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第四十二話 人型魔獣マーズ 後編

「あー? なんだそりゃあ」


 マーズは口調こそ変わらないものの、一歩引いて身構えていた。

 それも当たり前のことでしょうか。

 私の肌が灰色になって魔力量が急激に上がったのだから。

 たしかに毒々しい紫色の魔力は、自分で見てもおぞましい。


「スキル・万物開放。私の魔力量はさっきの1000倍あります」

「んなことは聞いてねーよ。お前、回復スキルしか使えないんじゃないのか」


 さらに一歩、マーズが下がる。

 まだなにもしていないというのに、明らかに恐怖を抱いている。


「回復は毒と表裏一体です。私は毒のスキルも一応扱うことができます。ただ、あなたに直接毒をかけようとしたところで魔力総量が違いすぎて話になりません。ですから、()()()()()()()()()()()()()()

「あー? 一体どういう……」

「私は基本的に回復が専門ですから毒のスキルを単体では扱えません。だからあなたの攻撃を受けて回復する際に毒を混ぜたのです」


 私の説明が気に食わないのか、マーズは床を踏み抜いて威嚇してきた。


「だからそうじゃねぇって。聞きたいのはお前が短時間で魔力総量を上げた理由だよ」

「聞きたければ今までのように暴力に訴えてくればいいじゃないですか。私は構いませんよ。どのみち……生きては帰さないのですから」


 駆ける。

 軽く走ったつもりなのにもうマーズが眼前にいた。まだマーズは私が動いたことに気付いていない。

 私は手に持ったロッドで胸を殴る。聞きたくもない、骨が砕ける音が鳴り壁に激突する。崩れ落ちてようやく悶絶の声をあげた。


「グオォォォォォォォォォォォォォォ!」


 魔獣の悲鳴はなんてうるさいのか。

 耳をふさぎたくなる。


「ゲハッ! ……お……前……! 人間ごときが舐めやがってッ!」


 マーズは立ち上がり飛び上がった。


幻の焔に戸惑って死ね(ヒッツェシュライアー)


 スキル発動とともにたちまち部屋中が業火に包まれて、マーズの数が十人になった。

 それぞれが私を狙い攻撃してくる。

 

 マーズのスキルは所詮は幻。人の弱みに付け込んで心をもてあそぶスキルだ。

 こんな炎、無視していい。分身は、一番汚い魔力を持つマーズが本体だ。


 私は放出した紫色の魔力を人間を一掴みできるような手に(かたど)りマーズ本体を握りしめる。

 時間は残り僅か。

 ここで殺す。


「ゴハッ! や……べぇって! これ以上やったら本当に死んじまうぞ」


 構うことなく握る力を強める。


「おい! 聞いてんのか! 死……死んじまう!」


 尚、構うことなく握りしめ続ける。


「やめ……ろ! やめてください!」


 マーズのセリフを聞いて、私の中で何かが弾けた気がした。

 空気がいっぱいになって破裂した風船のように。


「孤児院の子供たちが同じことを言っていたとき、あなたはどうしましたか?」


 自分でも信じられないほど口角が上がった。

 そして、果実を潰すように、マーズの命は消え去った。



 私にかけた毒は、痛みと引き換えに魔力総量を限界まで上げる毒。

 少量ですら死に至る人間もいるほどの激痛。それを五度かけた。

 生きては帰れまい。


 最期に……目に光を灯した子供たちを見たい。

 振り向くと全員鉄格子に顔が食い込むほど目一杯近づいていた。

 

「おねえちゃん!」


 そう、聞こえた気がした。

 

 ごめんね。助けてあげられなくて。

 けど、必ずカイトお兄ちゃんが助けに来るはずだから……。

 私は、みんなに迷惑かけないよう、絶対に悲鳴をあげずに死んでいくから。


 みんなは……幸せに……ね――――――




 ――Next is another perspective

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