第2話 「父の言葉」
朝。
キッチンからいい匂いがしていた。
「リントー!!」
元気な声。
「起きろー!」
布団の中でリントは唸る。
「……うるせぇ」
ドンッ
布団が剥がされる。
そこに立っていたのは
キリカ。
満面の笑み。
「朝!」
リントは目を細める。
「学校は?」
キリカは親指を立てる。
「遅刻!」
リントは即答する。
「帰れバカ!」
その後ろから
コトハが顔を出す。
エプロン姿。
「朝ごはん出来てるから」
「食べて」
リントは起き上がる。
「お前ら」
「なんで俺の家に普通にいるんだよ」
キリカは笑う。
「だって鍵持ってるし」
「昔からじゃん」
「今さら気にする…」
リントは頭を掻く。
「まぁいいけどよ…」
三人で朝ごはん。
キリカは元気にモリモリ食べている。
コトハはリントを見る。
「リント今日…」
「仕事?」
リントはパンをかじる。
「んー」
「一応、会社だけど…」
キリカが驚く。
「え!?あんたバイトじゃないの!?」
リント
「失礼なんだよお前は…
毎度毎度…」
ふと…思い出したように笑う。
「まぁ…似たようなもんだな」
コトハが言う。
「どんな会社なの?」
リントは少し考える。
「…お人好しのオッサンの会社」
キリカが笑う。
「ざっくり!」
「バカ丸出し!!」
気にもせずーー
リントはコーヒーを一口飲む。
そして少しだけーー
静かな顔になる。
頭の奥で
父の声が響く…
「リント…どんな世界でも…
いつでも笑っていられる男でいろよ」
リントは小さく笑う。
カップを見つめる目がーー
僅かに止まる。
「難しいこと言うよな親父もよ…」
キリカが聞く。
「なに?」
リントはコーヒーを
もう一口飲みーー
その苦みを飲み込むようにして首を振る。
「独り言」
その頃ーー
ビルの最上階。
大きな窓。
一人の男が立っていた。
スーツ姿ーー
落ち着いた目。
リントの会社の社長。
机の上には
資料が並んでいる。
写真。
破壊された街。
黒い怪物。
そして…
【一枚の古い写真】
そこにはーー
二人の男が写っていた。
若い頃の社長。
そして…
もう一人。
笑っている男。
リントの父。
社長が呟く。
「……始まったか」
秘書が言う。
「社長…例の現象
昨日も確認されています!」
社長は頷く。
「数は?」
「増えています」
社長は目を閉じる。
「やはり」ーー
「彼しかいないな」
秘書が聞く。
「彼とは?」
社長は窓の外を見る。
「リントくんだ」
その頃。
会社の前ーー
リントは伸びをしていた。
「あぁー」
「働きたくねぇ」
守衛のおじさんが笑う。
「毎日言ってるな」
リントも笑う。
「社長に聞かれたらクビっすかね?」
二人が顔を見合わせて笑っているとーー
受付の女性がやってきた。
「おはようございます
リントさん」
「社長がお呼びですよ」
リントは肩をすくめる。
「…はいはい」
社長室ーードアを開ける。
「呼んだ?」
社長が振り向くーー
優しい笑顔。
「おはようリントくん」
リントはソファに座る。
「マリス出てるんだって?」
社長は頷く。
「徐々に…増えている」
リントは頭を搔く。
「マジ面倒くせぇな…」
社長は静かに言う。
「君しか止められない」
リントは笑う。
「俺ヒーローじゃないんで」
社長は少し黙ったーー
一瞬だけ視線を落とす。
「君の父親も」
「同じことを言っていた」
リントの笑顔がーー
わずかに揺れる。
社長は続ける…
「だが彼は」
「最後まで戦った…」
静かな空気が漂う中リントは立ち上がる。
「ちょっと仕事行ってくるよ」
社長が聞く。
「怖くないのか?」
リントは笑う。
「普通に怖いよ」
「でも…」
窓の外を見る。
「ほっといたら…」
「もっと面倒になるだろ」
社長は小さく笑う。
「君はやっぱり」
「彼の息子だ」
リントは背を向け手を振る。
「いくら褒めても給料は上がんねぇぞ社長」
ドアを出ていく。
社長は一人になるーー
静かな部屋ーー
時計の音だけが響く。
机の引き出しを開けると
そこには——黒い結晶。
【マリスの残骸】
社長はそれを手に取りじっと見つめる…
結晶を見つめるその瞳は——
研究者の目だった。
「……やはり同じだ」
低い声。
誰に聞かせるでもなく…呟く。
「あの時と…まったく同じだ」
一枚の写真を手に取る。
若い頃の自分と——
リントの父。
笑っている男。
社長の指が、わずかに震える。
「君は、気づいていたんだろう…」
「だから——あの夜、選んだ」
「……」
そして——
黒い結晶を、強く握りしめる!
ミシッ
嫌な音がした…
結晶が、わずかに“脈打つ”ーー
まるで生きているように。
社長の顔が歪む…
「……すまない」
その言葉は、
親友の息子に向けたものか。
それとも——
かつての友に向けたものか。
誰にも分からない…
ただ一つ、確かなのは——
その言葉はーーまるで
これから始まる数多の出来事へのーー
謝罪のようだった。
この男は、“何かを知っている”。
そして——
それを隠している……
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