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第十四話 姉の願いと、またやってきたあの男

 よしねは予想外の名前に、驚きを隠せなかった。

「お館様が、どうして……」

「理由は、お館様も話してはくれなかったわ」

「姉上……あの火事の時、私たちが逃げた後どうしたの」

 よしねの問いに、ゆりねは目線をそらした。

 どこか遠い目をするゆりねに、よしねは不安を覚える。

 すると、ゆりねが少しずつ話しだした。

「あなたたちを逃がした後、敵を倒していたわ。でも、それも限界になって私はあることを決めたの」

「あること?」

 よしねは首を傾げた。

 それを見たゆりねは頷き、話を続ける。

「それはね、命を絶つこと」

 ゆりねの発言に、よしねは言葉を失う。

「私は、近くにあった短刀で胸を貫いた。そこで、私は死ぬ……はずだった」

 十年前、燃え盛る炎の中、胸を刺したゆりねは倒れていた。

 そこへ、近づいてくる者がいた。

「ゆりね、あなたにはまだ仕事があるのよ。勝手に死んでもらっては困るわ」

 それはお館様であり、持っていた人形に術をかけた。

 すると、人形はだんだんゆりねの姿になる。

「さぁ、今度は私のために働いてもらうわよ」

 その話を聞いたよしねは、わなわなと震えていた。

「ひどい……姉上を利用するなんて!」

「だから、私のこの体は作り物なの」

「なら、血が出ないのも理解できたわ」

 拳を握りしめるよしねの手を、ゆりねは優しく包む。

「姉上……?」

「お願いよしね……お館様をとめて……あの方にもう罪を重ねさせないで……」

 苦痛に顔を歪めたゆりねを見て、よしねは強く頷いた。

「大丈夫よ、姉上。私が必ずとめてみせるから!」

 それを聞いたゆりねは微笑み、ゆっくりと目を閉じた。

「姉上、どうしたの?」

 すると、ゆりねの体はゆっくり消え、ボロボロの人形だけが残った。

「姉上……また私を置いていくの?」

 涙を流すよしねの頬を、そよ風が撫でていく。

「よしね……あなたのこと憎かった以上に、愛していたのよ……」

「姉上、ありがとう……」

 ゆりねの想いを受けとり、よしねは立ち上がる。

「よしね様ーっ!」

「隼人! よかった、無事なのね」

 遠くから隼人の声が聞こえ、よしねは笑みがこぼれる。

 しかし、ふと何かに気づく。

「あれ、月影は?」

「それは……」

「まさか、あの罪刃の剣って奴にやられたの?!」

「違います! 実は……」

 隼人は、よしねと別れた後のことを説明した。

「そうだったの、雪影たちが……」

「月影も重傷なので、彼らに任せてきました」

「でも和解できてよかったわ」

 月影が重傷なのは自分のせいだということはふせておこう、と隼人は思ったのだった。

「よしね様も、ご無事でなによりです」

 隼人がほっと胸をなでおろしていると、よしねの表情が曇る。

「よしね様?」

「私のところには、ゆりね……姉上が来たよ」

 その発言に、隼人は驚いた。

「ゆりね様が?! それで、ゆりね様はどちらに……」

 隼人が言い終わる前に、よしねは河原を指さす。

 その方向に目を向けた隼人は、じっと目を凝らす。

「あそこに何かありますね」

「あれが、ゆりねだった物だよ」

「えっ、どういうことですか?」

「ゆりねの魂は、あの人形に閉じこめられていたの」

「そんな……それは禁じられた術ですよ?! 使った本人も、ただではすまないはずです」

「それをやった人がね、お館様なのよ」

 よしねはため息をつき、隼人はあごに手を当てた。

「なるほど。雪影たちに指示をしたのもお館様だったようです」

「これで、すべてがつながったわ」

 よしねはぐっと前を見すえる。

「早くお館様に会って、すべてを白状してもらいましょう!」

 よしねたちは急いでお館様の屋敷へと向かうことにした。

 しばらくして、お館様の屋敷が見えたところで、また罪刃の剣が現れた。

「罪刃の剣、また邪魔をする気?」

「おぉ、嬢ちゃん生きていたか。となれば、あの疾風のお嬢さんが負けたんだな」

「ゆりねを知っているの?」

「あぁ。そのお嬢さんからお前たちの分断を頼まれたんでね」

「そうだったの……」

 よしねはゆりねを思いだし、胸に手を当てる。

 罪刃の剣は、持っていた大剣を抜き、二人に向けて突きだす。

「さぁ、俺と戦おうぜ眼帯野郎」

「「えっ?」」

 よしねと隼人は驚いていた。

 それを見て、罪刃の剣はにやりと笑う。

「本当は嬢ちゃんと戦いたかったが、嬢ちゃんを待ってる御方がいるんでな」

 それを聞いて、よしねには思い当たる人物が一人いた。

 それを感じ取った隼人は、よしねに微笑む。

「よしね様、ここは俺に任せて先に行ってください」

「でも、隼人……っ!」

「大丈夫です。俺もすぐに行きますから」

 その時、よしねの頭に十年前の火事がよぎる。

 それはゆりねとの最後の別れ。

 ゆりねと隼人の姿が重なった。

 よしねは言いたいことをぐっとこらえ、隼人の袖を握る。

「絶対よ。もし来なかったら許さないんだから!」

 隼人は頷き、よしねの手を離した。

 よしねは駆けだし、罪刃の剣の横を通り過ぎる。

 罪刃の剣も手出しはせず、よしねを見送ると大剣を肩に担いだ。

「さぁ、始めようぜ。できるだけ俺を楽しませてくれよ」

「貴様に負けるわけにはいかない!」

 二人は睨み合い、同時に駆けだした。

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