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第四十一話 人型魔獣マーズ 前編

 ここは……どこでしょうか……?

 カイトさんやオリビアさん、バルトさんもいない。

 あまり広くはなく明るいとは言えない空間。奥には鉄格子のようなものが見える。


「あー、なんだ、お前かよー」


 ぽうっと目の前が明るくなる。照らされた空間に。声の主はたたずんでいた。

 赤いマントに赤いフード。袖からちらりと見える細い腕。

 見間違えるはずもない。こいつは……!


「孤児院を襲った……!」

「マーズ。よろしくー」


 フードを外して骸骨のような顔を見せるマーズ。

 と、照らされたことで鉄格子の中が見えた。

 

「――――――――!」


 そこには、虚ろな目で体育座りをしていた子供たちが収監されていた。

 見たところ傷はなく、体調不良には見えないが、生気をまるで感じられない。

 

「あ……」


 その中の子供たちは見覚えがあった。

 長い間同じ時間を共にした孤児院の子供たち――――


「別にお前に見せるつもりはなかったんだけどなー。ウラヌスもひどいことするもんだ」

「この子たちを……どうするつもりですか」


 血が出るほど拳を固く握りしめる。ピチャンピチャンと床に垂れては跳ねていく。


「あー? どうって……こいつら育てて人間をたくさん作ってもらうんだよ。見ただろう? 俺がガキども食うところ」

 

 頭にダイヤがつけられたロッドを持つ。

 孤児院の子供たちの仇……!


「おいおい、まさか戦うつもりー? お前非戦闘員だろ?」

「……いつ、そんなことを言いましたか」

「強がりはよせよー。お前の魔力は俺の魔力に遠く及ばない。そのうえ回復スキルに特化している。どっからどうみても勝ち目なんてないだろー?」


 分かっている。私の魔力総量はマーズに遠く及ばない。少なく見積もっても100倍は違うだろう。

 加えてマーズのスキルは未だ不明。


 それでも――ほんの僅かな勝機はある。

 

 問答は無用とばかりにマーズを睨む。


「……あー気持ちわり。勇者は殺せってサン様にも言われてるし、お前の大事にしてた子供の前でお前を食らってやるよ!」


 マーズは正面から駆けてきた。私の目の前で左足を軸にして止まり、ハイキックを繰り出す。

 私に避けるすべはない。間一髪、腕で頭部をガードしたものの、吹き飛ばされて壁に激突する。


「万物介抱」


 回復スキルで治癒する。

 死ななければ……この程度、安いもの。

 そう……死ななければ。


幻の焔に戸惑って死ね(ヒッツェシュライアー)


 マーズがスキルを発動する。

 見ると明らかに人数が増えていた。5人……いや、6人?

 一斉に私がいる壁まで詰め寄ってきた。転がるようにして逃げる。さっきまで私がいた場所は拳と蹴りによって壁が大破していた。

 

「逃げ回ってちゃ勝てるもんも勝てないんじゃないのー?」


 マーズの数がさらに増える。分身のスキル……?

 逃げ続けていたが、マーズの拳がロッド越しに顔面にあたる。大きく跳ね飛ばされて鉄格子に叩きつけられた。


「ガッ……!」


 悶絶している場合ではない。回復スキルを使わなければ。


「万物介抱」


 治癒と同時に顔面を蹴り上げられる。鮮血が飛び散る。横目に子供たちが目に入る。

 虚ろな目。けれども私に気づいているのか、わずかな希望の光が見える。

 安心して。必ず助けるから。

 まだマーズは本気を出していない。余裕を見せているうちになんとかしなければ。


 《万物介抱》を発動して回復する。

 これで3度目。


「あーめんどくせー。蹴られりゃ回復して殴られりゃ回復して。いたぶるのは好きだけど、こうも回復されてちゃめんどくさすぎるなー」


 マーズが手をかざすと同時に紅蓮の炎が渦を巻きながら飛んでくる。

 これは……喰らえば死ぬ……!


 だが、炎は私を貫通して子供たちを燃え上がらせた。

 肉が溶けていき、子供たちは徐々にその姿を骨にしていった。


 私がその様子を見ていると、隙をついたマーズの拳がみぞおちに入る。


「そんなにいつまでも回復するなら、心に傷を作ってやるよ、お嬢ちゃん」

「……万物介抱」


 4度目。


 私が驚いていないことに苛立ちを覚えたのか、マーズは私の首を掴んで持ち上げて床に叩きつけた。


「あーイラつくなお前。大事な子供たちじゃなかったのか?」

「万物介抱」


 ――――――――――5度目。


「……もう、充分です」


 私の言葉を降参ととらえたのか、歪な笑みをこぼすマーズ。


「最初っからそう言えばいいんだよ。どう殺されたい?」

「……違います。あなたを殺すにはもう充分だと言ったのです」

「あー、聞き違いか? 今お前は俺を殺せると、そう言ったのか?」

「ええ、耳が悪いならもう一度言いましょうか? あなたを殺すにはもう充分です」


 私は立ち上がりながらマーズに言う。

 心底おかしいのか、腹を抱えてマーズは笑い始めた。


「あーなに言ってんのお前! ボコされすぎて頭おかしくなったのか? この状況でどう俺を殺せるって言うんだよ」


 私は大きく息を吸い込み、これまでのことを考えた。


 カイトさん。

 オリビアさん。

 バルトさん。

 孤児院のみんな。

 お父さん。

 お母さん。


 ――――――悔いは、ない。


()()()()


 私は最期のスキルを発動した。

 

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