第三十九話 倒すべき敵
「王様、ご無事ですか」
「あ、ああ」
王様は歯切れが悪く返答する。
まだ俺に疑いの目を向けているのだろうか。
「カイトよ……すまなかった。お前のことを見誤っていた」
「え?」
つい先日まで俺は反逆者として扱われていたはずだ。
一体なにがあったのか……。
「お前が城からいなくなったあとオリビアとバルトがここにきてな。お前の無実を証明しにきてくれてな。まさか勇者であるガイアが虚偽の申告をするとはな……やつは監獄に収監した。残る勇者はお前たちだけになったが……引き続き魔獣殲滅、頼めるか?」
「それはもちろんですけど……では魔王との交渉は?」
恐る恐る王様に問いかける。
「そんなもの断ったに決まっているだろう! 私の目的はこの国の人々を笑顔にしていくことだからな。まだまだ問題が山積みなことは分かっている。だが内政のほうは任せてほしい」
「その言葉、本当だろうな」
いつの間に後ろにいたのか、ラキア、オリビア、バルトが勢揃いしていた。
バルトの発言に、王様は臆することなく答える。
「当然だ。それが私の責務だからな」
王様は今までと違い精悍な顔つきとなっていた。
魔王と相対して、なにか得ることがあったのだろうか。危機的な状況に陥り、開花したのかもしれない。
「ならいいよ。…………あとは、てめぇだな」
バルトは俺を見据えて言った。
オリビアとラキアも見つめている。
王様もいるこの場で言うのが筋というものか。
深く息を吸って、俺は口を開いた。
「王様、ラキア、オリビア、バルト。本当に申し訳ない。俺は……魔獣の血を受け継いでいたんだ。その血のせいもあるのか、俺はいつしか人間を憎み、魔獣に傾倒するようになってしまった。これは事実だ。けど……血が混じっていようと、俺は人間で、勇者だ。もう迷わない。魔獣は必ず倒す」
俺の告白はみんなにどう響いたのか。表情から窺うことはできなかった。
驚いているような、悲しんでいるような、安堵しているような。
その中、バルトが俺の目の前まで歩いてくる。と同時に――
バルトの左拳が頬に直撃した。
ビリビリと痺れるように痛む。けれど、苦しくない。むしろ、ようやく人として生きていける気分だ。
「……こんなもんで俺は許してやる。けどな、ぶん殴られてこれで救われたなんて思うなよ。てめぇはこれから一生、魔獣側について行った出来事を背負っていくんだよ。それを忘れたら、そんときこそはぶっ殺す」
「ああ、忘れるものか」
改めて全員の顔を見る。
そこにはもう負の感情はなかった。
「カイトさん、よかったです」
いつかのときと同じように、ラキアは俺に抱きついてきた。けれど、あのときとは温もりの感覚が違う。
上手い表現が見当たらないが、体の芯まで温まるような……。
「見せつけているところ悪いが、魔王を追わないとだろう」
オリビアの一言にビクッと体を震わせてお互い距離をとった。
赤面するラキアがやけに可愛く見えたが、そんなことを言っている場合ではない。
「そ、そうだな! けど……あいつらのいる場所は結局分からなかったな……」
「それじゃあ追っかけようがねぇじゃねぇか」
「いや……待てよ……そういえばさっき、ここまできて力の開放を抑えることは難しいと言っていた……なにかするつもりなのか?」
俺が話すと同時に、強烈な振動が城を襲った。
立っていることすらままならず、座り込んでしまった。
強力な魔力の奔流を感じる。
――――――サンだ。
サンが、魔力を開放した。
揺れが収まったあと城を飛び出し外を確認する。
かなり遠い場所で魔力を開放しているから見えないだろうと思ったが、桁が違った。
遥か彼方で天まで届くほどの炎の柱が精製されている。
とどまることを知らずに猛々しく燃え上がっていた。
俺はこのあと倒すべき相手の顔を思い浮かべながら炎を眼に焼きつけた。




