第四十四話 人型魔獣ウラヌス 中編
「お前は攻撃が単調過ぎる」
――――2年前。
俺を獄中にぶち込んだオリビアはそう言っていた。
鉄格子を挟んで会話をする。
「当たればてめぇなんかおしゃかだっただろうが」
「当たればな。お前は真っ直ぐ直線的にしかこないから読みやすい。不意を突くような一撃以外当たるわけもないだろう」
腕組みをしながらもっともらしいことを言うオリビア。
それはそうだ。だけどそれ以外道はない。
俺は、真っ直ぐ生きるしかないんだ。
どんなときも、この国をよくするために、俺は搦手なんて使えない。使いたくもない。
最短最速を突っ走るしかない――
◇
「グオッ!」
ウラヌスの蹴り上げをまともに顎で受ける。いかに魔力がそうないとはいえ、何度もくらい続けては命にかかわる。
かといってやたらめったら《爆裂炸手》を発動しても当たりやしない。
八方塞がりとはこのことか。
「ちっ、相性が悪いにもほどがあるぜ」
「相性の問題ではありません。実力の問題です」
後ろから声がする。
振り向くと掌底が顔面にめり込んだ。鮮血が飛び散る。
「フワフワと……飛び回るんじゃねー!」
機械仕掛けの右手であたりを爆発するが、次元の裂け目に入られて逃げられる。
「まったく……あなたの汚い血がマントについてしまいました。もうそろそろお終いにしましょう」
そう言うとウラヌスは正面に現れた。延髄に蹴りを見舞うと、一瞬でいなくなり右から顔面に拳を繰り出す。
スピードが……上がった……?
なすすべなく打撃を受け続ける。
目で捉えることができず、体がついてこない。
クソ……どうすればいい……!
考えても考えてもいい案なんか思いつかない。そりゃあそうだ。今まで一度たりとも考えたことなんてない。
真っ直ぐ、一直線に行くだけだ――!
「ぬおぉぉぉぉ! 爆裂炸手!」
誰もいない空間へと突っ込んでいった。
当然のように壁に頭から激突する。額からおびただしいほど流血していた。
「なにをやっているのですか?」
後ろからウラヌスの声が聞こえる。
うるせぇ。
俺にはこれしかできねぇんだ。
「爆裂炸手!」
ロケット噴射のように再度真っ直ぐ突っ込む。
今度はウラヌスを目掛けて飛んでいったが、あえなく次元の裂け目に逃げられ、またも壁に衝突した。
「まだまだ!」
目には目を、歯には歯を、スピードにはスピード!
どこまで激突しようがウラヌス目掛けて飛んでいってやる。
俺は縦横無尽に爆裂炸手で飛び回った。
食卓など始めから存在していなかったかのように破壊されていく。
ウラヌスに避けられるたびに壁にぶつかるが、俺の長所はこの頑強さだ。
カイトの本気の攻撃を受けても骨が折れて失神程度で済んだ。これくらい屁でもない。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
さらに加速する。
自分でもどうなっているのか理解が追いつかない。
当たる感覚がないことから、まだウラヌスは生きているのだろう。
「い、いい加減にしなさい!」
ウラヌスの声が聞こえる。
けれど関係ない。
俺は飛び続ける。
てめぇが優雅に舞うなら、俺は愚直に真っ直ぐいくだけだ。
「あっ……!」
なんだ?
変な空間に突っ込んだような……感覚をまるで感じない。
と思えばメリメリとなにかに突っ込んだような感触がした。
「ゲ……ハァッ!」
ウラヌスのうめき声と同時に壁に激突する。
俺はそのまま地面に転がり込んだ。
《爆裂炸手》を使いすぎたか、気づけば周りは煙が充満していた。
「ま……さか……次元の裂け目に……ついてくる……なんて」
煙が徐々に晴れていき、ウラヌスの声に反応して顔を上げる。ウラヌスは壁にめり込み息も絶え絶えといった感じだ。
どうやらようやく捕まえたらしい。
「は……ははは。ざまぁみやがれ」
俺はまだ動く。まだ立ち上がれる。
が、すぐ地面が目の前になる。おかしい。自分の足を確認すると左脚の膝から骨が飛び出していた。
左腕の骨も粉々だ。ブラブラと俺の意思に反して動く。
「ここで……私を殺せなかったことがあなたの運の尽きですね」
ウラヌスは腹部を抑えながらも立ち上がっていた。
ダメージの差があり過ぎる。
ここまで……か。
俺は立ち上がることができず、這いつくばるようにしていた。




