第四十三話 人型魔獣ウラヌス 前編
なんだここは?
十人ほど座れそうなテーブル。それから空の皿が並べられている。
見たところ飯でも食べそうな雰囲気だ。
俺はなぜかこんなところに座らされていた。
一人で突っ込んじまったせいか、俺の仲間は誰もいない。
あとでオリビアあたりにどやされそうだ。
――と、テーブルの一番奥に、チョコンと座る少女がいた。
白髪、白のマント、白い目。すべてが純白で穢れなど知らないようだ。
「ようこそ、魔王城へ」
幼い風貌通りの高い声。
案内されたということは、こいつは敵で間違いなさそうだ。
「てめぇは魔王の手下か?」
「手下ではありません。魔王の七番目の子供、ウラヌスです」
「ハッ! 変わんねぇじゃねぇか」
「……野蛮なあなたに理解をしてもらおうと思った私が愚かでした。いいでしょう。私があなたたちの転送先を操った張本人です」
ウラヌスは立ち上がるとマントの裾を両手で上げてお辞儀をした。
「舐めた真似してくれるじゃねぇか。てことはそれぞれ魔王の子供とやらの相手をさせられているってことか」
「そういうことです。そして……」
左手で並べられた空の皿を指し示すウラヌス。
幼い顔立ちには似合わない底知れない笑みをこぼしながら話した。
「あなたたちはこれからこの食卓に運ばれるのです」
先手必勝。
魔獣のくだらない話を聞いている場合ではない。
俺は飛び上がりウラヌスの首を右手で掴んだ。
「喰らえ! 爆裂炸手!」
やすやすと首を掴ませてもらったおかげで、一撃で仕留めることができそうだ。
右手が眩しく光り爆発する――――が。
「宙を漂う一羽の蝶」
ウラヌスがスキルを発動すると、小さな次元の裂け目が出現し、俺の腕ごと飲み込んでしまった。
「なっ!」
「安心してください。別にちぎれたわけではありません。ただワープしているだけです。……あなたの後ろに」
言われて振り向くと、次元の裂け目から俺の腕が飛び出していた。
爆発……寸前の!
倒れ込むようにして避けたが、爆風は避けきれず天井に打ちつけられて受け身を取ることもできずに地面に落ちた。
「グワッ!」
「大変です。せっかく準備したお皿が吹き飛んでしまいました。言葉も野蛮ならスキルも野蛮なんですね、あなたは」
ウラヌスは見下ろすようにして立っていた。
ふざけやがって……!
「野蛮なのはてめぇらの行動のほうだろうが!」
「理解しかねます。あなたたちよりよっぽど上級の種族である私たちが生きるためにあなたたちが必要なのです。それのどこが野蛮なのですか?」
「その考えがすでに野蛮なんだよ。なにが上級の種族だ。ただの殺戮集団がよ!」
起き上がると同時に足払いを繰り出すが、フワリと飛ばれて回避される。
「人間は知能も、身体能力も、魔力も、スキルも、なにもかも劣っているのですよ。私たちの糧になれるだけありがたいじゃないですか」
「ああそうかよ、てめぇらは勝手に上級種族面してろよ! 俺はてめぇらをぶっ殺してこの国を平和に……」
俺の罵声をまるで聞いていないのか、ウラヌスは無表情のまま俺の話を遮った。
「もう話す価値などありません。おとなしく死んでください――――宙を漂う一羽の蝶」
ウラヌスが次元の裂け目に溶け込んでいく。
と思いきや、いきなり俺の右側に現れて脇腹に蹴りを放ってきた。
右ひじと右足で何とかガードが間に合うものの、瞬きの間にすでにいなくなっていた。
殺気を感じ上を見るとウラヌスは上空からかかと落としを脳天に直撃させる。
「グッ!」
少女のかかと落とし、加えて魔力をスキル発動にすべて費やしているのか、攻撃自体に魔力をほとんど感じないため威力はさほどでもない。だが、こうも瞬間移動をし続けられては手出しができない。
舞うように攻撃をするウラヌスは、まるで一羽の蝶のように見えた。
「ちょこまかちょこまかとうざってぇなぁ!」
四方八方爆発し続けるが、ヒラリと躱されては別の位置から攻撃をもらう。
どうすることもできないのか。
またなにもできずに終わっちまうのか……俺は!
俺は目を閉じて雑音にも耳を傾けず、ただ、己が内側に集中した。




