第19話 「静かな予兆」
夕暮れの街。
オレンジ色の光がーー
瓦礫の残る廃ビル群を染めていた。
リントは屋上のフェンスにもたれ…
空を見上げていた。
「静かすぎるとさ……」
ぽつりと呟く。
「なんか落ち着かねぇな。」
その言葉に、背後から声が飛んできた。
「なにカッコつけてんのよバカ。」
キリカだった。
手には缶コーヒーが三本。
「ほら。」
一本をリントに投げる。
「おっと。」
軽く受け取るリント。
遅れて階段から現れたのはコトハだった。
「二人とも……またこんなところで。」
少し呆れながらも、
どこか嬉しそうに笑う。
三人は屋上のコンクリートに腰を下ろした。
静かな時間。
風だけが吹く。
リントが缶を開けた。
「なぁ。」
「ん?」
キリカが横を見る。
「もしさ、また戦いが始まったらどうする?」
その言葉にーー
キリカは一瞬だけ黙る。
だがすぐに答えた。
「決まってるでしょ。」
缶を掲げる。
「ぶっ飛ばす。」
リントが笑う。
「シンプルだな。」
コトハが静かに言う。
「でも……」
二人が彼女を見る。
「もし……その戦いで、誰かが……」
言葉が止まる。
リントは軽く肩をすくめた。
「大丈夫だって。」
そして笑った。
「俺、死なねぇから。」
その言葉にキリカが吹き出す。
「死亡フラグじゃんそれ!」
「違う違う。」
リントは空を見上げる。
「なんかさ……」
空の雲がゆっくり流れる。
「まだ終わってない気がするんだよ。」
その瞬間だった。
ピリッーー
空気が震えた。
キリカの表情が変わる。
「……来た。」
コトハも立ち上がる。
遠くの空。
黒い裂け目が現れ始めていた。
リントはゆっくり立ち上がる。
「ほらな。」
その目は、どこか楽しそうだった。
「退屈、終わり。」
空が裂けたーー
そこから現れた巨大な影。
それはーー
今まで感じたことのないほどの威圧感……
空間が歪む。
重力すら曲がる。
キリカが呟いた。
「……嘘でしょ。」
コトハの顔が青ざめる。
「こんなの……初めて……」
リントは拳を握った。
その時ーー
彼の手の甲が一瞬だけ光った…が
誰もそれに気付かなかった。
空の裂け目の奥。
そこに――
巨大な影が動いた。
その圧倒的な存在に、
街の空気が凍りつくーー
ちょうどその時…
遥か遠くーー
崩れた塔の上で、
その光景を見つめる者がいた。
人間の姿。
静かな立ち姿。
風が吹き、
長い銀色の髪が揺れる。
その瞳だけが、
わずかに細められた。
「……人間か。」
小さく呟く。
その声には
敵意とも、興味ともつかない響きがあった。
「面白い。」
彼は静かにその光景に魅入っているようだった。
その気配は――
これまでのアビスとは明らかに違っていた…
裂けた空の向こうーー
今まさに戦いが始まろうとしている。
だが彼は――
動かなかった。
ただ…見ていた。
まるで…
"何か"を確かめるように。
静かに…
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