第五十四話 魔王サン 前編
「グオォォォォォォォ!」
燃える。
体が人の体を保てず、骨すら残さず燃え尽きそうだ。
「この程度のスキルですら返せないような生物が……我には向かおうなど、50000年は早いな」
「な……めるな! 重力操作・臨界虚空下転!」
掌に重力を重ね合わせる。臨界点の重力。全てを吸い込む極限の重力場……!
サンの放った焔は跡形もなく消え去った。が、サンは微動だにしない。
マーキュリーですら、少しずつ引き込まれていったというのに……!
「これが人の限界……か。もし貴様が魔獣になることを望んでいれば、我を超える力を手に入れただろうに。そこが貴様の限界値なのだ。マーキュリーごときに右腕を持っていかれるような人間では、我には勝てない」
サンは掌を合わせ魔力を放った。
宙に魔力が揺蕩う。
「炎天、その身を貫く」
無数の火の矢が形成され飛んでくる。
一本一本がマーキュリーが放った彗星の威力、速度を超えている――!
「重力操作・虚空下転!」
重力場を精製し、火の矢を落とす。
だが重力に逆らうようにして火の矢は浮き上がり俺に向かって飛ぶ意思を見せている。
「無駄だ。貴様のスキルはどこまでいっても重力操作一辺倒。魔力総量にあまりにも差がある場合、貴様はスキルを使えない人間と大差ないのだ」
尚も火の矢は浮き上がる。速度は上がり続けて俺を貫こうと嬉々としているようだ。
クソ……!
また時を止めるか……?
そう考えたとき、マーキュリーを思い出す。
この覚醒スキルには、リスクがある。
今のところはなにもないが、もう2回も使用している。ここから思いリスクが降りかかる可能性もある。
かといって《重力操作・臨界虚空下転》も体に負担がかかる。そう何度も使えるスキルじゃない。
だからといってこのままじゃダメだ……!
「重力操作・終末転界!」
俺以外の時が止まる。
時を止めている最中は他のスキルは使えない。
サンが焔に身を包んでいる以上手出しはできないが、奴のスキルは中距離で効果を発揮する。接近戦での《重力操作・臨界虚空下転》なら耐えられまい。
歩きだそうと足を前に出す。
「…………?」
なにかおかしい。あって然るべき感覚がないような……。
もう一歩進む。
やはりおかしい。具足を身につけていないような感覚だ。
「ま……さか……!」
俺は腕を失った右肩の傷口に指を突っ込む。
触れた感覚も、痛みもない。
触覚と痛覚が、消失している……!
これで3度目の発動。次でなにが消えるのか。視覚、聴覚を失うと致命的だ。
ここで終わらせるしかない。
時が動き始めた瞬間に至近距離の《重力操作・臨界虚空下転》で仕留める。
火の矢を掻い潜り、サンの目の前に立つ。
――時間停止解除。
空気が動く気配を感じる。
瞬間、俺はサンの灼熱の体に触れ重力場精製する。
触覚と痛覚がないからこそできるこの一撃。
「重力操作・臨界虚空下転!!!」
もはや痛みを感じることなく発動できる。
無限の闇へとサンを誘った。




