第五十五話 魔王サン 中編1
サンが纏う灼熱で腕が焼き切れそうだ。痛みを感じずとも、体が壊れては意味がない。
それでも――この距離なら逃れることはできまい。
「光さえも吸い込む重力空間か。たしかにそのスキルは強大だ。しかし……」
サンは俺の掌に自らの掌を合わせた。
「重力操作・極点下転」
俺と同じ……いや、それ以上の重力場が精製される。
魔王城自体が引きずり込まれる。全てを飲み込み無に帰す……!
「いまさらなにを驚いている。我はプラネットシリーズすべてのスキルを使えると言っただろう。貴様のスキルは貴様以上に使えるのだ」
外壁や床が崩れ始めサンの掌の中に収まっていく。
このままでは、俺も、仲間たちも、なにもかも終わってしまう。
「重力操作・終末転界!」
黒い渦は動きを止め、外壁や床の破片が宙に舞ったまま静止した。
これで4度目。3度目の弊害はなんだ……?
残ったほうの腕を見ると、黒く炭化していた。もはや腕としての能力はない。しかし、ここまで黒焦げになって匂いがまるでしない。
――嗅覚が、なくなった。
次に失うのは聴覚か、もしくは味覚か視覚。
三分のニを引いたらそこで戦闘終了だ。
だが、すでになすすべがない。
いくら打開策を考えようとも、サンの圧倒的な魔力、多彩なスキルの前には太刀打ちできない。
俺一人の力では、魔力総量のぶつけ合いになってしまって確実に負けてしまう。
俺のスキルで唯一有効なのは、《重力操作・終末転界》のみ。
だが近づけなくては意味がない。
第一俺の腕がもう言うことを聞かない。スキルの発動は困難だ。
必要なスキル――――
焔を凍らせるスキル。
焔を受けても突破できるスキル。
なにより俺の治癒を行えるスキル。
どれも、俺の仲間たちじゃないか。
俺は最強なんかじゃなかった。
俺には仲間が必要で、なによりも大事だったんだ。
涙なのか血なのか分からない液体が床を濡らす。
いなくなって初めて、大事な存在だと気づくなんて、あまりにも遅すぎる。
すぐそばに、今までずっといてくれたというのに。
クソ……。
もう限界が近い。
けど……《重力操作・終末転界》を解除すれば、無限の闇が襲い掛かって俺は死ぬ。
眼球が破裂しそうだ。
チカチカと目の前に黒い羽虫が飛んでいる。
「ち……く……しょう……!!!」
プッ、と眼球から血が噴き出す。
同時に、世界が動き出した。
サンが笑って口を動かしている。なにかを話しているようだが、俺にはもう聞こえない。
聴覚さえも失ってしまった。
けど関係ない……か。すぐに俺は消滅するのだから。
瓦解していく魔王城。
俺の体も極点下転引きずられていく。
――――――――――なにかが視界の端に映った。
捉えることができないスピードで、サンの後ろから突撃してくる。
目を凝らすと、なにかは人間のようなかたちをしていて、3人で動いていた。
サンは崩れていく魔王城のがれきで気づいていないのか、いまだに俺を見ていた。
――――あたる。
サンの背骨に人間が突き刺さり、そのままサンは吹き飛ばされていった。
人間と目が合う。
ラキア、オリビア、バルト――――
生きて……いたのか……?
もはや城としての力を失った魔王城は崩れ去り、俺たちはフワリと浮いていた。
ラキアに手を握られる。
眩い光が手から全身へと行き渡っていった。
――――失ったはずの右腕が、復活していた。
それだけじゃない、手を握られている感触まで元に戻っている。
ラキアは俺を見て微笑みながら言った。
「カイトさん、無事でしたか?」




