第五十九話 魔王サン 後編
「重力操作…………」
今まで溜めていた魔力をすべて重力場の精製に使用する……!
「臨界虚空下転!!!」
前方見える範囲のすべて飲み込む無限の黒渦。
いかにサンといえども今の状態なら確実に動きは制限される。
「グ……グォォッ!!!」
さすがに吸い込み切ることはできないが、サンは重力場を脱出することで精一杯だ。
「オリビア!」
俺はオリビアに合図をだす。
レイピアは突きの構えをとりスキルを発動する。
「真氷獄紋・絶氷!!!」
超高密度の氷がまるで山のように創られ、サンを氷漬けにする。
「ナ……メルナヨ……!!!」
サンが言葉を発するとともに氷にヒビが入り隙間から爆炎が生じて氷山が大破する。
だが、身に纏っていた青白い焔がロウソクの火のように小さくなっていた。
ここだ。
ここしかない。
「バルト!」
「うっしゃぁぁぁぁぁ! スーパーアルティメットハイパーウルトラマスター出力! 爆裂炸手XX!!!」
肩のブースターから勢いよく炎と黒煙を排出してサン目掛けて突撃していく。
焔による障壁を失い、防御の体勢もままならないサンはなすすべなくバルトの一撃を受けた。
「ゴッ……ガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
バルトの火力はサンの灯火を大きく上回り見渡す限りの地面に亀裂が入る。
クリティカルヒット……!
これ以上ない完璧な一撃だ。
しかし――――――――
魔獣としての、魔王としての意地か。
爆散に至らず、すんでのところで耐えていた。
「ガ……ガ……ガガ…………!」
うめき声を上げつつも、バルトの最大出力を徐々に押し返していく。
「う……そだろ? ここまで……やった……のにッ……!」
バルトは踏ん張るものの、サンの圧力が増していき後退していく。
ラキアも、オリビアも、バルトも、俺でさえも。
力を出し切った。
ラキアはすでに膝をつき立ち上がることができず、オリビアはレイピアを杖代わりにしギリギリのところで立っていた。それほどの魔力を使用したのだ。
それでもなお届かぬ高み。
食物連鎖の頂点。
「だからこそ――ここで終わらせなければならない」
俺は1人呟いて眼に力を集中する。
稲妻が眼球から放出され血が流れ出ていく。
「重力操作・終末転界」
全員の動きが一様に止まる。
燃え盛る炎もピタリと静止し、それ以上燃え上がることはない。
俺は疲弊した体に鞭を打ってサンの元まで歩み寄る。
形成が逆転し、サンがバルトを押し潰す格好で時を止めていた。
俺のこの眼はマーキュリーと同じく特別で使用するたび五感をや神経を失っていく代わりに魔力の消費はない。
といっても俺の場合はマーキュリーと違い完全に補助スキルに過ぎず、この眼単体では大して効果はない。
おまけに魔力もほとんど底を尽きている。どうしようもないことは分かっている。
ただ1つだけ。確実に殺すすべがある。
魔力は命の源。逆に言えば命を全て削れば……重力操作1回分の魔力になる。
今のサンならこの1回で十分だ。
俺はサンに向けて掌をかざす。
準備は万端だ。
《重力操作・終末転界》を解除する。
すべての時は動きだし、サンは横にいた俺と目を合わせる。
ギョロリと全存在を蔑む目つき。
――人間……ゴトキガ。
――それは逆だ。相手が人間だったから、お前は負けるんだ。
脳内に互いの思いが交錯する。
これで、最期だ。
心臓部から魔力を掌に集めて、一気に放出した。
「重力操作・下転」




