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第四十七話 人型魔獣ヴィーナス 中編

雷神、主に捧ぐ(ヴィトメントドナー)


 再びヴィーナスは雷と化した。

 空気を震わせながら鉄柱の中に身をひそめていく。


「私は遊ぶことなどしません。確実に……殺します」


 鉄柱から鉄柱へ移動しながら話すヴィーナス。真正面からこようとせず、私の隙を窺っている。

 好都合だ。考える時間が欲しかった。

 ヴィーナスのスキルは電気。膨大な魔力で圧倒的力の雷と化している。


 およそ私とヴィーナスの魔力総量の差は300倍はあるだろう。単純なスキルのぶつかり合いではどうしようもない。相性は互角でもパワーが違いすぎる。


 知恵を絞れ、頭を捻れ。

 私の活路はこれしかないのだ。


 まずはこの電気の体をどうするか……。


 考えている間に左の鉄柱から雷が飛びだしてきた。

 

 ……? なにか、違和感を感じる。

 今なにかが変わったような……。


 迫る電撃に対応するためとにかく逃げる。

 空気がバリバリと音を立てる。どの鉄柱に体を隠してもヴィーナスは追尾してくる。


 ん……?

 鉄柱に手を触れる。ガサガサと掌に突き刺さるような感触。

 これは……木……?


 私が鉄柱と見間違えていたのか? そんなはずはない。間違いなく鉄の光沢が見えた。ならばこの木は……?

 そうだ、変わっている。これはヴィーナスのスキルではない。単純なギミックだ。


 こんな手の込んだことをする理由など一つしかない。

 

 私は木から体を出してどこからでも攻められるように立った。


「追いかけっこは終わりですか……いいでしょう。潔く死になさい」


 背後からヴィーナスが現れる気配がした。

 私は振り向いて氷の剣から氷の花弁を繰り出した。


「氷獄紋・百花(ひゃっか)


 親指ほどのサイズの氷がヒラヒラと舞うように私の体を包む。

 その一枚一枚の花弁を木にまとわりつかせる。


「なに……!?」


 ヴィーナスは私目掛けて飛んできたが急に方向転換をして木に衝突した。バラバラに砕け散り一瞬にして黒く崩れていった。氷の花弁も砕け散り舞っていく。

 その後思い出したかのように私に狙いを定める。

 

 思った通りだ。

 電気は抵抗の低い物体に引き寄せられる。ヴィーナスは人間よりも抵抗の低い氷に狙いを変えて突っ込んだ。鉄柱から木に変えた理由もそれだ。鉄柱に身をひそめることはできても攻撃をするときには木に変えなければならない。

 

 私はバックステップで引きつつ氷の花弁を木に巻き付け続ける。

 そのたびにヴィーナスは木を破壊し尽くしていた。


「考えますね……」


 ヴィーナスは電気の体から人間体に姿を変えた。

 そう――――

 これほどの高出力。長く持つとは思えない。


「電気魔獣の時間は終わったか?」

「私の攻撃をここまで避け続けた人間は初めてです。が……」


 ヴィーナスの体がノイズがはしったかのようにブレ始めた。


「これで終わりと思いましたか? …………この雷は眷属のために(イーネンドナー)


 消え――――


 



「…………ガハッ!」


 気づけば木を3本貫き壁に激突していた。銀の甲冑などなんの役にも立たなかったようだ。私の腹にはくっきりとヴィーナスのものであろう足跡がついていた。


「氷獄紋・氷結界」


 体を覆うようにして氷の結界を作り出す。目の端に影を捉えたが――

 次の瞬間には床に叩きつけられていた。目の前にはヴィーナスが立っていた。

 

「電気になるだけが私のスキルだと思いましたか? 私のスキルは2種類あります。1つは私自身の体を電気と化す。2つ目は……電気で運動神経を刺激して私の身体能力を魔獣最高まで高めるものです。あなたでは……億が一勝ち目などありません」


 足の裏で私の顔を踏むヴィーナス。

 床にめり込んでいく。頭蓋骨が軋んでいく音が聞こえる。


 なんだ……なら……まだ勝機がある。

 私の矮小なスキルでも……貴様の心の臓を凍えあがらせることができる。


「氷獄紋・礫」


 私は天井面に氷の礫を幾重にも張りつけた。

 

 さぁ……文字通り震え上がらせてやろうか。

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