第十五話 明かされた真相
よしねは息を切らしながらも、お館様の屋敷にたどり着いた。
すると今度は、中年の男性から声をかけられる。
「よしね様、奥でお館様がお待ちです」
「わかりました」
お互い軽く会釈をして、よしねは屋敷の中に入る。
その後、中年の男性は烏の姿となり、どこかへ飛びたった。
屋敷の中を歩いていたよしねだが、ふとあることに気づく。
「やけに静かね……誰もいないみたい」
よしねは一番奥の部屋に着くと、大きく深呼吸した。
「お館様、よしね、参りました」
「入りなさい」
いつものように、お館様の凛とした声が響いた。
ふすまを開けると、お館様はいつもの着物ではなく、よしねと似た軽装で座っていた。
「ふふっ、よくここまでたどり着いたわね」
「それは、どういう意味ですか?」
「意味なんてないわよ。ただ感想を言っただけ」
お館様は持っていた扇で、にやける口を隠す。
「よしね、私に聞きたいことがあるんでしょ? 人払いはしているから、言ってみなさい」
だから、この屋敷に人の気配がなかったのかと、よしねは思った。
そして、ずっと考えていたことを話した。
「おかしいと思ったんです。急なあなたからの呼び出し、傭兵である罪刃の剣の襲撃、そして雪影たちの足止め……」
よしねは、キッとお館様を睨む。
「全部、お館様が指示したんですね」
「あーら、怖い顔」
よしねの発言を聞いても、お館様は笑みを絶やさない。
それに腹を立てたよしねだが、もう一度深呼吸した。
「お館様、聞きたいことがあります」
「そう? 私は話したくないわね」
「十年前、私の屋敷が火事になりました。ご存じですよね?」
「えぇ、知っているわよ」
「それを指示したのは、お館様だと聞いたのですが、本当ですか?」
よしねの問いに、お館様は扇をパチンと閉じた。
「本当よ」
凛とした声で言うお館様に、先ほどの笑みはなかった。
その答えに、よしねは声を荒げる。
「なぜ、そんなことを!」
「だって、ゆりねは私の言う事をきかなかったし、ましてや口ごたえまでしたのよ」
お館様は閉じていた扇をまた開き、笑う口元を隠した。
「だから邪魔になった。それだけよ」
「それだけって……ゆりねは苦しんでいたんですよ!」
よしねは、掴みかかるように一歩前に出る。
しかしそれを制するように、お館様は扇を閉じてよしねに向けた。
「それはよしね、あなたがいたからじゃない」
「……どういうことですか」
「あなたはね、ゆりねよりももっと強い力を秘めているの。だから私のために利用しようとしたのに……」
お館様は、閉じている扇をあごに当てた。
だが、よしねを見つめるその目は冷たかった。
「ゆりねは、それを許さなかったわ」
ぽつりと呟き、また笑みをつくる。
「それで私と対立するようになって、疾風の中でも孤立するようになったのよ」
「そんな……ゆりねはそんなこと一言も……」
よしねは悲しみに暮れていた。
それを見たお館様は、にっこりと笑う。
「言わないでしょうねぇ。そして私は、あの火事を思いついたの。あれだけすれば泣きついてくるかと思ったのに」
お館様の笑みは消え、深いため息をつく。
「まさか、自害しちゃうなんてねぇ」
つまらなそうなお館様だったが、ふと思いだしたように笑いだした。
「……なにがおかしいんですか」
「ふふっ。だって、結局妹は私に従っているなぁと思ってね」
お館様は笑い終わると、また扇を開いて口元を隠す。
「あれだけ姉が近づけさせないようにしたのに、残念ね」
いたずらに笑うお館様に、よしねは拳を握りしめる。
しかし、他にも疑問はあった。
「それより、気になることがもう一つあります」
「あら、なにかしら?」
「人の魂を別のものにうつすこと。それは禁じられた術のはずです」
「あぁ、そうだったわね」
「なら、なぜあなたは無事なのですか?」
「ふふっ、知りたい?」
笑みを絶やさないお館様だが、その目は笑っていなかった。
よしねは、ごくりとつばを飲んだ。
「それは、私が特別だからよ」
「特別?」
予想外の答えに、よしねは首を傾げる。
そして、お館様の姿を見て、ある疑問がわいた。
「そういえば、なぜあなたは十年前と、姿が変わらないんですか」
「……」
珍しくお館様は黙った。
しばしの間、沈黙が流れる。
やがて、お館様が口を開く。
「それを知っても、あなたには何の得にもならないでしょ?」
「そうですね。だけど私には、やらなければならないことがあります」
よしねは目をそらすことなく、お館様を見つめる。
「あなたをとめる。それが、ゆりね……姉上の願いだから」
「まったく……姉妹そろって、うっとうしいわね」
お館様は、冷たい視線をよしねに送る。
そして扇を閉じると、ゆっくり立ち上がった。
「いいわ。なら、わからせてあげる」
よしねは杖を構えたが、お館様が片手を上げる。
「ちょっと待って。ここで力を使うつもり?」
「えっ、そうですけど……」
首を傾げるよしねに、お館様はため息をついた。
「部屋を荒らされたら嫌だわ。場所をかえましょう」
それを聞いて、よしねは彩との戦いで隼人に怒られたことを思いだす。
また怒られると思ったよしねは慌てて頷き、二人は部屋を出ていくのだった。




