第18話 「それでも前へ」
憤怒のアビスが倒れた場所には
まだ黒い霧が薄く漂っていた。
崩れたビルの屋上にーー
瓦礫が転がる音だけが響く。
キリカが腕を押さえながら言う。
「はぁ……」
「マジ死ぬかと思った」
リントが横目で見る。
「キリ」
キリカ
「なに?」
リントが頭を掻く。
「血ィ…」
「出てるぞ」
キリカ
「誰のせいよ!」
リント
「俺のせいかよ!」
コトハがしゃがみ込む。
「キリちゃん」
端末を取り出す。
「ちょっと見せて」
キリカ
「大げさだって」
コトハ
「ダメ!」
「裂傷放置したら
傷跡残るから」
キリカ
「え…」
少し焦る。
リント
「跡残るのはまずいな」
キリカ
「何その言い方!」
リント
「将来困るだろ?」
キリカ
「何に!?」
コトハが包帯を巻きながら小さく笑う。
「リント」
「不器用だね」
リント
「うるせぇ…ほっとけ!」
キリカが少しだけ顔を赤くする。
「……ありがとコトちゃん」
コトハ
「うん」
「キリちゃんは無茶しすぎ!」
少しだけ優しく言う。
「でも…」
「助けたのは」
リントを見る。
「正解!」
リントが肩をすくめる。
「勝手に突っ込んできただけだろ」
キリカ
「はぁ?…何その言いぐさ!」
リント
「はいはい」
その時。
後ろから拍手が聞こえた。
パチ。
パチ。
パチ。
三人が振り向く。
ゼノン。
瓦礫の上に立っていた。
「いや」
「実に面白い」
キリカ
「またあんた…!?」
「何回現れたら気がすむのよ!」
リント
「ホント…暇人かよ」
ゼノンは笑う。
「違う」
「観測者だ」
コトハがじっと見る。
「……質問」
ゼノン
「なんだ」
コトハ
「さっきのアビス…」
「模倣型じゃない」
「エネルギーが違う」
沈黙。
ゼノンが笑う。
「よく分かったな」
「その通りだ」
キリカ
「え?」
ゼノン
「奴は…」
遠くを指す。
「塔の守護者」
「憤怒のアビス」
キリカ
「ちょっと待って!」
「じゃあ私たち」
「いきなりボス倒したの!?」
ゼノン
「そうなるな」
リント
「ラッキーじゃん♪」
キリカ
「軽っ!!」
ゼノン
「確かに奴は…
塔の守護者の一体だ」
「しかも……己の守護する塔を離れるほどの“外れ”のな」
キリカ
「外れって……あの強さで?」
ゼノンは空を見る。
遠く…
黒い塔が赤く光っている。
「世界には」
「七本の黒い塔があると教えたな。」
コトハ
「ピラー……」
ゼノン
「そうだ」
「そして、全ての中心…」
遠くの巨大な影を見る。
「キングピラー」
キリカ
「おぉ…ラスボスっぽい」
ゼノン
「そこへ行くには」
「条件がある…」
少し間を置く。
「六本の塔」
「その守護者を全て倒すこと」
沈黙。
キリカ
「RPGじゃん!」
リント
「つまり…」
「あと五体?」
ゼノン
「そういうことだ!」
コトハが遠くを見る。
塔。
黒い柱。
空へ伸びている。
「……嫌な感じ」
キリカ
「わかる」
リントが首を鳴らす。
「まぁ…とにかく」
「壊せばいいんだろ」
ゼノン
「無理だ」
リント
「は?」
ゼノン
「ピラーは破壊できない」
「守護者を倒した時だけ」
「道が開く」
キリカ
「めんどくさっ!」
リント
「つまり…」
「殴るしかない」
ゼノン
「お前らしいな」
その時。
コトハが遠くを見る。
「……動いた」
キリカ
「え?」
遠くの塔。
赤い光が強くなる。
地面が微かに揺れる。
リントが笑う。
「呼んでるな」
ゼノンが小さく言う。
「そうだ」
「塔は」
「人間を試す」
キリカ
「何それ」
ゼノン
「行けば分かる」
リントを見る。
「リント」
「お前」
少し笑う。
「死相がでてるぞ」
沈黙。
キリカ
「は?」
リント
「縁起でもねぇよ!」
ゼノン
「そうだろうな」
体が黒い霧に溶けるーー
消える。
静寂。
キリカ
「……ムカつく」
コトハが言う。
「でも…」
「嘘は言ってない」
リントが歩き出す。
「行くか」
キリカ
「え?」
リント
「塔」
指を鳴らす。
「五本残ってんだろ」
キリカ
「いや…休むでしょ普通!」
コトハが立ち上がる。
「キリちゃん」
「この人止まらない」
キリカ
「知ってる!」
リントが振り向く。
ニヤッと笑う。
「置いてくぞ」
キリカ
「待ちなさいよ!!」
三人が歩き出す。
遠く。
黒い塔が赤く光る。
その影の奥で――
ゆっくりと
何かが目を開いた。
それは…
これから起こる悲劇の前触れでもあった……
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