第13話 「アビス」
屋上に風が吹くーー
ゼノンは静かにリントを見ていた。
「やっと会えたな」
リントは目を細める。
「……誰だ」
男は笑った。
「ゼノン」
「元リベラだ」
キリカが小声で言う。
「リベラ?」
コトハも警戒していた。
端末を確認する。
「マリス反応……ない」
ゼノンは肩をすくめる。
「当然だ」
「もう戻ったからな」
リントが一歩前に出る。
「戻った?」
ゼノンは頷く。
「顕化モードからな」
キリカが目を丸くする。
「は?」
「マリス化って戻れるの!?」
ゼノンは静かに言った。
「戻れる」
「悪意に呑まれなければ…」
「まぁ普通の人間では少々厳しいがな」
コトハが呟く。
「……リベラ」
ゼノンは笑う。
「そう」
「お前たちと同じだ」
屋上に沈黙が落ちる。
その時だった!
空気が――歪んだ。
コトハの端末が激しく警告音を鳴らす。
「待って」
「反応……おかしい」
画面の数値が跳ね上がる。
キリカが覗き込む。
「え?」
「なにこれ」
コトハの声が震える。
「今までのマリスと……桁が違う」
その空気の重さを…
リントも感じていた。
まるで…
巨大な何かが
近づいてくるような異様な感覚。
ゼノンは空を見上げた。
「来たか」
一瞬だけーー
音が消えた。
次の瞬間!!
ビルの向こう側で
爆発。
ドォン!!
黒い霧がーー
空へと噴き上がる。
その中心から
ゆっくりと
影が現れた…
人の形。
だが――
明らかに違う。
霧が体にまとわりつき
その目は
完全な闇だった。
キリカが呟く。
「……あれ」
「マリス?」
ゼノンは静かに答えた。
「違う」
「上位個体だ」
コトハ
「上位……?」
ゼノンは言う。
【アビス】
その名前を聞いた瞬間。
影が――消えた。
次の瞬間ーー
屋上の中央に立っていた。
ドンッ!!
衝撃で床がひび割れる。
キリカが後ろに飛ぶ。
「速っ!?」
アビスはゆっくりと首を傾けた。
「……人間」
その声は
低く…
空洞のようだった。
そしてリントを見る!!
「……見つけた」
リントは拳を構える。
アビスが笑う。
「いい」
「強い匂いだ」
黒い霧が
一気に膨れ上がる。
コトハが叫ぶ。
「来る!」
次の瞬間。
アビスが消えた。
衝撃。
リントの腕が動く。
ドンッ!!
拳と拳がぶつかり合いーー
屋上の床が砕ける。
キリカが叫ぶ。
「リント!」
リントは歯を食いしばる。
「……強いな」
アビスは笑う。
「当たり前だ」
「我は――」
黒い霧が渦巻くーー
「マリスの進化だ!」
その時ゼノンが静かに言った。
「やれやれ」
「もう出てきたか」
アビスが横目で見る。
「……お前」
ゼノンは笑う。
「久しぶりだな」
空気が凍る。
キリカが小声で言う。
「知り合い?」
ゼノンは答えた。
「多少な…」
そしてリントを見る。
「リント」
「気をつけろ」
ゼノンの目が鋭くなる。
「そいつは」
「今までのマリスとは」
「別物だ!!」
アビスは笑った。
「そうだ」
「我は…」
黒い霧が爆発する。
「上位個体アビス」
その瞬間!!
屋上が崩壊した。
ドゴォォォン!!
床が砕け
コンクリートが割れ
リントたちは下の階へ落ちていく。
キリカが叫ぶ。
「うわああああ!?」
リントが笑った。
「派手だなぁ!!」
落下する瓦礫の中。
アビスの目が
静かに光ったーー
「……解析開始」
――対象:リント。
ピッーー
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