第33話 「欲望の街」
塔を出たときーー
外の空気は少しだけ軽くなっていた。
塔の周囲を覆っていた重い気配は、もう感じない。
キリカは大きく伸びをする。
「はぁー……やっと終わったって感じだな」
「三つ目だっけ?」
コトハが指を折って数える。
「憤怒、虚無、嫉妬……」
「うん。これで三つ」
リントは塔を振り返ったーー
もう動く気配はない。
巨大な黒い塔は、
ただの石の塊のように沈黙していた…
「あと三つ……か」
リントの言葉に、キリカが笑う。
「これで、半分終わったってことだよね?」
「楽勝じゃん♪」
だがコトハは、少しだけ顔を曇らせた…
「……そう簡単じゃないよ」
二人が振り向く。
コトハは静かに言った。
「未来が……見えない場所がある」
「黒い霧みたいな……」
リントは眉をひそめる。
「塔か?」
コトハはゆっくり首を横に振った。
「違う」
「もっと……人が多い場所」
「大きな街」
その時だったーー
「ほうーー」
背後から声がした。
三人が一斉に振り向く!
そこに立っていたのは――
黒いコートの男。
鋭い目ーー
どこか退屈そうな表情。
ゼノンだった。
キリカが驚く。
「あんた……!」
「当分出てこなかったから、もう来ないと思ってたわ。」
リントも目を細める。
「久しぶりだなゼノン」
ゼノンは塔をちらりと見る。
「虚無の塔も落としたか」
「思ったより早い」
キリカが剣に手をかける。
「その前に...あんた敵か味方かはっきりしなさいよ…」
ゼノンは肩をすくめた。
「どちらでもない」
「俺はただ見ているだけだ」
「今はな…」
リントが一歩前に出る。
「何を見てんだ?」
ゼノンは答えないーー
代わりにリントの手の甲を見る。
そこには覚醒の紋章が、うっすらと光っていた。
「……やはりか」
ゼノンが小さく呟く。
「覚醒が進んでいる」
リントが眉をひそめる。
「何を知ってる?」
ゼノンは少しだけ笑った。
「全部は知らん」
「だが一つだけ教えてやる」
ゼノンは遠くの空を見上げーー
その方向を指差した。
「次はあそこだ」
リントたちも視線を向ける。
遠くーー
かすかに見える光ーー
夜空の中で
金色に輝く黒い塔。
ゼノンが言う。
「強欲の塔」
「マモン・ピラー」
キリカが顔をしかめた…
「なんか嫌な名前だな」
ゼノンは苦笑する。
「嫌な場所だぞ」
「人間が一番狂いやすい」
コトハが小さく呟く。
「……街」
ゼノンは頷いた。
「ああ」
「巨大都市の真ん中に立っている」
「金」
「権力」
「欲望」
「全部が集まる場所だ!」
リントは拳を握る。
——嫌な予感がする。
だが、それでも目を逸らさなかった。
「そこで何が起きてる?」
ゼノンは淡々(たんたん)と答える。
「もう始まってる…」
「暴動」
「略奪」
「企業の暴走」
「詐欺」
「人間同士の奪い合い」
ゼノンの目がわずかに細くなる。
「欲望は感染する!」
「そして、あの塔はそれを増幅する」
キリカが吐き捨てる。
「ふん…最悪だな」
ゼノンは軽く笑った。
「だから面白い」
リントが睨むーー
「お前は行かないのか?」
ゼノンはしばらく黙る。
そして答えた。
「……今回は行かない」
「これはお前たちの戦いだ」
キリカが不満気に二人を見ながら言う…
「役に立たないよね…こいつ」
ゼノンは気にした様子もない。
その代わり、リントを見つめたーー
「だが覚えておけ」
「次の塔は」
ゼノンの声が少しだけ低くなる。
「守護者より、人間の方が厄介だ…」
リントは目を細める。
「……どういう意味だ」
ゼノンは答えない。
ただ背を向けて歩き出す。
「行けばわかる」
数歩歩いたあと、ゼノンは立ち止まった。
振り返らずに言う。
「それともう一つ」
「お前たちは、もう目を付けられている」
キリカが眉をひそめる。
「誰に?」
ゼノンの声は静かだった。
「塔を管理している連中だ」
リントの腕の紋章がーー
微かに光る。
ゼノンはそれを感じ取ったようだった。
「覚醒者は珍しい」
「特に……お前の紋章はな」
そしてゼノンの姿は闇の中に消えたーー
三人はしばらくその場に立ち尽くすーー
キリカが口を開く。
「……何なんだあいつ」
コトハは遠くの空を見つめていた。
金色の光が揺れているーー
【マモン・ピラー】
コトハは小さく言う。
「でも……行くしかない」
リントは頷く。
「強欲の塔」
キリカが剣を担ぐ。
「行くんでしょ?」
リントは少しだけ間を置いて――
「ああ」
——理由は、もう考えなかった。
「さーて、ぶっ壊しに行くか!!」
遠くの都市ではーー
金色の光が夜空を染めていた。
欲望の塔はーー
静かに人間を狂わせ続けている……
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
もし宜しければブックマークお願いいたします。




