第24話 「凛人」
静寂――
黒い塔が脈打つ。
コトハの叫びだけが…
夜に残っていた。
「やめてぇぇぇぇぇ!!!」
だが――
止まらない。
模倣アビスの黒い刃が、
振り下ろされる。
キリカの首へ――
避けられない。
間に合わない。
その瞬間…
【カチッ…】
小さな音がーー
世界に混じった。
コトハの腕の中。
リントの懐中時計。
その蓋がーー
静かに開いていた。
淡い光。
静かに――
だが確かに…溢れ出す。
コトハの目が揺れる。
「……なに、これ…」
光は広がりーー
空気が変わる。
だが――
刃は止まらない。
振り下ろされーー
キリカの目が見開かれる。
(間に合わない――)
その時ーー
ドクン…
音が鳴る。
コトハの腕の中ーー
リントの体がわずかに震えた。
――ーー
【心層世界】
静寂。
闇。
音もない世界。
どこまでも続くーー
黒の中で
リントはゆっくり目を開けた。
「……あれ」
体が軽い。
痛みがない。
胸に手を当てる。
貫かれていたはずの場所。
――傷はない。
「ここ……どこだ?」
コツ……
足音。
闇の向こうから
静かに近づいてくる。
リントは振り向いた。
そして――
言葉を失う。
「……親父?」
そこに立っていたのは、ジン。
昔と同じ。
優しい目。
少し無精ひげ。
そしてあの穏やかな笑み。
「久しぶりだな、リント」
その声ーー
忘れるはずがない。
リントの膝が崩れる。
「……生きてたのかよ」
声が震える。
「ずっと……」
「ずっと会いたかったんだよ」
ジンはゆっくり歩いてきた。
そしてリントの前に立つ。
「知ってるさ」
そう言ってリントの頭に手を置いた。
昔と同じように…
「ずっと見てたよ」
リントの目から涙が溢れた。
「……ズルいだろ」
「今さら出てくんなよ」
「俺、もう死んでんだろ!」
ジンは少しだけ笑った。
「まだだ」
「まだ終わってない」
リントが顔を上げる。
「……えっ?」
ジンは静かに言った。
「お前は今、心層世界にいる」
「生と死の境目だ」
「普通の人間なら――
ここで終わるがーー」
リントが呟く。
「……じゃあ俺は?」
ジンの目が優しくなる。
「お前は違う」
「マリスでも」
「リベラでもない」
――ー
そして言った。
「その先だーー」
リントの懐が光る。
懐中時計。
ゆっくり浮かび上がる。
カチッ……
蓋が開いた。
眩しい光ーー
リントが目を細める。
「これ……」
ジンが頷く。
「覚えてるか?」
「お前が小さい頃
聞いてきた…」
ジンの声が優しく響く…
「なんで俺、リントって名前なの?」
リントの目が揺れる。
ジンは言った。
「リント」
「お前の名前はな…」
少し照れたように笑う。
「どんな時代でも」
「どんな世界でも」
「流されず」
「自分を凛と持って生きれる人になってほしい」
「そう願ってつけた名前だ」
静かに続ける。
「凛人」
リントの胸が震える。
「……親父」
ジンが真っ直ぐ見る。
「聞くぞリント」
「お前は」
「もう終わる男か?」
リントの頭に浮かぶ。
キリカ。
怒った顔。
笑った顔。
コトハ。
優しい声。
泣いていた顔。
そして――
二人の叫び。
『リント!!』
リントの拳が震えた。
「……終われるかよ」
顔を上げる。
涙を拭う。
そして笑った。
「俺」
「まだ……」
「残ってんだよ約束!」
ジンが笑った。
誇らしそうに。
「そうか」
懐中時計が輝くーー
光が広がる。
リントの体が光に包まれる。
ジンが言った。
「最後に一つだけ言っておく」
リントが振り向く。
ジンの目が優しく細くなる。
「いいかリント」
「どんな世界でも…」
「いつも…笑っていられる男でいろよ」
光が強くなる。
ジンの姿が遠ざかる。
リントが叫ぶ。
「親父!!」
ジンが最後に言った。
「行け」
「凛人!」
その瞬間――
世界が白く弾けた。
――ー
【現実世界】
ドクン。
音が響く。
黒い刃が、キリカの首へ
その瞬間――
ガシッ。
止まる。
リントの手が、刃を掴んでいた!
キリカの目が見開かれる。
「……え?」
コトハの息が止まる。
「……リント?」
ゆっくりと。
リントが顔を上げる。
その目――
どこか、人間離れした静けさ。
刃を握ったままーー小さく息を吐く。
「……あー」
「よく寝た」
その一言で――
空気が変わる。
模倣アビスが、わずかに揺れる。
リントが刃を払いのけ
背中越しに言う。
「悪いな」
「待たせた」
キリカの目から涙が溢れる。
「……バカ」
その場に崩れる。
コトハが泣きながら笑う。
「……生きてる…」
リントは手を見るーー
【リベリオンの紋章】
静かに脈打つ新たな力。
「……へぇ」
そして静かに笑いながら言う。
「ここからだ!」
「最後は笑って
終わるって決めてんだ」
瓦礫の街にーー
新たなる光が舞い戻る。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
もし宜しければブックマークお願いいたします。




