第六十話 終戦
「ヌ……ォォォォォォォォォ!!!」
俺が放つ最期にして最弱のスキル。
だが、もはや風前の灯といったサン相手なら十分過ぎる威力だ。
サンを押し潰そうと重力がかかっていく。
前足と後ろ足で踏ん張っているものの、サンの体が軋み悲鳴を上げている。
「カイト……ダーヴィン……! カイト・ダーヴィン!!! オノレ……同族デ……アリナガラ!!!」
「違う……俺は、人間だ。今までも、これからも」
「グ……ググ……グォォォォォォォォォォォ!!!」
断末魔とともにサンは地面と同化するように押し潰されていった。
これで……すべてが終わる。
魔獣との争いも、俺の生も。
体に力が入らず膝が抜けていく。
庇い手すらもでずに頭から地面に向かって倒れた。
誰かがなにかを言っている。だが脳内で処理することができずノイズとしか捉えることができない。
もうじき心臓が活動を止める。
最期の最期で人間として生きていけたことだけが俺の誇りだ。
できれば、ラキアに想いを伝えたかったけど――それは高望みが過ぎるか。
静かに、ゆっくりと、瞼を閉じた。
◇
真っ白い空間。なにもない、どこまでいっても無。
ある一点にモヤがかかり始める。煙が形を為していき、人型へと変わっていった。
茶色のマッシュヘアに緑色の皮の服。一見すると自分と似た見た目だが、顔にはシワが刻まれ、口周りには無精髭が生えていた。
遠い記憶。
見たことのある人物。
忘れるはずもない――――――
「父……さん」
俺の呼びかけに、父らしき人物は笑顔で口を開いた。
「よお、カイト。どうした、そんな元気のねぇ顔して」
低く、威厳のある声。間違いなく父だった。
俺が小さい頃、クエストに向かいそのまま消息が途絶えた。死んだはずなのに……どうして目の前にいるのだろう。
そうか……死んだのだから当然か。
ここは死後の世界なんだ。
「細けぇことは気にすんな。それよりもカイト、魔王をぶっ飛ばしたんだな。すげぇじゃねぇか」
チョリと無精髭を親指で擦りながら話す。
昔からの癖だった。
「魔獣としての力も大いにあるけどね」
「だとしてもお前は人間側に立って勝利した。そこに大きな意味があるんだ。よくやった」
「父さん……」
触れたい。
もう10年は会えてなかった父さんに会えたのだ。少しくらいなら許されるだろう。
俺は一歩進もうとする。
すると父は急に眉間にシワを寄せ大喝した。
「くるんじゃねぇ! 俺の立っている場所は死の世界だ。お前はまだそのときじゃねぇ」
「なっ……でも、俺はもう……」
「まだお前を求める声が聞こえるだろう。大切な嬢ちゃんの声が、仲間の声が」
そう言われて耳を澄ますと周りになにもないはずなのに声が聞こえ始める。
――カイト君!
――カイト!
――カイトさん!!!
みんなの声が……聞こえる……。
「ほら、聞こえたか? 求める声が。早くいってやれ」
「けど……」
「お前がじいさんになって死んだら、それまでのことについて語ろうや」
またモヤがかかり始め、人の形が消え去っていく。
「父さん!」
「じゃあな、すぐに会わないことを祈ってるぞ、カイト」
父がそう言うと同時に、白い空間は真っ黒に塗りつぶされて、意識が消失した。
◇
目を覚ますと、目の前には見慣れた顔ぶれが3人。
「オリビア……バルト……ラキア……」
俺は自分の心臓に手を当てる。
間違いなく生きている。死んだはずなのに。
「カイトさん……よかった……!」
「ラキアが治癒してくれたのか?」
「いえ……私が診たときにはすでにもう……亡くなっていました。けど、なぜか急に心臓が動き始めたんです」
どういうことだ? ラキアが治癒したわけじゃないということは……。
父が、俺を引き返してくれたのか。
まったく、粋なことをしてくれる。
俺は砂埃を払って立ち上がる。
「お、おいおい、もう大丈夫なのか?」
「もう少し休んだほうがいいんじゃないか」
オリビアとバルトに制止されるが、俺はいてもたってもいられない。
「帰ろう、王国に」
俺たち人間が住む場所に、早く戻りたかった。
あの安寧の地へ――――――




