記録。
そこに表示された言葉。
【リベラ】
コトハが目を見開く。
「……!」
男が言う。
「善意の力」
「Dr.ジンが見つけた可能性」
「マリスとは逆の力」
キリカが聞く。
「本当にそんなのがあるの?」
男はゆっくり頷く。
「ある」
「そしてそれはーー」
男はリントを見るーー
「君の中にある」
「いや……君たちの中にある!」
沈黙。
キリカが振り向く。
コトハもリントを見る。
リントは少しだけ笑った。
「さぁな」
「考えたこともねぇ…」
男は続ける…
「ジンさんは言っていた」
「もし自分の息子がここに来たなら」
「伝えてほしいと…」
空気が張り詰めるーー
男は静かに言った。
「感情は」
「進化する」
その言葉が意味するものを――
この時の四人はーー
まだ誰も知らなかった。
コトハが息を呑む。
ルディが小さく呟く。
「……始まる」
キングピラー研究区画。
ここはまだ―― ほんの“始まり”に過ぎなかった。
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