第五十話 人型魔獣マーキュリー 中編1
「クソッ!」
降り注ぐ彗星を避け続ける。
俺と同じ……だって? ふざけやがって。動揺を狙う作戦か?
考えている余裕がない。こんな小型隕石、喰らえばどうなるか分かったものじゃない。
「俺はお前と同じだ。なぜなら元人間だからな」
な――――に?
眼前に彗星が迫る。前転をして躱しきる。
元人間……だと?
「俺は先々代の国王、人間のときの名前はプルートだった」
聞けるような状況でもないのに構わず話し続けるマーキュリー。
耳を背けたくなるような戯言を抜かし続ける。
「俺は死んだことになっているだろうが実際は違う。未開の地を放浪し、そこでサン様に出会い魔獣として覚醒した」
「最大重力操作・虚空下転!」
耳障りな音を消すために部屋全域に重力場を精製して押し潰す。降り注ぐ彗星をすべて叩き落としたが、マーキュリーだけは耐えきっている。
「お前は俺のこの目が飾りだと思っているだろう? たしかにこれまでのプラネットシリーズの目は飾り同然だ。だが俺のは違う。完全に覚醒したもののみが使える目だ」
人差し指で自身の禍々しい青白磁の瞳を指差す。
「……随分とおしゃべりなんだな。大事なことしか話さない主義なんじゃなかったか?」
「ククク、俺とお前は似ているからな。つい余計なことまで話してしまう。だが最後の最後で道を違えた。それが残念でならない」
重力場の中にありながら悠々と手を上げて黒い空間を精製する。
「……んのやろう!!!」
更に重力をかけていく。しかし精製は止まらない。
その数200以上……!
「降り注ぐ吉凶の星」
弾丸のように目にも止まらぬ早さで彗星が降り注ぐ。
俺の《重力操作・虚空下転》がまるで意味をなしていない。
どうする……。
この現状を乗り越えたところでマーキュリーはさらに奥の手を隠し持っている。
とはいえここを切り抜けなければ待っているものは死だけだ。
俺の持てる力……。
少しだけ覚えている。あのとき……ネプチューンと戦っていたときサンの意識下で使っていた力。
今の俺ならできるはずだ。
掌に重力場を精製する。
《重力操作・虚空下転》を繰り返し、繰り返し、繰り返しかけ続ける。
抑えきれないほどの重力場。留めておくことが難しい。今にも弾け飛びそうだ。
掌から腕、肩、頭部までが軋み始める。視界が歪み筋肉が蠕動運動している。
俺では……扱いきれないのか……?
「なにをしようと無駄だ。人間側を選んだ時点でお前の負けなのだ」
彗星が迫る。
重力場は……破裂寸前の中ギリギリで保っている。
「人間側を選んだ時点で負けだと……? 逆だろ、マーキュリー。魔獣に人間の心を奪われた時点で、お前は終わっているんだよ」
重ねて《重力操作・下転》をかける。
掌にできあがったものはただひたすらに黒い、漆黒の球体。
これが……俺が求めた重力操作の臨界点――
「いくぞマーキュリー……重力操作・臨界虚空下転」
圧縮され続けた漆黒の球体は、行き場をなくしたように飛び散った。




